/

2010年代はアニメ黄金時代 名作続々、全世代つかむ

NIKKEI STYLE

子どものものから全世代が楽しむ時代へ――。日本のアニメーションが誕生して今年で100年。なかでも「アニメを変えた」エポック的作品が多く出ているのが2010年代。このアニメ黄金時代にスポットを当て、ヒットの理由を分析した。

16年8月公開の新海誠監督の映画「君の名は。」が興行収入249億円に達し、100年の節目を迎えた日本のアニメーションは新たな一歩を踏み出した。

「あらゆるコンテンツのなかで、アニメはものすごく強くなってきている」。「君の名は。」大ヒットの立役者、東宝映像事業部に所属する宣伝プロデューサーの弭間(はずま)友子氏はこう話す。

その契機は、2010年代初頭にある。アニメの市場規模は、直近の16年度で1.8兆円超(日本動画協会調べ)。05~11年度までは1.3兆円台を推移していたが、5年で40%増となった。なぜここまで伸びたのか。

大きな要因の一つが深夜テレビアニメの台頭だ。エポックとなったのが、11年放送の「魔法少女まどか☆マギカ」。劇場版は大作映画の合格ラインといわれる20億円を、深夜アニメ発で初めて突破する快挙だった。

今、大ブームとなっているアイドルアニメの形も、11年の「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE」シリーズや「ラブライブ!」に始まったもの。さらに、12年の「黒子のバスケ」を皮切りにスポーツアニメが軒並みヒット。

独自の世界観 深夜発が台頭

勢いの根底にあるのが、作品力だ。「まどか☆マギカ」は、愛らしい少女たちの過酷な運命を描き、独特な世界観もあいまって瞬く間に人気化。アイドルアニメも圧巻のライブシーン、そして声を務める声優たちがリアルに歌い踊るという展開が、ファンを驚かせた。原作のあるものでも「おそ松さん」は6つ子を大人に成長させ、ポップな絵柄や多彩なバラエティー感が相当に新しい印象に。

名作続発の背景にはいくつか理由がある。まずは10年代に監督やスタジオ、販社など担い手が一気に増えたこと。スタジオジブリに代わり、細田守、新海誠、米林宏昌と、夏のオリジナルアニメ映画を担う監督の層が厚くなった。「この世界の片隅に」の片渕須直監督、映画「聲の形」を成功させた山田尚子監督も、その確かな力で、小中規模公開からのロングラン、大ヒットへとつなげている。

制作側の顔ぶれも多彩に。東宝では12年に専門部署を立ち上げ、小中規模の劇場版の配給や、テレビアニメ制作に着手。「PSYCHO-PASS サイコパス」「ハイキュー!!」が人気作に。続いて14年、レコード会社のエイベックスがエイベックス・ピクチャーズ(東京・港)を設立。「おそ松さん」や、新興スタジオのMAPPAと組んだ「ユーリ!!!on ICE」などヒット作を連発した。

老舗の東映アニメーションがデジタル制作のテレビシリーズ「正解するカド」を発表するなど、フルCGやデジタル化が進んだのも10年代。新しい技術も作品人気の一助となっている。

薄れる抵抗感 大人も劇場へ

こん身の作品を見るためにお金を払う人が増えている。「名探偵コナンがいい例。大人になってもアニメから卒業しない人が増え、アニメを見に劇場に行くのに抵抗感がなくなった」(弭間氏)。近年アニメ映画は活況を呈しており、興行収入ランキングのトップ10の過半数がアニメだ。「名探偵コナン」が20周年を超えて最高興収を出す一方、深夜アニメの劇場版からも20億円超の作品が続出。少数のコアなファンがパッケージを買うだけでなく、万単位のライトな層が、映画の入場料1800円を払うようになったというイメージだ。

ビジネス面でも、グッズ以外に企業や地域活性化、さらに女性誌が取り上げるなどタイアップがスムーズに。「マーチャンダイジングの部分でいうと、決裁権を持つ人たちが、アニメを見て育った30代後半~40代になってきているのが大きい。理解があるなかで、自由に展開できている」と、サンライズ(東京・杉並)の宮河恭夫氏。

こうした中、起こったのが「君の名は。」の大ブレイクだ。冒頭の弭間氏は「アニメを見る方々は従来、不特定多数な実写大作に比べ、送り出す側との距離が近かった。だからこそ、自身で原作・脚本・監督を務める新海作品は、その良さを伝えやすかった。宣伝として洋画大作並みの大規模試写を行い、LINE LIVEも使ったことで、作品の魅力が拡散した。今は、良い作品はSNS(交流サイト)で想像をはるかに超えて広がるのだとも感じている」と語った。

(日経エンタテインメント!8月号より再構成 文・山内 涼子・平島 綾子)

[日本経済新聞夕刊2017年8月19日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません