慶応大 再生医療用細胞シートの血管作るマット
慶応義塾大学の長瀬健一准教授らはシート状に培養した細胞と一緒に生体に移植すると、細胞シート内での血管形成を促すマットを開発した。樹脂製のマットから血管形成を促進するたんぱく質を徐々に放出する。細胞シートの内部まで酸素や栄養が行き渡るため、従来より厚いシートを移植できるようになるという。細胞シートを利用した再生医療の幅が広がるとみている。

新手法は東京女子医科大学などと共同で開発した。ポリビニルアルコールという生分解性の高分子を使い、不織布と同じ原理で薄いマットにする。電圧をかけながら溶液を噴射すると布状に加工できる。
PLGAという別の生分解性高分子で血管促進作用のあるたんぱく質を包んで微粒子を作り、マットの繊維に付着させる。これを移植するとPLGAが溶け、中に入っているたんぱく質が徐々に放出される仕組みだ。1日かけて約7割のたんぱく質が放出されるという。
マットの効果はラットへの移植実験で調べた。心筋細胞のシートを6枚重ね、マットと一緒に移植すると、2週間後にはシート内部に血管ができた。マットを使わない場合と比べ、約2倍の厚さの心筋組織ができた。マットが放出するたんぱく質が血管形成を促した結果、心筋シートが生着しやすくなったとみられる。
従来、心筋シートを4枚以上重ねて一度に移植するのは難しいとされてきた。シートが厚くなると血管の形成が間に合わなくなり、酸素や栄養が十分に行き渡らず、細胞が死んでしまう。
細胞シートを利用する再生医療では、十分な治療効果を得るために厚いシートの移植が必要になる場合もあると考えられている。長瀬准教授らは開発したマットを使えば、細胞シートの用途が広がるとみる。今後さらに厚いシートの移植や、肝臓など心臓以外の細胞への効果などを検証する方針だ。
(越川智瑛)
[日経産業新聞 2017年8月15日付]