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5年連続で業績回復 地方競馬の真の復活条件

自治体の運営する地方競馬の業績回復が著しい。2016年度の売上総額が約4870億円で前年度比13%の大幅増を記録。5年連続の増加となった。東日本大震災が起きた11年を底に、回復に転じたのは中央競馬と同じ流れだが、勢いは地方の方が目立つ。昨年度の売り上げは11年の1.47倍で、同時期の中央の回復率(1.16倍)を大きく上回る。今年も勢いは続き、第1四半期は前年比15.1%増。この流れが続けば、01年度以来16年ぶりに5千億円の大台を突破する可能性が高い。

地方競馬は1990年代以降、業績悪化が続き、今世紀に入って9つの施行者が事業から撤退。残った施行者も開催場の集約や賞金・諸手当の削減などのリストラ策で辛うじて生き残ってきた。だが、10年秋に始まった日本中央競馬会(JRA)との広範な発売協力と、遅れていたネット発売の強化が奏功。存廃の岐路にあった小規模施行者がV字回復に転じるなど、全施行者が黒字転換した。回復の歩みをたどり、今後の課題を考えてみた。

高知、8年で売り上げ6.5倍に

業績回復を象徴するのは高知競馬だ。08年度の売り上げが約38億8091万円に対し、16年度は創設以来最高の約253億3177万円。8年で6.5倍に急伸した。この間、打った施策としては09年のナイター実施が挙げられる。温暖な気候を生かし、全国唯一の通年ナイターを実現。寒冷地の施行者が冬季休催に入る時期に売り上げを伸ばした。それ以上に効果的だったのは、12年10月に始まったJRAのネット投票による地方発売。高知は基本的に週末開催で、日付は中央と重なるが、時間帯はずれる。中央の1日最後のレースは遅くても午後4時半発走。そこからJRAネット発売の技術的なタイムリミットである午後6時15分までに、3つのレースを組む。その結果、おそらくは中央で結果の悪かったファンの"リベンジマッチ"需要を吸収。JRAのネット発売を通年で行った13年度は売り上げが前年比42.6%増と跳ね上がり、その後も一貫して前年比25%以上の高い伸び率が継続。17年度第1四半期も、南関東の4競馬場施行者が運営するネットシステムで発売した効果で、前年比約42%増。この勢いなら、初の年間300億円の大台を楽に突破しそうだ。

他の施行者も満遍なく業績を伸ばしているのが、現在の回復局面の特徴。16年度に1日平均売り上げの伸びが前年比10%に届かなかったのは大井と浦和だけ。大井は15年に各場持ち回り施行のJBC競走を開催し、売り上げが膨らんだ反動が出た。一方、北海道・帯広で1トン級の馬がソリを引いて競うばんえい競馬は、サラブレッド競馬でなく、JRAネット発売の対象外だが、前年比10.8%増。この点からも、全体の地合いが今世紀初頭の10年よりはるかに好転したのがわかる。

南関東4場、自治体への拠出復活

経営改善も着実に進んでいる。14年度からは3年連続で、現存する全14主催者が黒字決算。全主催者黒字決算はバブル期の90年度以降はなかった。規模の大きい南関東では川崎が13年度に、船橋が15年度に累積赤字を解消。順次、自治体への収益配分を再開した。浦和は10年度から、大井も11年度から自治体への収益配分を続けており、南関東4場は自治体財政への貢献という競馬施行の目的達成で足並みがそろった形だ。

南関東4場は規模が大きい分、小規模主催者に比べ伸び率は目立たないが、主要レースが好調。昨年11月3日、川崎は1日に3つのG1級競走を行うJBCを開催し、地方の1日売り上げ新記録となる48億7402万2850円を達成した。だが、この記録も2カ月足らずで更新。12月29日の東京大賞典(大井、G1)当日は61億9493万3590円に達した。また、同レース単独の売り上げも37億3269万5200円と史上最多で、中央の日曜施行のG3並みの数字となった。こうした主要レースは中央馬が出走可能で、優勝争いも中央馬が主体。名の知れた馬が走る分、JRAのネット投票会員も買いやすく、売り上げへの効果も絶大。主要レースに加え、南関東のレースはほぼ毎週、JRAのネット投票で発売され、認知度も深まった。JRAネット投票による地方発売の年間売り上げは、通年発売初年度の13年が約255億円(発売216日)だったが、昨年は591億円(同232日)に急伸。今年からは発売日数を大幅に増やしており、7月時点で440億円を突破し、通年で750億円を超える勢い。JRAにも推定約1割の手数料収入が入り、収益にも貢献している。

ウィンウィンの相互発売

川崎と浦和は中央側の馬券発売でも潤った。両競馬場は独自の設備投資で発売システムを整備。川崎は11年12月から全日全レースを発売した(浦和は12年2月スタート。土曜はG1前日に発売)。川崎の昨年の年間発売金(売り上げに出走取消などによる返還金を加えた額)は約244億円。地方施行者が中央の馬券を受託販売した際の手数料率は5%前後とされ、年間収入は12億円程度とみられる。以前は自場のレースが売れなくなるのを恐れて、中央の馬券発売には消極的な施行者が多く、川崎と浦和の思い切った判断が好結果を呼んだ。

他の地方競馬場も、地方共通のトータリゼータ(発売票数集計・払戻金計算)システムの整備を受け、13年3月から「J-Place」と銘打って中央の馬券を発売。昨年1年間の発売金は約542億円に上り、今年上半期の時点で全国の10の施行者が47施設を稼働。川崎と浦和は中央の場外発売所の呼称である「WINS」を使用しており、現時点で中央の馬券の受託販売を行っていない施行者は佐賀だけだ。

一時衝突、協力への長い道のり

こうした広範な発売協力が打ち出されたのは10年12月で、JRAと全国公営競馬主催者協議会(全主協)、地方競馬全国協会(NAR)の3団体が共同で発表した。そもそも3団体が共同で何かに取り組むこと自体、日本の競馬の歴史では画期的で、少し前まで中央と地方は冷めた関係にあった。90年代以降、地方の苦境が深まるとともに、「体力のあるJRAが支援すべきだ」とのムードが強まっていた。ところが、01年に農水省が地方再生策を協議するために設置した「地方競馬のあり方に係る研究会」(生産局長の私的懇談会)では、JRAとNARの出席者がこの問題を巡って激しく衝突した。

論議になったのは、JRAのネット・電話投票システムの地方への開放だった。JRAも当時は業績不振で、売り上げを食われる懸念があった。しかも、当時の小泉純一郎政権が進めていた行政改革で、JRAの組織形態問題が焦点化。こうした議論の渦中に、政治の圧力で経営難の地方を丸抱えするように支援させられることをJRAは警戒した。01年から05年は地方競馬の「第1次廃止ドミノ」というべき時期で、01年の大分・中津の廃止を皮切りに、05年までに7つの施行者が事業から撤退した。「現在のような協力関係があったら……」と惜しまれるが、当時はJRAとしても背に腹は変えられない状況だった。

結局、組織形態問題は現状維持の形で決着がつき、中央・地方相互間で馬券販売の相互受委託を解禁する改正競馬法が05年に成立。この年はディープインパクトが3冠を達成したが、競馬の業績は相変わらず厳しく、JRAもこの頃からは地方との協力を通じた反転を探る方向にカジを切り、発売協力の道が開かれた。

3つに大別、今後の課題

発売協力し始めた時点では、当事者もここまでの成果は期待していなかった。だが、12年以降の景気回復ムードに、競争相手であるパチンコの失速も重なり、少し前まで存廃問題が浮上していた地域でも今は廃止論が影を潜めた。ただ、喜んでばかりもいられない。まず、売り上げを押し上げた委託発売には手数料が伴う。地方の場合、同じ1億円でも自前の発売施設で売ると、粗利は2200万円程度だが、JRAのネット投票経由なら手数料を10%として粗利は1200万円ほどにとどまる。委託販売への依存度が高いと、見た目ほど収益が上がらないのだ。全体のパイは拡大しているが、思い切った投資に踏み切るにはまだ十分とはいえない。

7月のジャパンダートダービーを制したヒガシウィルウィン(中)=共同

第2に、中央との馬の競争力の格差が絶望的に開いている。実は発売協力以前もJRAの地方支援は行われていた。90年代後半から地方で中央の一流馬が出走できる交流重賞の設置が相次いだが、賞金の半額は原則としてJRAが負担。馬と賞金を提供して地方の商材をつくる仕掛けだった。だが、発売網の不備もあって売り上げが伸びなかったばかりか、地方馬が全く勝負に参加できない状況が繰り返された。交流重賞は97年からダートグレード競走として体系が整備され、G1級は現在、地方で年間10競走行われるが、07年以降、地方馬の優勝はわずか10回で、うち5回はフリオーソ(現種牡馬)1頭が挙げた。80年代末にオグリキャップやイナリワンが中央に移籍し、芝のG1で活躍したことを思えば、惨状というほかない。7月のジャパンダートダービー(大井)で、船橋所属のヒガシウィルウィンが中央馬を抑えて勝ったのが、3年7カ月ぶりの優勝だった。

とりあえず存続の危機が遠のいた今、地方競馬の課題を挙げれば(1)馬の競争力向上(2)老朽化したスタンドや走路の改善(3)厩舎労働力の確保――の3つだろう。だが、どれも簡単ではない。生産地で逸材を探す網の目が以前よりもはるかに細かくなり、見込みのありそうな馬は高額賞金の中央の関係者が放っておかない。隠れた大物が地方に入厩(きゅう)する可能性は薄れており、賞金復元や調教施設に大きな投資をしなければ、現状を動かすのは難しい。第2の施設問題も待ったなしだ。すぐに手をつけるべき老朽施設も多く、特に走路は時間をかけて根本的に改善しないと、人馬の安全や調教の効率に影響が出る。また、リストラの過程で厩舎従業員の待遇は底のレベルまで落ちており、各競馬場では人手不足が深刻化。経営改善を受け、入厩を希望する馬主は増えたが、需要に応えられないのだ。各施行者がこうした難題にいかに優先順位をつけて、投資を進めていくかが問われている。

(野元賢一)

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