2018年11月20日(火)

自動運転の盲点 「レベル」の進化と安全性は別もの
自動運転が作る未来(16):デンソーに聞く(上)

自動運転
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2017/9/1 6:30
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日経BPクリーンテック研究所

独Audi(アウディ)がレベル3の自動運転車として新型の「A8」を市販すると発表したことで、自動運転レベルの違いがメディアなどで話題に上がる機会が増えている。世界で広く用いられている自動運転レベル1~5は、数字が大きくなるほどドライバーの運転への関与義務が少なくなる。レベル3は一定条件の下でドライバーが運転操作から解放され、レベル5はドライバーレスの完全自動運転だ。

自動運転レベルが高まれば、それだけヒューマンエラーの生じる場面が少なくなるため、安全性が高まると見ることもできる。ただし、レベル3の自動運転車は自動車とドライバーとの間で運転操作の権限委譲を実行するため、その動作が新たな事故リスクにつながるとの指摘もある。そして、そもそも自動運転レベルを決める項目の中に、安全性確保を求める記述はない。

ドライバーが安全に運転操作するための各種支援技術で豊富な開発実績を持つデンソーは、ADAS(先進運転支援システム)の開発に加え、自動運転関連の技術開発を急いでいる。安全性向上のための開発コンセプトとして「いつもの安心、もしもの安全」を掲げ、周辺物認識に欠かせないカメラ、ミリ波レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging:レーザーレーダー)などのセンサーや、センサーが取得したデータを用いた画像処理技術を自社開発してきた。加えて2016年からは、画像処理やAI(人工知能)をはじめとする各種技術分野で他企業との共同研究や協業に乗り出している。

自動車の安全性を追求する立場で見たとき、自動運転技術が作る未来はどうなるのだろうか。デンソー アドバンストセーフティ事業部長の隈部肇常務役員に、自動運転技術の発展が自動車の安全性をどう進化させていくのかを聞いた。(聞き手は日経BP総研 クリーンテック研究所 林哲史)

■対歩行者の安全性を重視

――自動運転によって解決が期待されている社会課題に、交通事故の削減がある。最初に確認したいが、自動運転技術の高さについてはレベル1~5と段階が設定されているが、レベルが高くなるほど、その自動車の安全性が高くなると考えていいのか。

デンソー アドバンストセーフティ事業部長 常務役員の隈部肇氏(写真:西田哲士)

デンソー アドバンストセーフティ事業部長 常務役員の隈部肇氏(写真:西田哲士)

隈部 必ずしもそうとは限らない。安全性を高めることと、自動運転レベルを高める技術的な進化は別のものであるからだ。レベルが上がることで安全性が高まることもあるだろうが、そうならないこともある。レベル2のままでも、安全性を高めていくことはできる。

――安全性を高めるためにはどのようなアプローチが必要なのか。

隈部 我々は、事故・災害の経験則として知られる「ハインリッヒの法則」が、交通事故の場面にも当てはまると考えている。

ハインリッヒの法則では、一件の大きな事故の裏には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハット(事故にはならなかったものの、ヒヤリとしたり、ハッとしたりした事象)があるとされている。運転におけるヒヤリハットの原因としては、ドライバーの疲れ、不安、苦手な操作などがあるだろう。つまり、これらのヒヤリハットをさまざまな技術や工夫で一つずつ取り除いていくことが、交通事故の削減につながると見ている。

――デンソーの開発コンセプトである「いつもの安心、もしもの安全」で言えば、ヒヤリハットを減らす部分がいつもの安心に当たるのか。

隈部 そうだ。我々は事故を分析して、事故が起こる前から起こった後まで、それぞれの時点での運転支援を考えている。「いつもの安心」とは、通常運転時の情報提供や操作代行、危険時の警報など、ドライバーが日常的に行っている認知・判断・操作を支援してドライバーに安心を提供することを意味する。一方の「もしもの安全」は、事故が起こる直前での操作介入と事故後の乗員保護といった緊急時の危険回避と事故時の被害軽減のことである()。

デンソーの開発コンセプト「いつもの安心、もしもの安全」の概念図(出所:デンソー)

デンソーの開発コンセプト「いつもの安心、もしもの安全」の概念図(出所:デンソー)

――安全性を高めるという観点における当面の目標は何か。

隈部 まずは安全なクルマ選びの指針となっている自動車アセスメント「NCAP」(New Car Assessment Program)の要件をクリアすることだ。NCAPをクリアすることは必ずしも簡単ではない。NCAPでは、2016年の昼間の対歩行者向けAEB(緊急自動ブレーキ)に続き、2018年には夜間の対歩行者向けAEBと飛び出し自転車向けAEBが要件となっている。これらの対応は終えているが、2020年には出会い頭の対自動車向けAEBの試験が始まるので、今はその対応を急いでいる。

もう一つは実際の安全、いわゆる実安全にこだわった技術開発を進めることだ。例えば交通事故の原因は国別に異なっており、日本は対歩行者の事故が多い。死亡事故に占める対歩行者事故の割合は全体の3分の1以上だ。こうした傾向は欧米には見られない。だから我々は対歩行者の安全性を重視している。

特に日本には暗い一本道が多く、そうした場所でドライバーが歩行者に気付かずに事故を起こしてしまうケースが少なくない。このような事故を回避できるように、NCAPより厳しい(暗い)条件をクリアすることを開発目標に掲げた。NCAPクリアは当然として、暗い日本の道でも歩行者を認識できる技術を確立すれば、それは世界に通用する。

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