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今度はマーリンズで イチローとジーター氏の接点

スポーツライター 丹羽政善

監督は中間管理職。大リーグではそんな位置づけともされる。多くのケースで、選手の起用から采配まで、ゼネラルマネジャー(GM)やその上司にあたる編成部門の社長から指示があり、自由にというわけにはなかなかいかない。ある先発投手を、球数が110球を超えて続投させたとする。監督は試合後、GMから説明を求められる。力が似通った2人の野手がいるとしよう。監督は「A」という選手を使いたくても、GMから「B」という選手を使ってくれと言われれば、従わざるをえない。

野球未経験、フロントに少なくなく

もちろん、そこには常に火種をはらむ。

さすがに大リーグの監督ともなれば、野球経験のない人はいないが、今の時代、フロントには野球未経験という人も少なくない。現在、GMもしくは編成部門の社長の中でメジャー経験があるのは、マリナーズのジェリー・ディポト氏ただ一人だけなのである。監督にしてみれば「現場のことがわかるのか!」と声をあららげたくなることもあるだろう。ただ、それを口にすれば、自分のクビが飛ぶ。データではこうなっているからこういう野球をしてくれといわれれば、理不尽にも目をつぶる。

それがしかし、選手らにはどう映るか。

「野球をやったことがないやつを現場に入れているから、ややこしくなっている」

イチローもそう嘆くわけである。

ちなみに、どんな人がGMや社長に就いているかというと、GMのうち11人、社長のうち6人がアイビーリーガーという超高学歴社会である。アイビーリーグ以外にもマサチューセッツ工科大学(MIT)、アムハースト大、ウェズリアン大の出身者がいて、出身校のリストはまるで政界や経済界のそれである。そんな彼らは野球未経験であっても、難解な統計学を駆使して客観的に選手を評価するセイバーメトリクスに精通し、最近ではトラックマンなど投球の解析装置から得られるデータ分析にたけ、のし上がった。

「まぁ、しょうがない。そういう時代だよね」

イチローが言う「そういう時代」とは、野球経験がなくとも、机上で選手評価ができてしまうような流れか。

正統派のフロントマンが誕生

さて前回、イチローはそんなトレンドにやや悲観的で、「野球界としては憂うべきポイント」と指摘したわけだが、元ヤンキースのデレク・ジーター氏らのグループがマーリンズを買収する見通しとなった。結果、そんな流れに一石を投じることになるかもしれない。ジーター氏がチーム編成にも責任を持つことになるようで、そうなれば今の時代では異端ながら、むしろ、正統派のフロントマンが誕生する。

もちろん、名選手が必ずしも名監督になるわけでないのと同じで、彼がいいフロントマンになれるかどうかも未知数だ。それでも彼が到底、選手評価をデータチームに丸投げするとは思えず、野球を知り尽くした人が全てを取り仕切る。どれだけ選手は安心することか。

なにより人の上に立つ資質において評価が高い。2014年9月25日、ジーター氏はヤンキースタジアムでの最終打席でサヨナラヒットを放ったが、試合後にイチローがこうジーター氏について話したのが印象に残る。

「ジーターの場合、やっていることに言っていることが伴っている。だから、人の心が動く。それは当然だと思う。聞いている人にそれが本物の言葉かはわかるでしょ? 人を見てきた人たちには。誰が言うか、ということが、ジーターは完全にできている。同じことを言っても、意味が変わるだけの蓄積がある」

ジーター氏がクラブハウスで「ちょっといいか?」と口を開けば、誰もが手を止めて耳を傾ける。そのときのちょっとしたひと言が重みを持つ。

なぜか。イチローはこうも話していた。

「ありのままだからじゃないですか。ありのままの人だから」

同じころ、こんなことがあったのを覚えている。14年9月7日、ヤンキースタジアムでジーター氏の引退セレモニーが催され、試合後に記者会見が行われた。テーブルの上には録音のため、ICレコーダーやスマートフォンがずらりと並んだが、会見の最中、そのうちの1つが振動を始めた。電話がかかってきてしまったのだ。するとマイクの前のジーター氏が「おっ、誰かに電話がかかってきたぞ」と言いながらその携帯を手に取り、発信者のIDを見ながら続けた。「ウォルト・レインハイマーさんからだ」

苦笑が漏れる中、どうするかと思ったら、なんとジーター氏はその電話に出た。

「ウォルト、後でかけ直すよ」

ユーモアセンスもさることながら、恥ずかしい思いをしているであろう記者も救う。未来永劫(えいごう)、語り継がれるような選手による、そんなさりげない気遣いに彼の人間的な魅力がにじみ出ていた。彼がいたからこそ、彼がいた時代のヤンキースはやはり強かったのである。

イチローをどう位置づけるのか

さて、そんなジーター氏が率いるマーリンズでイチローはプレーすることになるのだろうか。

イチローの来季の契約選択権は、マーリンズが持つ。つまり、ジーター氏が判断することになる。まだジーター氏はチームの構想について語っていないが、その中でイチローをどう位置づけるのか。もちろん、ジーター氏が真っ先に考えなければならないのは、柱となるような先発投手の獲得だ。そのためにたとえば、ナ・リーグの本塁打部門を独走するジャンカルロ・スタントンをトレードするというのなら、伴ってイチローの価値も変わってくる。

どこへ、どうカジを切るのか。

正式な球団売却成立はシーズン終了直後の見通し。ジーター体制は、そこから始まる。

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