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音楽の著作権料 JASRACが徴収攻勢、いくらが妥当?

日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作権使用料を取るとの方針を示し、波紋を広げている。反対するヤマハ音楽振興会(東京・目黒)や河合楽器製作所など249企業・団体は「音楽教育を守る会」を結成。支払義務がないことを確認するため6月20日に東京地裁に提訴した。そもそもJASRACはこれまで誰からいくら徴収してきたのか。徴収先を拡大する契機となったカラオケを手始めに、価格がいかに決まってきたのかを探る。

カラオケは同じ曲でも部屋サイズで金額違う

カラオケ店からの著作権料徴収が始まったのは1998年。著作権法22条では著作物について著作者が「公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として上演し、または演奏する権利を有する」となっている。重要なのは「公衆に」という部分だ。カラオケでは店側が客に歌わせ、聞く客(公衆)もいる状況で利益を得ていると解釈されている。

カラオケはサーバーから配信した曲を1つずつ特定しやすいので、アーティストと著作権料を結びつけやすい。ただ、そもそも「いくら集めるか」が課題だ。JASRACは徴収する包括契約の価格を「店の基本料金」と「部屋の大きさ」で拡大していく仕組みにした。同じ曲を歌うにしても、東京・銀座のような地価の高い場所で1部屋に大人数を入れるカラオケ店のほうが著作権料は高いことになる。

例えば佐賀県鳥栖市のあるカラオケ店の場合、夜間の1人1時間あたり一般料金は650円(税抜き)。定員10人までの部屋だと、店側がJASRACに払う「1部屋の月額著作権料」は1万2千円となる。一方、東京・銀座の系列店なら夜の1人1時間あたり一般料金は1600円。鳥栖市のケースより多い10人超の部屋だと、店がJASRACに払う1部屋の月額著作権料は3万6千円となる。この2例では、同じ曲を歌ったとしても著作権料は3倍の開きが出る。もうかっていそうな店から多く徴収するシステムだ。

JASRACによる著作権料の徴収額は、2016年度で1118億円にのぼった。08~11年度には減少傾向となって大台の1100億円を割り込んだが、11年以降にはフィットネスクラブ、カルチャーセンター、ダンス教室へと徴収先を急速に拡大。16年にはボーカルスクールも対象となり、徴収額は回復している。

ここ10年間の動きをみると、CD販売からの徴収額が大幅に減少している。07年度の216億円から、16年度には94億円(44%)減の122億円となった。この間に音楽配信からの徴収額は31億円(37%)増の114億円となったが、CDによる減少分は補えていない。音楽を消費者に直接売るという形態だけでなく、ダンスや歌唱指導のようなビジネスからの徴収を広げて業界規模を守る戦略となった。

JASRACの徴収額にとって、15年の最高裁判決も影響を与えうるとみる専門家もいる。テレビやラジオで使う楽曲の著作権料をめぐって最高裁は同年4月、JASRACの契約方式が「他業者の参入を妨げている」と指摘した。放送局向けの著作権管理はJASRACの独占状態だったが、風穴が開いた。エイベックス・グループ・ホールディングスはJASRACに任せていた音楽利用の契約を見直し、新たな著作権管理会社に集約しだした。JASRACにとって「放送等」の徴収額は311億円と、全体の3割を占める稼ぎ頭だ。将来的に減る可能性があれば、別の分野を伸ばす動機になり得る。

音楽教室に「受講料収入の2.5%」提示

音楽の著作権料は、公衆に聞かせることへの対価といえる。いま問題となっている音楽教室の場合、教室側は「演奏技術の習得のため」なので聞かせること自体が目的ではないと反論している。カラオケやダンス教室のように録音物の再生でもなく、さらに講師の演奏よりも生徒が練習する時間のほうが大幅に長いという。現役ピアニストとして国際コンクールでの入賞経験も持つ橋本阿友子弁護士は「聞かせる目的にあたると言っていいか慎重に判断する必要がある」と話す。

もし音楽教室からも著作権料を取る場合、いくらが妥当な価格なのかも議論の余地がありそうだ。いまのJASRACの提示内容だと、包括契約を結べば1教室あたりの年間使用料は受講料収入の2.5%としている。例えば東京都内で月4回(1回30分)の受講料が8千円のピアノ教室だと、1カ月分の著作権料としては200円を払う計算になる。1時間あたりだと100円だ。1カ月ごとに1曲を習得するレッスン内容なら、その分配の対象となるのはアーティスト1組だろう。

一方、カラオケ店だと「1人1時間あたり500円超~1千円の料金かつ定員10人までの部屋」だったら、JASRACに払う月額使用料は1部屋あたり1万2千円だ。都内だと年中無休で1日19時間営業の店もあり、1時間あたり21円の計算になる。1曲5分でフルに詰め込むと1時間に12曲歌えるので、全て別のアーティストの曲なら1アーティストあたり1.75円となる。この仮定だと、カラオケ店に比べてピアノ教室のほうが1アーティストへの分配の基となる金額は57倍となる。

今回は「音楽教室は教育と営利のどちらが主体なのか」という議論も起きている。音楽教室の先生も無償では生活できないので、営利ではある。そのうえで「教育だから演奏権の侵害ではない」といえるか、法曹関係者の中でも見方が分かれている。いずれ結論は出るが、どちらにしても「音楽を普及させるため」と胸を張れるかが重要だ。音楽家の生活という観点では、徴収額の分配方法についてJASRACの手数料を含めて妥当かどうかの議論があってもよさそうだ。

(商品部 小太刀久雄)

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