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苦戦アルゼンチンに変化 期待大きい闘将の手腕

サッカージャーナリスト 沢田啓明

世界の先陣を切って2015年10月に始まり、参加10カ国がホームアンドアウェー方式で対戦を重ねてきたサッカーの18年ワールドカップ(W杯)南米予選は残り4節。ブラジルが首位を快走して早々とW杯出場を決め、ボリビアとベネズエラが脱落。7カ国が残る3.5枠を奪い合う(5位はオセアニア代表との大陸間プレーオフへ回る)。最も注目されるのが第14節終了時点で6勝4分け4敗で5位と苦戦する強豪アルゼンチンの動向だ。

名将ビエルサ氏から大きな影響

FWメッシ(バルセロナ)、CFイグアイン(ナポリ)、MFディマリア(パリ・サンジェルマン)ら世界トップクラスの名手をそろえながら、最終ラインからトップまでの距離が間延びして攻守が分断され、組織的なプレーができず、勝ち点を落とし続けた。今年4月にエドガルド・バウサ監督が解任され、スペインリーグの強豪セビージャを率いていたホルヘ・サンパオリ氏が新監督に就いた。

サンパオリ氏はメッシの生まれ故郷ロサリオの近郊の出身で、57歳。現役時代はボランチで、地元クラブの下部組織でプレーしながらプロを目指したが、故障のため19歳で引退。「選手としては完全に失敗した」(サンパオリ氏)が、「自分にはサッカーしかない」と考え、「W杯に出場するような監督になりたい」という無謀とも思える夢を抱き、地方の弱小クラブで指導者の道を歩み始めた。戦術研究に没頭するうち、1990年代にアルゼンチンリーグを4度制覇し、その後、アルゼンチン代表とチリ代表を率いた名将マルセロ・ビエルサ氏の戦術と指導法に強く共感。「高い位置から強烈なプレスを仕掛け、人数をかけて相手ゴールを襲う」というビエルサ流の攻撃的なスタイルをベースとしながら、対戦相手の出方に応じて自在にフォーメーションを変更するなど、独自のテイストを加えていった。

試合中は常にコーチングエリアをせわしなく歩き回り、大きなジェスチャーで選手に指示を与える。味方のミスには頭を抱えて悔しがり、ゴールが生まれると飛び上がって絶叫する。なりふり構わない姿はコミカルですらある。

勝利に対するすさまじい執念

勝利に対する執念はすさまじい。監督として駆け出しのころ、審判の判定に不服を唱えて退席処分を受けると、ピッチ脇の高い木によじ登り、大声で選手に指示を与え続けたという逸話がある(ただ、そこまでやっても敗れたそうだ)。

選手としての実績が皆無だった悲しさで、国内有力クラブからは見向きもされなかった。ペルー、チリの中堅クラブを率いてコツコツと実績を積み上げ、11年、チリの強豪ウニベルシダ・デ・チレの監督に就任。この年の国内リーグで優勝すると、コパ・リベルタドーレスも制覇して南米クラブ王者になった。

12年、チリ代表の監督に就任すると、14年W杯南米予選を突破。W杯1次リーグで前大会の覇者スペインと対戦し、ほぼ90分間、強烈なプレスをかけ続けるというサッカー界の常識を覆す試合内容で2-0で快勝。決勝トーナメント1回戦でも地元ブラジルと互角に渡り合った(延長、PK戦の末に惜敗)。

15年にチリで開催された南米選手権では、決勝で母国アルゼンチンを延長、PK戦の末に下して初優勝。外国人でありながら、チリの国民的英雄となった。16年初めにチリ代表監督を退任すると、6月にはセビージャの監督に就任。以後、2シーズンにわたって好成績を残し、アルゼンチン代表監督の就任会見で「長年、自分が夢見てきた場所についに到達した。しかし、責任の重さは十分に自覚している。自分の能力のすべてを出して期待に応えたい」と抱負を語った。

代表監督としての最初の試合は7月9日の宿敵ブラジルとの強化試合。短い練習時間しかなかったが、選手の運動量が劇的に増え、攻守の切り替えが見違えるほど速くなり、球際にも強くなっていた(1-0で勝利)。さらに、シンガポール戦では代表初招集の若手をずらりと並べ、2-3-5という常識外れの超攻撃的布陣で臨み、6-0と圧勝した。わずか2試合だが、新監督が自らの信じる戦術を選手たちにたたき込みつつあり、なおかつ大胆な選手起用を断行してチームを大きく変貌させようとしているのが見て取れた。

今後、アルゼンチンは南米予選で8月31日に宿敵ウルグアイ(アウェー)、9月5日にベネズエラ(ホーム)、10月5日にペルー(ホーム)、そして10月10日にエクアドル(アウェー)と対戦する。最初のウルグアイ戦で是が非でも引き分け以上の結果をもぎ取り、ホームでの2試合で連勝して、最終節を迎えたい。

「組織の力で勝つのが理想」

今回の南米予選は中堅国の実力が軒並み上がっており、非常にハイレベルな戦いとなっている。とはいえ、これだけ能力が高い選手がそろっており、クラブと代表の両方で実績を残してきた優秀な監督がいるアルゼンチンが予選で敗退するとは個人的には思っていない。それと同時に、アルゼンチンが出ないW杯は興味が半減する、という思いもある。

今後、サンパオリ新監督がいかにしてチームを立て直すのか。来年のW杯に出場できるのか。その過程のすべてが極めて興味深い。「個人ではなく組織の力で勝つのが理想」と語る闘将の戦術とチームづくりは、日本代表やJリーグのクラブにとっても大いに参考になるはずだ。

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