2019年5月21日(火)

がんワクチン AIで安くつくる

2017/8/22 6:30
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NECが2016年末に設立した創薬ベンチャーのサイトリミック(東京・品川、土肥俊社長)は19年春、がんの一部を複製して注射する「がんワクチン」の臨床試験(治験)を始める。複製するのはペプチドと呼ばれ、どんなペプチドを複製すれば体の免疫細胞の働きがよくなるか、候補を効率的に選ぶためNECの人工知能(AI)を活用した。実験費用は10分の1以下になる見込み。

サイトリミックは肝臓がんなど固形がんのワクチン開発を目指している。一般にがん細胞の表面にはがんのたんぱく質の一部がみえている。体内の免疫細胞がそこを目印にして攻撃するよう、ワクチンを使う。

がんワクチンは、がんのたんぱく質と同じアミノ酸の構造を持つ「ペプチド」を人工的に複製したもの。人間が持つ免疫の力を活性化し、がんを攻撃する。体内にある免疫細胞がペプチドをつかまえて覚え、同様のペプチドを持つがん細胞を見つけて攻撃する仕組み。

ひとつのペプチドはアミノ酸が9個つながってできている。たんぱく質はアミノ酸が長く連結したもので、ペプチド単位に分解すると数百~数千個におよぶ。

今回の治験に使うワクチンは従来なら500種類のペプチドを実験して探す必要があったが、機械学習で30種類に絞って実験した。機械学習と実験を組み合わせて候補を見つけ出す手法を使い、最後の候補に絞った。

AIはどう働いたのか。まずランダムに、幾つかのペプチドの実験データを学習した。そして、候補のペプチドを選ぶプログラムの骨格を作った。AIの精度を高めるために必要なデータは人が実験して入力した。

最終的に、AIが「これは効き目があるだろう」と予測するペプチドと、実際に計測してデータのよかったペプチドが、高い割合で一致するようにプログラムを製作。これを使って、種類を絞った。

人間の白血球型が合わなければ、ペプチドの働きが悪くなる。サイトリミックは日本人の85%をカバーする3種類の白血球型に共通して高い活性を持つペプチドを選んだ。多くの日本人を投与の対象にするためだ。

同社のがんワクチンには、体の免疫を全体的に活性化する添加剤にも特徴がある。

添加剤はペプチドと同じくらい重要な物質で、これまで製薬大手などががんワクチンで失敗してきた原因に添加剤の効力不足があると考えられている。

同社が使う添加剤は2種類ある。二本鎖のRNA(リボ核酸)「ポリイノシン酸ポリシチジル酸」と、合成たんぱく質「LAG3│Ig」で、いずれも比較的新しい。特に後者の合成たんぱく質は、がん免疫薬(オプジーボ)と同様の免疫チェックポイント阻害作用もある。

2つの添加剤と従来型の添加剤をそれぞれがんワクチンに追加して比較したところ、従来型は全てのマウスでがんが悪化した一方、新たな2つの添加剤は全てのマウスでがんが消失した。

同社はこれらの添加剤を開発した海外企業と使用契約を結んでいる。

NECは1991年から機械学習の基礎研究を始め、どこに使うか考えていた。「2000年ごろには50人近くのバイオ研究者が創薬や診断への応用を目指していた」とサイトリミックの土肥社長。だが、事業には結びつかなかった。

潮目が変わったのは10年ごろ。がん免疫薬が米国で承認され、免疫療法が実用化され始めたため、創薬事業として独り立ちすることになった。

NECは4割出資する筆頭株主だ。「NECのAI技術で見つけたがんワクチンを早期に実用化したい」と土肥社長は話している。

設立の背景には山口大学などとの共同研究の成果もある。山口大が16年1月、NECのがんワクチンをヒトに投与する試験を始めた。肝臓や胃、食道などのがん患者14人に使った。肝臓がんで13カ月、食道がんで10カ月にわたり進行がストップするなど一定の効果が確認できた。

これは研究目的の試験だったが、正式に薬の製造販売をにらんだ治験へ踏み出すことになった。2種類のペプチドと2種類の添加剤をミックスしたがんワクチン「CYT001」が対象だ。今年秋に、治験開始の許可に必要な動物実験データの取得を始める。その後、固形がんを対象とした治験を19年4月に始める。

土肥氏はがん免疫療法に注目が集まるなかで、製薬企業の関心を感じるという。「海外の製薬企業と接触している」と話す。開発権や販売権を売ることが目標だ。(野村和博)

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