2019年8月20日(火)

外国人富裕層向けの船のチャーター事業
広がる商機、課題は山積

2017/8/18 18:59
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家族や親しい友人だけで、日本の美しい海の旅を楽しみたい――。そんなニーズがじわりと高まっている。数千人が乗れる大型客船の日本周遊航海が人気を集める一方、少人数で貸し切る大型ヨットやクルーザーによる航海も注目を集めつつある。欧米富裕層も狙ったビジネスで、瀬戸内海などが有望だが、東京湾には係留施設が十分になく、日本に寄港する際の手続きが煩雑といった問題もある。

カナダの仲間と大型ヨットで2週間の旅

日本に定住し、福岡市や山口県周防大島を拠点にヨットを楽しんでいるカナダ人のカーク・パタソンさん(63)は今年5月、カナダからやってきたヨット仲間やその家族10人と、瀬戸内海や京都を2週間旅行した。

カナダ人が瀬戸内海をクルーズしたヨット(愛媛県今治市、パタソン氏提供)

カナダ人が瀬戸内海をクルーズしたヨット(愛媛県今治市、パタソン氏提供)

岩国空港で合流して、最初は周防大島の民宿に3泊。カヤックに乗ったり、山を登ったり、貸し切りバスで島内を観光したりして過ごした。その後、愛媛県弓削島在住のニュージーランド人から大型ヨットをチャーターし、愛媛県の松山、今治、大三島、弓削島、香川県の仁尾(三豊市)をまわって広島県の尾道へ行った。そこから貸し切りバスで京都に向かった。

松山では海の駅「うみてらす」の係留施設を利用し、地元の酒蔵を見学して、海鮮料理に舌鼓を打った。今治ではバスをチャーターしてタオル工場を見学し、居酒屋や温泉にも出かけた。弓削島では電動自転車を借りて島を一周。香川県の仁尾マリーナに入港する時は、岡山県のテレビ局の取材を受けた。バスで金比羅山に行ったり、讃岐うどん製造体験をしたり、異文化を大いに楽しんだ。京都では旅館に3泊し、寺社めぐりや和食を堪能した。

パタソンさんは、ビジネスマンとして日本で25年あまり過ごし、日本語も堪能。あらかじめ下見して訪問先を選んだ。

瀬戸内海を航海

瀬戸内海を航海

費用はカナダからの飛行機代を別として、一人40万円あまり。旅が終わった後で、パタソンさんが友人たちにアンケートをとったところ、「人数が10人では少し多い、8人くらいが妥当という意見があったが、その他は超満足。値段も妥当という感想だった」という。

船長・ガイド確保が課題

日本を訪れた外国人旅行者は2016年におよそ2400万人、東京で五輪・パラリンピックの開催が予定される20年に4000万人が政府の目標になっている。日本は海に囲まれ、観光資源としても海の魅力は大きいものの、定期旅客船や屋形船など楽しむ手段は限られている。欧米のようにプライベートボートによるクルーズは珍しい。

瀬戸内海は風光明媚で、港から港、島から島への距離が短く、波も穏やか。海外リゾートで日本人顧客向けにヨットのチャーター事業などを手がけた専門家も「広島の訪日客は欧州が圧倒的に多いので、ヨットチャーターとしては、最有力エリア」(広島県福山市のテクノレジャー社の神谷吉紀社長)という。

尾道ではマリーナ発の水上飛行機による観光遊覧飛行も始まっている。神谷氏もプラン作りにかかわったヨットによる宿泊型クルーズが今秋、岡山県玉野市の宇野港を拠点に始まることも固まっている。

日本の海を見て、ヨットを楽しみたいと思う外国人は多いものの、ヨットのレンタルが外国ほどは普及していない。タイやインドネシアなど他のアジア諸国と比べても立ち遅れが目立つという。また、漁業とレジャーは利害が衝突しがちで、民間の事業者だけで解決しきれない課題を抱えている。それでも旅客12人以下、20トン未満の小型船舶に限って考えれば、営業運転できる船長を探すことは比較的容易だ。

2020年五輪でどう対応?

「大型ヨット用の係留施設をもっと増やせないか」。横浜ベイサイドマリーナ(横浜市)は、長さ100フィートを超すようなスーパーヨットの係留や寄港が増えることを予想して、小型ヨット向け施設を統廃合して、現在6隻分しかないメガヨット、スーパーヨット向け係留施設を拡充する。今後3年内に3~4隻分はスペースをねん出可能だとみている。

東京湾の中には、こうした大型ヨット専用の係留施設がほとんどない。マリーナも漁港や河川に不法係留されていたプレジャーボートの置き場として整備されてきたものが多く、大型ヨットの受け入れを想定していない。

客船やコンテナ船が利用する公共岸壁を利用することもできるが、商業港としての利用が最優先なため、東京、横浜ともヨットによる利用は港湾管理者に敬遠されている。

しかし、マイクロソフトの共同創業者の一人、ポール・アレン氏やオラクル創業者のラリー・エリソン氏らスーパーヨットで旅をする富豪は少なくない。ロンドン五輪の際は、テムズ川に大型ヨットやクルーザーが多数停泊した。東京港の臨海副都心など日本各地で大型客船向けの岸壁の新増設が活発になっているが、20年の東京五輪では大型ヨットで来訪したいというニーズにどう応えていくかも問われそうだ。

煩雑な手続きも課題だ。大型客船が寄港する港には、CIQと呼ばれる税関、出入国管理、検疫の施設も整っているが、ヨットが利用するマリーナではその都度、関係当局への連絡が必要で、当局の対応もまちまち。密輸を警戒する税関はスタッフが駆けつけてくれるが、人手が足りない入管は入国者がタクシーに乗って事務所まで出向くケースもあたり前のようにあるという。窓口のワンストップ化への道は遠い。

(日経グローカル 主任研究員 樫原弘志)

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