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ボルトが残したもの クリーンさ貫いた競技人生

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2017/8/17 16:28
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 ロンドンで開かれた陸上の世界選手権が閉幕した。今大会限りでの現役引退を表明していた男子短距離のウサイン・ボルト(ジャマイカ)は200メートルを捨てて臨んだ100メートルでまさかの3位、400メートルリレーは途中棄権。異次元の走りで世界を驚かせてきたレジェンドのまさかの終末だった。再び栄冠に輝くことなく、静かに競技人生の幕を下ろしたボルトが我々に残したものは何だったのか。男子100メートル日本記録保持者の伊東浩司らを育てた宮川千秋・東海大名誉教授に寄稿してもらった。

宮川千秋氏

宮川千秋氏

ボルトが個人種目で大事にしてきた200メートルを回避し、100メートル1本に絞ると聞いた時点で「ベストの状態ではないな」と思った。それでいて「体調は100パーセント。問題ない」と強調。いつになくアピールする姿がかえって、自信も薄れていることを感じさせた。

体力的に限界に来ていたか

ふたを開けてみると不安は的中する。100メートルは持ち味の後半の伸びが全くなかった。早くから他の選手に先行されて焦り、上体が力んだ。9秒95の3位。このレースに限ってはボルトがただのスプリンターになってしまった。今月21日で31歳。まだまだ若いが、異次元のスピードで多くのレースをこなす過程で体が強いられた負担は大きく、体力的に限界に来ていたということだろう。

昨年のリオデジャネイロ五輪で100メートル、200メートルを3連覇。そこで引退してもおかしくなかったが、このスーパースターのいない世界選手権など考えられない。リオで見た夢の続きを再び、と望むファンの声に応える形で今回のロンドンを花道に選んだ。

男子100メートル決勝で3位に終わったボルト(右端)=共同

男子100メートル決勝で3位に終わったボルト(右端)=共同

ファンを第一に考える姿勢は400メートルリレーで予選から出場したことにも表れていた。100メートルでまさかの敗戦、それも3位。リレーでも多くは望めないとなれば、まずリレーの予選は出ない。そこで「強行出場」したのは最大限のファンサービスだといえる。予選と同じくアンカーで出た決勝は、前を行く英国と米国を猛然と追い上げ始めた矢先に左太ももがけいれん。無敵だったボルトが苦悶(くもん)の表情でトラックに倒れ込む姿は衝撃以外の何物でもなかった。

ラストランを全うできずにキャリアに終止符を打たざるを得なかった無念はいかばかりか。それでも、立ち上がったボルトはファンへの感謝と謝罪の気持ちを伝えるかのように、頭の上で手をたたいた。ジャマイカの2走、ジュリアン・フォルテは「ボルトはずっと謝っていたが、その必要はないと僕らは答えた」と話したという。ファンも同じ思いだろう。

スポーツの醍醐味は究極のトレーニングをして、薬物に染まらずクリーンに戦うこと。その体現者の最たる存在がボルトだった。陸上に限らずあらゆる競技でドーピング違反がはびこり、競技力の正当性が問われる事例がある中、ボルトは100メートルで9秒58、200メートルで19秒19の世界記録を打ち立てた。これだけの記録をドーピングに頼らずクリーンに出したのは、まさに人間そのものの力。我々は彼から、人間の可能性の無限さを学んだのだった。

今大会の100メートルを制したのはジャスティン・ガトリン(米国)。ボルトを破るという積年の思いを果たした彼だったが、ロンドンのファンが送ったのは喝采ではなくブーイングだった。今大会が開かれた英国は薬物違反に厳しい目を持つスポーツ先進国。そのプライドは、2度のドーピング違反で資格停止処分を受けた過去のあるガトリンをいまだに許していないのだ。

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