スマホ技術で日本攻略 ファーウェイの小型高機能PC

ファーウェイ・ジャパンは、2017年7月4日、モバイルノートの新製品として13型モバイルノート「MateBook X」と、12型Windows 2in1タブレット「MateBook E」を発表。7月7日より発売した。
ファーウェイといえば、日本では格安SIMで利用できるSIMフリースマートフォン(スマホ)が好調なメーカーだ。なぜ、ファーウェイは日本市場でノートパソコンに本格参入するのか。また、PC市場ではどういった姿勢でシェアを拡大するのか。これらの答えは、スマホで培った技術研究や、同社が切り開いたモバイルWi-Fiルーターの市場環境にあるという。
これらファーウェイの日本市場への取り組みについて、ファーウェイ・ジャパンで端末部門を統括する呉波氏へのグループインタビューをもとに見ていこう。
「パソコン業界に新しい市場を作り出したい」

――PC市場への本格参入は、前機種の売れ行きが良かったからでしょうか。
呉氏: 前機種のMateBookの売れ行きは当社にとって満足がいく結果でした。ただ1モデルでしたので、今回は複数のモデルを投入することに決めました。
製品戦略としては、低価格で既存のメーカーのシェアを奪っていくわけではない。イノベーションや先端技術によって、パソコン業界に新しい市場を作り出したいと思っている。そうしたなかで、安定して買って頂けるユーザー層を作っていきたいと考えています。


――他社もイノベーションが重要と言っています。
呉氏: 今回のMateBookには、業界初となる数々のイノベーションが搭載されています。A4用紙より小さいサイズ、指紋認証センサーと電源ボタンが一体化したワンタッチロック解除、ファンレス仕様、低消費電力などですね。
また、今回はインテルの最新CPUであるCore i7とi5を採用しました。イノベーションは、実際の製品に落とし込んで製造できるかが重要です。これらの技術を実現することで、量販店でパソコンの初心者相手でも、他社の商品よりも優れた点を簡潔に伝えられます。
消費者の大半はスマホを使っています。ですので、スマホで好評だった特徴はPC製品でも取り入れています。

――スマホでは日本メーカーの部材が多く採用されています。これはPC製品でも同様なのでしょうか。
呉氏: PC製品に関しても、横浜の研究所を通じて日本のパートナー、部材メーカーと密な関係をもっています。日本の部品で使われている技術は最先端をいっているので、当社としても引き続き採用や実現を進めていきます。
[注]ファーウェイは以前から横浜の「日本研究所」にて、日本のサプライヤーとの次世代技術の研究や部品・部材の調達を実施している。なお、17年6月末に報道された千葉県船橋市の新施設は、ファーウェイ広報によると「製造プロセス研究ラボ」で、ファーウェイ製品の製造プロセス技術に関する研究や試験、試作を中心とした、異なる役割の施設になるという。
――日本市場の声を取り入れた部分はありますか。
呉氏: 先代のMateBookについて消費者に調査したところ、消費者は一番に「持ち運びのしやすさ」、それと「操作の簡便性」を重要視しています。今回のMateBookは薄く仕上がっており、ファンレス仕様にすることで大容量バッテリーを搭載できました。これにより、長い駆動時間を維持できます。

モバイルWi-Fiルーターと一緒に売れる
――今回のMateBookはマイクロソフトOfficeのプリインストールモデルが用意されています。前機種では用意されていませんでしたが、今回あらためて用意した理由はありますか。
呉氏: マイクロソフトOfficeのプリインストールは販売価格に反映されるため、社内でも議論がありました。ですが、日本のPCの多くはOfficeをプリインストールしています。また、Windowsを搭載したラップトップ型や2in1型のPCは、ビジネスパーソンにとっての必需品です。そういった経緯で、今回はマイクロソフトと相談してOfficeをプリインストールしています。
もう1つの理由は、日本独自の販売モデルにあります。
ファーウェイはモバイルWi-Fiルーターのメーカーとして、日本で10年近く連続でシェア1位を取っています。我々は現在、ソフトバンク(ワイモバイル含む)、au、ドコモ、UQモバイル、そしていま数が出ているMVNO事業者を通して販売しています。

今、家電量販店などで通信事業者が販売するモバイルWi-Fiルーターを購入して契約すると、パソコンなどを一緒に数万円分安く買える割引が提供されています。
この割引を手にした人は、より高価格かつ高性能なPCを購入する傾向があります。というのも、PCはスマホと比べて買い替えまでの利用期間が長く、3年や5年のあいだ利用できるのかを考えて購入します。このさい、少々高くても最初からプリインストールモデルのほうが、PCとOfficeを別に買うよりもお得なので選ばれます。
これは数少ないケースではなく、ありふれたケースなのですね。例えば、当社が日本で販売しているモバイルWi-Fiルーターの数と、日本のPCの販売台数はほぼ同じぐらいの規模があります。
――MateBookにLTE搭載モデルがなくWi-Fiモデルだけなのは、モバイルWi-Fiルーターとのセット販売がうまく機能しているからでしょうか。
呉氏: まさにその通りです。これはファーウェイならではの強みです。ただこれは製品の強みというよりも、日本の販売モデルの特徴によるものですね。
日本には、多くのモバイルWi-Fiルーターの利用者がいます。特に東京に上京した若い人などは、日常で各地への移動が多いです。彼らにとっては、スマホやPC、タブレットをまとめてネットに接続できるモバイルWi-Fiルーターが便利なわけです。
また、最近ではソフトバンクの「SoftBank Air」やauの「Speed Wi-Fi HOME」といった当社の製品を使って、自宅の高速接続をLTEで実現する製品も注目を集めています。

ゲーミングPCにも関心がある
――ファーウェイはスマホとPCを手がけていますが、今後はその間のデバイスにも力をいれるのでしょうか。Chromebookや、最近だと、マイクロソフトが将来リリース予定のSnapdragonで動作可能なARM版Windows 10などもあります。または、既存PCメーカーのように、ゲーミングPCやクリエイターPCといったハイエンド製品に力を入れていくのでしょうか。
呉氏: 当社のPC戦略は、主にビジネスシーンの利用を重視しています。このため、PCからスマホまで、同じターゲット層に向けた製品を投入していきます。
ですが「ゲーミングPC」と呼ばれるメモリーやグラフィックを強化したハイエンド市場にも関心はあります。というのも、コンシューマー向けPCでは、15インチ以上の製品が一番売れているからです。
――ベルリンで発表された15.6型の「MateBook D」は日本で販売されないのでしょうか。
呉氏: 「MateBook D」は15.6型で画面占有率が83%と、同クラスではもっともコンパクトなスリムノートPCです。今後、ふさわしいタイミングがあれば投入したいと考えています。引き続きご注目をいただければと思います。
(ライター 島徹)
[日経トレンディネット 2017年7月18日付の記事を再構成]
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