2019年7月18日(木)

改革進まぬミャンマー、「ミスター特区」抜てき

2017/8/10 6:30
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経済の伸び悩みに苦悩するミャンマー政府が、テイン・セイン前政権で「ミスター特区」と呼ばれた実力派を要職に起用し、注目を集めている。計画・財務副大臣に任命したセ・アウン中央銀行副総裁は、ティラワ経済特別区(SEZ)の実現など経済開放政策の推進で手腕を発揮した実績を持つ。経済政策の司令塔が不在とされる、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)の現政権だが、思い切った人事で改革姿勢を内外にアピールし、企業家らの懸念払拭を狙う。

■前軍事政権で改革・開放の実務取り仕切る

計画・財務副大臣に就任したセ・アウン氏

計画・財務副大臣に就任したセ・アウン氏

セ・アウン氏は2011年、軍事政権だったテイン・セイン前大統領のもとで、大統領経済顧問に就いた。13年からは国家計画・経済開発副大臣兼中央銀行副総裁も歴任。英国で修士号を取り、東南アジア各国で開発政策の分析に携わった知見を生かし、経済開放を進めた前政権の政策実務を取り仕切った。

セ・アウン氏の評価を高めたのが、経済開放の目玉だった「SEZ制度」の構築だ。現在のSEZ制度を定めた法律は14年に成立した。通常は外資に許可しない貿易業務を例外的に認め、税制優遇策を設けた。セ・アウン氏はティラワSEZ管理委員会の委員長として、許認可権限を持つ中央省庁との調整を取り仕切った。

日本の全面支援を受けたティラワSEZは、投資認可や税務、労務管理など複雑な手続きを1カ所で受け付ける「ワンストップ窓口」を設置。将来の経済開放のモデルとなる制度を作り上げた。ある関係者は「彼がいなかったらティラワSEZは実現しなかった」と言い切る。

ミャンマー政府は経済改革を徐々に進めているが、まだ十分に雇用を生むような産業育成の道筋を付けるには至っていない。NLDの現政権が16年7月に発表した経済政策12項目には「電力や道路・港湾など経済インフラの開発に注力する」「国営企業改革を進めて中小企業を支援する」などを盛りこんだ。

だが、前政権のように数値目標を示すことができず、具体性は乏しかった。地元の企業家らは「いまだに明確な経済政策のビジョンが見えない」と失望している。特に、経済政策を統括する計画・財務省への批判は強い。

■「現政権幹部は経験不足」の指摘も

アウン・サン・スー・チー国家顧問(中)は少数民族武装勢力との和平でも成果を示せていない(5月、ネピドーで開いた「21世紀のパンロン会議」)

アウン・サン・スー・チー国家顧問(中)は少数民族武装勢力との和平でも成果を示せていない(5月、ネピドーで開いた「21世紀のパンロン会議」)

元中銀総裁で、現在は金融最大手カンボーザ銀行の顧問を務めるタン・ルイン氏は「現政権の幹部はやる気はあるが、総じて経験が不足ししている」と実務能力の不足を指摘する。セ・アウン氏は40歳代半ばで副大臣としては異例の若さだが、NLD政権は豊富な経験を買って改革の実務を任せることにしたようだ。

国際通貨基金(IMF)によると、ミャンマーの16年の国内総生産(GDP)成長率は、政権交代に伴う経済停滞が響いて15年の7.3%から6.3%に下落した。通貨安に伴って物価が上昇し、市民は不満を強めている。スー・チー氏は「少数民族武装勢力との和平」を最優先課題に掲げるが、5月に開いた「21世紀のパンロン会議」では思うような進展を示せなかった。

セ・アウン氏はNLD政権が発足した交代後も中銀副総裁にとどまっていたが、政府は7月末の任期切れに合わせて計画・財務副大臣に充てて、引きつづき中央政府に引き留めた。企業家らはセ・アウン氏の抜てきをきっかけに経済開放が進展するのではと期待を寄せる。ただ、スー・チー氏の意向を確認しなければ何も意思決定できないという体制が迅速な改革を阻んでいるとの意見も根強く、どこまで「ミスター特区」の手腕を発揮できるかは不透明だ。

(ヤンゴン=新田裕一)

→Nikkei Asian Reviewに掲載の英文はこちら

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