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ヒアリ、駆除は巣をたたけ 西日本は生育の適地?

関西サイエンスマガジン

南米原産で強い毒を持つヒアリが西日本から関東までの広い範囲で相次いで発見されている。毒針で刺されると、人によっては呼吸困難などのアナフィラキシーショックを起こし、死に至ることもあるという。7月には福岡市でコンテナからの荷下ろし作業をしていた30代男性が左腕を刺され、軽傷を負った。海外では1930年代からヒアリの駆除を始めているが、絶滅には至っていない。ヒアリとは一体どんなアリで、効果的な駆除はできるのだろうか。

ヒアリは5月に中国・広州から神戸港に入り、兵庫県尼崎市に運ばれたコンテナで、国内初上陸が確認された。6~8月にかけて名古屋港や東京港の大井埠頭など各地で相次いで発見され、今のところ兵庫県、愛知県、大阪府、東京都、神奈川県、福岡県、大分県、岡山県の8都府県の港で確認されている。

ヒアリとはそもそもどういう生き物なのか。大きさは小さいもので全長が2~3ミリメートル、大きいのは6ミリ、女王アリになると8ミリ前後だ。10年ほど前にヒアリの生態を解説した著書「ヒアリの生物学」を出版した北海道大学の東正剛名誉教授によると、もともとは南米のラプラタ川沿いに多く生息していたという。30年代に貨物船に紛れ込み、米国のアラバマ州モービルに入ったのが原生地以外での最初の発見例だ。

ヒアリとの戦いに、米国も苦戦している。生息範囲は米国でも広がり、食害でトウモロコシが不作になったり、家畜や人が刺されたりといった被害が増加した。政府は農薬散布で対策を講じた。ところが農薬は生態系や生活環境に悪影響を及ぼし、環境問題に発展。対策は頓挫した。

だが米国では発見例や被害が広がり続けたため、70年代には米農務省がエサに毒を混ぜた「べートトラップ」を開発し、一定の成果を上げた。しかしベートトラップには発がん性物質が含まれていることから、80年代に入ると、この方法も主流ではなくなったという。

米国ではヒアリに寄生する極小のハエやバクテリアなど、天敵に退治させる方法をとっているところもある。ヒアリの体内に卵を産み付け、孵化(ふか)したウジなどが栄養を吸い取ってしまう方法だ。しかし「寄生虫なのでヒアリが死んでしまうと生きられない。増加は防げるが根絶までは難しい」と東氏は話す。

ヒアリは基本的には雑食だ。トウロモコシ、アブラムシから出る甘露など何でも食べるが、中でも「大豆の油を好む」(東氏)。米国に広がったヒアリは今や、カリブ海、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、台湾、中国まで生息範囲を広げている。

高温多雨の場所でしか生きられず、日本では西日本が最適地になる。「北限は福島県で、それより北上すると生きられない」(東氏)。日本の対策を注視しているのは、上陸例がまだない欧州だ。東氏は「イタリアやスペインといった地中海地方はヒアリの生息に適している」と警戒する。

繁殖能力は高い。1時間で平均して80個の卵を産め、1日で1000個の卵を産んでしまうという。最初のコロニー(巣)を作るのは女王アリ。オスの精子を自分の体の中に栄養分としてためて出産する。

さらに自ら羽を落とした後、羽を動かすための筋肉を栄養源にしながら幼虫を育てる。20~30匹育てれば全て働きアリになり、エサ集めを始める。そのうちコロニーが徐々に大きくなっていく。

ただ女王アリの大半は最初のコロニーを作るのに失敗し、コロニーを完成させられるのは1000匹に1匹ぐらいしかいないという。それでも半年から1年かけて、こんもりと盛り上がったアリ塚ができれば、爆発的に増える恐れがある。巣の中の温度が25度以上でないと幼虫は育たないが、アリ塚は太陽熱を有効利用して常に適温をつくり出しているという。

環境省と国土交通省は8月からヒアリが生息する中国、オーストラリア、北中南米などからの定期コンテナ船が来る全国各地の港湾で生息調査を始めた。対象は全国計68カ所となる。さらにコンテナの出発地での対策を強化することなども検討しており、政府は徹底した水際対策でヒアリの生息拡大を食い止める方針だ。

自治体独自の生息確認調査も始まっている。ヒアリの巣らしきものが見つかった神戸港を抱える神戸市。発見された場所から4キロメートルほどの場所に多くの集合住宅があるだけに、粘着シートを設けたり、エサに毒を混ぜたりしたしかけを用意したりと、対策は入念だ。周辺の7500世帯に注意を呼びかけるビラも配り、生息確認調査を年内にさらに2回程度実施する予定だ。

幸いなことにヒアリの行動範囲は狭い。交尾したところから半径400メートル程度が一般的だ。中には風に飛ばされて1キロメートル、最大では16キロ移動したヒアリもいるが、これはまれなケース。東氏は「今は港湾だけなので心配ないが、内陸に入ってしまうとやっかいになる。もしアリ塚を見つければ、これを一つずつつぶしていくのが一番効果的な対策だ」と初動の重要性を指摘している。

(文・川口健史、写真・淡嶋健人)

 関西にはけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)や神戸医療産業都市、京都大学や大阪大学などのほか、大手企業の研究機関が集積する。関西の先端技術や研究を、独自の視点で切り取った写真と文章で毎月伝える。

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