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横綱白鵬が金字塔 野球選手にも通じる記録の話

中学時代には相撲をかじっていた。角界の親方たちと交流もある。毎年7月、大相撲名古屋場所を見にいくのが楽しみになっている。今年は13日目を観戦した。横綱白鵬が大関高安を破って通算1048勝目を挙げ、歴代最多勝利を更新した場面に立ち会えた。

名古屋場所13日目を観戦し、白鵬が歴代最多勝利を更新した場面に立ち会えた=共同

しばらく前、白鵬と同じ宮城野部屋の石浦とテレビで共演した縁で、場所前、稽古を見にいった。初めて見た白鵬の稽古は準備の長さに驚いた。土俵に降りてから相撲を取るまでが長い。四股やテッポウ、すり足などでたっぷり汗をかく。話には聞いていたが、これを毎日続けるのは並大抵のことではない。

野球界でもイチロー(マーリンズ)は毎日、独自のルーティンを守って試合に臨むという。長く第一線で活躍する選手には共通する要素なのかもしれない。これはできそうでできない。野球でも練習が始まれば、すぐに打ちたいのが人情だ。僕がダッシュなど自分で決めた課題を日々こなすようになったのは晩年のこと。白鵬は同じルーティンを若い頃から続けているというのだから、つくづく感心した。

実のところ、白鵬にはあまりいい印象を持っていなかった。近年伝わってくる言動には疑問に思うものが多かったからだ。けれども実際に会った彼は気遣いができる男で、僕にも向こうから話しかけてきてくれた。この日の稽古にはリオデジャネイロ五輪柔道100キロ超級で銀メダルを取った原沢久喜選手たちも参加していたのだが、白鵬は彼らにも気軽に胸を出していて好感がもてた。本来は「いいヤツ」の白鵬にかたくなな態度を取らせてきたのは、僕たちファンの責任もあるのだろう。

数字残さないと飯が食えぬ

白鵬にとって記録は大きなモチベーションになってきたという。彼のような大記録はめったに出ないが、野球にも記録や数字はついて回る。評価や給料も数字に基づいて決まる以上、数字を残さないと飯が食えないという現実もある。ヤクルトやロッテのようにペナントレースから脱落してしまったチームの選手も、個人レベルでは少しでもよい成績を残そうと必死にプレーしている。

数字をどこまで気にするかは人によっても違う。僕は数字と付き合うとき、モチベーションを高め、よりよいパフォーマンスを引き出してくれる目標を設定するよう心がけていた。本塁打王のタイトル争いはその典型だ。「タイトルは結果」という考え方もあるが、僕は可能性のあるタイトルはがむしゃらに狙った。ライバルの松井秀喜やタフィ・ローズが打てば、俺も負けないぞと一発狙った。目に見えるライバルの存在は刺激になる。3回タイトルを争い、2回取れた。

一方、生涯記録はモチベーションになりにくかった。例えば打者にとって大きな勲章の2000安打は遠すぎて目標にならなかった。僕の通算安打は1834本。残り100本を切れば現実味が出てきたのかもしれないが、160本以上も残っていてはボンヤリとも見えなかった。唯一こだわったのは憧れの長嶋茂雄さんが残した444本塁打だ。30代後半で楽天に移籍した後、本塁打がポンポン出始めて意識するようになった。しかし楽天最後のシーズンの5月、骨折したところでジ・エンド。403本で幕を閉じた。

前人未到の史上最多登板記録に挑む中日・岩瀬=共同

プロ野球で近く達成確実な前人未到の大記録が岩瀬仁紀(中日)の史上最多登板だ。阪急などで活躍した米田哲也さんの949試合に迫っている。一昨年は登板がなく、昨年も防御率6.10。そろそろまずいかなと思っていたが、今年は立派な戦力になっている。体調がいいのだろう。何より真っすぐに元気がある。米田さんとは時代が違うが、これほど長く結果を出し続けてきたのは努力のたまものにほかならない。中日では今年、荒木雅博も2000安打を達成した。入団当初、彼が2000安打打つと想像した同僚はいなかった。真面目にコツコツと頑張ってきたのが実を結んだ。

故障せぬ体づくりあってこそ

こうした大記録の前提となるのは故障をしない体づくりだ。プレー中のケガは避けられない部分もあるが、故障の多くは自助努力で回避できる。僕は疲労を残さないよう心がけていた。「質の高い休み」を取ることは、体を鍛え、練習するのに劣らず大切だ。いい状態でグラウンドに立って初めて実力を発揮できる。

そもそも人間の体は一人ひとり違う。同じだけ練習し、同じだけ休んでも疲れ具合は千差万別だ。現役時代の僕は「体の声」に耳を澄まし、極力我慢しないことを意識していた。おなかが減れば食事をする。眠くなれば寝る。野球も同じだ。体が元気ならしっかり練習し、気が向かないときは無理をしない。

大リーグではナイターの後のデーゲームなどは軽めの練習で済ませるが、ハードワークの習慣が根強い日本ではなかなかそうはいかない。マイペース調整が難しい若手なら打撃練習の本数を減らすなど自分なりに加減するだけでもいいだろう。確かに練習を減らすことには不安もつきまとう。だが、そうした不安に勝つこと、休んでもしっかりとしたパフォーマンスを出せる能力を培うこともプロの大事なたしなみなのだ。

(野球評論家)

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