2019年2月17日(日)

感覚に頼らずデータを駆使 中田崇志(中)

2017/8/20 6:30
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視覚障がい者ランナーは自分のランニングフォームを見ることができない。「だから、フォームの状態を修正するときは数値を示す必要がある」と中田崇志は言う。

コンビを組む和田伸也が胸に装着する心拍ベルトとセットになる全地球測位システム(GPS)付きランニングウオッチを自分の腕にはめ、ピッチ、足の接地時間、上下動、左右の蹴りのバランスなどのデータをチェックし続ける。

自分のフォームを見ることができない視覚障がい者には数値で示す必要がある

自分のフォームを見ることができない視覚障がい者には数値で示す必要がある

ランニングウオッチは自分の分もはめ、データを比較しつつ「上下動が何センチ大きくなっています」と伝える。中田は自分の練習でも、市民ランナーへの指導でも感覚に頼らず、データを駆使する。「計測機器が開発されているのだから、有効利用した方がいい」

NTTデータに務める中田は東京に住むが、和田は大阪在住で、ふだんは多くのランナーの協力で練習を積んでいる。中田はその練習データを監視する。どこで誰の伴走で、どんなペースで走ったのか。気象条件、起伏、心拍数、上下動はどうだったか。2人で練習に取り組むときのために、日々の練習の流れをつかんでおく。データから和田の疲労度が想像できるので「もっと追い込めるはずです。力を出し切ってください」と厳しく注文できる。

中田の伴走に関する考え方は特異なものだ。視覚障がい者ランナーを支えるというより、「分業を敷いて勝利を目指す」と捉えている。練習メニューの組み立て、レース展開の予測と戦略、ライバルとの駆け引きは中田が受け持ち、和田は走ることに徹する。

冷徹なこだわり「メダル取ってこそ」

2012年ロンドンパラリンピックで和田はマラソンをメインに戦いたいと主張し、「これまでお世話になった方々にマラソンで恩返しがしたい」と言った。中田は初めて和田と走ったときから、スピードのある和田の資質は5000メートルに向いていると分析していた。「僕の頭には恩返しという概念はない。勝つか負けるか。僕も勝ちたいんです。だから5000メートルでメダルに挑んでもらいたいと考えた」

各国のマラソン選手のブログなどから練習内容を調べ、大会の成績とともに和田に何度も突きつけ、「彼らが相手ではメダルは取れない」と訴えた。最終的に和田が納得し、練習の軸を5000メートルに置いて、銅メダルを獲得した(マラソンは5位)。

中田が冷徹になってメダルにこだわるのは04年アテネパラリンピックで金メダルを取った高橋勇市のその後を見ているからだ。高橋は全国を巡り、子どもたちにメダルに触れてもらった。メダルを首から提げるリボンはボロボロになっている。「みんなに喜んでもらえるのはメダルを取ったからこそなんです」

だから、ロンドンで和田にもメダルを手にしてほしかったのだという。16年のリオデジャネイロパラリンピックではメダルに届かなかったものの、1500メートル、5000メートル、マラソンの3種目で入賞という快挙を成し遂げた。中田が発する熱情が和田の心を奮わせている。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊8月15日掲載〕

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