2017年12月15日(金)

音波で銅からスピン流の生成に成功 慶應大学など

BP速報
2017/8/21 23:00
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日経テクノロジーオンライン

 慶應義塾大学と東北大学、日本原子力研究開発機構らの研究グループは2017年8月18日、銅(Cu)に音波を注入することで、電子の持つ磁気の流れ「スピン流」を生み出すことに成功したと発表した。磁石や貴金属を必要としない省エネルギーな磁気デバイスの実現が期待される。

 スピン流を流す際に発生する熱量は、電流よりもはるかに小さいことが知られており、不揮発性メモリーなど省電力デバイスの開発が精力的に進められている。一方、これまでスピン流生成にはプラチナ(Pt)のような貴金属や磁石が用いられており、銅のようなありふれた安価な金属は不向きとされてきた。

 日本原子力研究開発機構は、2013年5月に室温で磁気を持たない銅やアルミニウム(Al)などの金属でも、マクロな角運動量を与えることで、金属中に電子のスピンの方向がそろった状態(スピン蓄積状態)を作ることができる理論を発表した。スピン蓄積は、自転方向のそろった磁気の流れであるスピン流の源となる。

 この理論は、物質に回転を与える音波を使うことで銅からスピン流を生成できることを予言したもの。しかし、音波によって金属原子に与えられる回転は、空間的に不均一かつ時間的に回転方向が変動するため、スピン流も同様に空間的に不均一で向きも時間振動し、これまで検出が困難だった。

(a)SAWフィルター素子の構造、(b)レイリー波による交流スピン流の生成、(c)交流スピン流による磁気量変化およびレイリー波振幅の減衰、(d)磁気量変化によるレイリー波の振幅減衰量(図:3者共同のニュースリリースより)

(a)SAWフィルター素子の構造、(b)レイリー波による交流スピン流の生成、(c)交流スピン流による磁気量変化およびレイリー波振幅の減衰、(d)磁気量変化によるレイリー波の振幅減衰量(図:3者共同のニュースリリースより)

 研究グループは今回、1秒間に10億回以上の速さで原子が回転するレイリー波と呼ばれる音波を銅に注入することで、スピンの方向が周期的に変化する「交流スピン流」を生み出し、磁石の磁気量を大きく変化させることに成功。理論の予言通りであることを証明した。

 特定の振動周波数と波長を持つレイリー波のみ伝搬できるSAW(表面弾性波)フィルター素子を作製し、レイリー波を生成するアンテナと、伝搬したレイリー波を検出するアンテナの間に、銅と磁気を持つニッケル(Ni)・鉄合金(Fe)を重ねて貼り付けた。銅にレイリー波を注入すると、銅原子が高速に回転してニッケル・鉄合金の方向に流れるスピン流が生成される。

 このスピン流は、ニッケル・鉄合金の磁気量を変化させる能力を持つ。この時、レイリー波のエネルギーの一部は磁気量の変化に利用されるため、レイリー波の振幅が小さくなる。磁場を用いてレイリー波と磁気量の変化の周波数を一致させると、レイリー波の振幅が大きく変化する現象を発見した。

 この現象は、銅を取り除いたり、銅とニッケル・鉄合金の間にスピン流を通さない酸化シリコン(SiO2)を挟むと、ほぼ消失する。さらに、銅を厚くすることで磁気量の変化を簡単に増加できることも発見し、デバイス応用の観点から極めて有望な技術であることを明らかにした。

 SAWフィルター素子は、スマートフォンなどの携帯端末に広く搭載されている。今回実証された新スピン流生成法は、このSAWフィルター素子を用いてスピン流を生成し、携帯端末内で情報記録やデジタル情報処理を行う磁気デバイスの機能動作を省電力に制御できる可能性を示した。磁石や貴金属を必要としないため、安価なレアメタルフリー技術として大きく貢献するという。

 今回の研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)の補助を受けて行われた。研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」に2017年8月16日(現地時間)付でオンライン掲載され、掲載記事の中で特に重要かつ興味深い成果としてEditors' Suggestion(注目論文)に選ばれた。

(ライター 工藤宗介)

[日経テクノロジーオンライン 2017年8月21日掲載]

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