鴻海、EV市場へアクセル 米拠点の構想

2017/8/22 6:30
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電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、電気自動車(EV)やコネクテッドカー(つながる車)分野の開拓を加速する。郭台銘董事長が、このほど米国で新たな研究開発拠点を設ける構想を表明した。低コスト生産を追及してIT(情報技術)製品の価格低下を主導してきた鴻海の動きは、EVの本格普及を後押しする可能性がある。

ホワイトハウスで握手するトランプ米大統領(左)と鴻海の郭台銘会長(7月26日)=ゲッティ共同

ホワイトハウスで握手するトランプ米大統領(左)と鴻海の郭台銘会長(7月26日)=ゲッティ共同

「ミシガン州での投資に向け、評価・検討をしている」。鴻海は6日にこうした声明を出している。一部中国メディアによると、米中西部ミシガン州のスナイダー知事が、中国・深圳にある鴻海の工場を訪問。案内した郭台銘董事長が、同州でEVや自動運転車、コネクテッドカーの研究開発拠点を築く構想を表明した。

鴻海は昨年に買収したシャープと連携し、米国で中小型の液晶パネル工場を建設する構想もある。シャープにはパネルだけでなく、映像関連や通信技術での貢献も期待する。米国でクルマ向けの電装品の供給網を構築するため、その技術力をフル活用する考えだ。

鴻海は、2013年にクルマ向け電装品を手掛ける部門を集約した事業群を新設している。15年には中国・騰訊控股(テンセント)などとEVの研究開発で提携。今年3月にはEV向け電池を手掛ける中国・寧徳時代新能源科技への出資を発表するなど、EV関連需要の取り込みに向け手を打ってきた。しかし、主要生産拠点を置く中国での動きが中心だった。

今回のミシガン州での構想が実現すれば、米国での取り組みが加速する可能性がある。郭氏は米テスラのEVを保有し、鴻海はエンジンカバーなどの部品の製造を担っているとされる。

サーバーを納めるグーグルや、スマートフォン(スマホ)を製造受託するアップルなど関連の深い米IT大手は軒並みEV市場に注力しており、鴻海はチャンスが大きいとみる。

「市販価格で1台1万5千ドル(約165万円)のEVを受託製造したい」。郭氏は14年にこう述べたことがある。IT大手などと連携を深め、あくまで電装品などの関連需要を狙うのか。それとも将来はEVを丸ごと製造し、自動車メーカーに戦いを挑むのか、具体的な戦略の全貌はまだ見えない。

IT分野の水平分業を進め、産業構造自体を変容させた実績は侮れない。IT製品の製造で最も高いコスト競争力を持つだけに、自動車業界にも「EVが一般化してくれば、価格と品質が競争の軸となる。鴻海はパソコンやスマホでの成功体験を、EVで再現しようとしている」(日本車メーカーの関係者)という見方がある。拠点整備に始まる郭氏の構想がどう具体化していくか。今後の動きから目が離せない。

■取引先も翻弄されるスピード感

「鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘董事長からオフレコで、米国で300億ドル(約3兆3000億円)を投資する計画だと伝えられたよ」。トランプ米大統領は1日、企業関係者を集めた会合でこう明らかにした。計画が固まっていない段階でも、投資や事業構想をどんどんぶち上げるのが郭氏のスタイル。あまりのスピードに取引先は翻弄されている。

郭氏は先月、米ウィスコンシン州でパネル工場建設などに100億ドルを投じると発表したばかりだ。次世代の超高精細放送規格「8K」を中心に関連産業の「生態系」を築く構想。米投資の「始まりに過ぎない」(郭氏)。300億ドルの信ぴょう性は不明だが、早くも米ミシガン州で次なる投資構想が出てきた。

パネル工場の実現にはガラスや製造装置などのサプライヤーの参画が欠かせない。ただ中韓勢の工場新設計画が目白押しで、鴻海自身も、3月に中国・広州で世界最大級のパネル工場の建設を始めたところだ。「参画への評価や検討が間に合わない」(台湾のパネル部品会社)との悲鳴が上がる。

郭氏は2015年、インドメディアに対し「20年までに(現地で)10~12工場を立ち上げる」と表明した。ただ同社の年次報告書ではまだ拠点は数カ所にとどまる。有望でないと判断すれば方向転換をためらわない。

白人至上主義団体と反対派への対応のまずさなどから、トランプ氏も米国の経営者から反発を受けている。米投資の行方はまだ曲折もありそうだ。

(台北=伊原健作)

[日経産業新聞 8月22日付]

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