北朝鮮緊迫、なぜ当事国通貨「円」が買われるのか - 日本経済新聞
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北朝鮮緊迫、なぜ当事国通貨「円」が買われるのか

北朝鮮情勢が一気に緊迫して、マーケットはリスクオフ・モードに入った。そこで安全通貨としてなぜ円が買われるのか。実際に円買いに走ったニューヨーク(NY)のヘッジファンド(複数)にその理由を聞いてみた。

まず、今回円買いに動いたのはヘッジファンドの中でもCTA(商品投資顧問)と呼ばれる超短期投機筋である。高頻度売買を繰り返し、売買差益を追求する。彼らのコンピュータープログラムには「リスクオフなら円買い」とインプットされている。デイ・トレード(日計り売買)も多く、昨晩のNY時間では既に一部で利益確定の円売りもみられ、1ドル=110円台回復の局面もあった。

一方、同じヘッジファンドでも中期的な世界経済・政治情勢を読んで売買するグローバル・マクロ系は、北朝鮮情勢の今後の展開が全く不透明ゆえ、ほとんど動いていない。運用担当ヘッドも夏休み中である。

次に、「安全通貨」として昨日最も買われたのはスイスフランだ。米国も日本も当事国ゆえ、消去法で欧州の安全通貨に買いが集中した。

さらに、今回円が買われている理由として、北朝鮮リスクが米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に与える影響も無視できない。仮にマーケットが今後リスクオフを強めれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)としても、資産圧縮・利上げの「金融正常化」に慎重にならざるを得ないという見方だ。そもそもFRBのハト派的スタンスから生じたドル安の流れを引き継いだ動きとも読める。

最後に、マーケットは米朝軍事衝突シナリオの実現性を信じてはいない。韓国には多数の米国人居住者もいる。北朝鮮にも破壊的影響をもたらす。まず現実性は薄いシナリオだが、それでも、トランプ大統領や北朝鮮国営通信の激しいレトリック(語り口)を聞かされると「気持ち悪い=not comfortable」がゆえ、とりあえずマネーを逃避させる。日本が実際にミサイル攻撃の標的になる可能性は極めて低いので、スイスフランや金・米国債と並び「円」も一つの選択肢として買われるわけだ。

それゆえ、もし万が一軍事介入に発展すれば、「円売り」に即転換と身構えている。著名投資家ジム・ロジャーズ氏も、北朝鮮情勢悪化でまずは円高だが、本当の「半島有事」となれば、円売りだと語る。

総じてリスクオフの円高は短命だが、金融政策に由来する日米金利差縮小による円高傾向はまだ続きそうである。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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