「観光列車」花盛り、西武と東急が首都圏で運行
鉄道各社でいま「観光列車」が花盛りだ。首都圏では先行して西武鉄道が「西武 旅するレストラン 52席の至福」を投入。21日には東京急行電鉄が「THE ROYAL EXPRESS(ザ・ロイヤルエクスプレス)」の運行を始めた。いずれも食事メニューや眺望の良さを売り物にする電車だが、豪華な内装など車両自体も注目を集める仕様だ。

内装を豪華にしつらえることで「ゆったりとした空間」を創り出す――。東京急行電鉄の「ザ・ロイヤルエクスプレス」のスペックにはこうした考えがふんだんに反映されている。
まずは乗客のスペース。もとの特急電車を数億円かけて改造した観光列車は定員が約100人。改造前は同400人だったため、広々とした空間を確保した。
車内全体は木材の質感を味わえるデザインを採用。家族向け車両には白色が基調のホワイトシカモアの一方、シニアを意識した車両には落ち着いた濃い茶色のウォールナットを使用した。地元産にはこだわらなかったが「日本の伝統が生かせる素材は木材」(鉄道事業本部の熊野次朗課長補佐)と考えた。
運転席と客席の仕切りにはスギの組子を導入。床にはメープルやナラなどを使い、寄せ木をかたどった車両もある。さらに格子状の天井には観光電車のロゴをあしらったほか、食堂車の天井にはステンドグラスもはめ込んだ。「JR九州(の観光列車)で30年間培ったものをつぎ込んだ。こだわり過ぎて職人に困られたこともあった」(デザインを担当した水戸岡鋭治さん)
窓枠も木材で囲い「車窓からの眺めを美術品のように味わってほしい」(熊野さん)。そんな観光列車には絵画などを飾れるギャラリー車両も用意した。どこまでも非日常的な空間が広がっている。1人2万5千円から。
水色が映える外装の電車に乗ると一変、落ち着いた木目調の内装がパッと開ける。そんな内外の違いも楽しめるのが西武鉄道の「52席の至福」だ。車内は埼玉・秩父地方のスギの木を使うだけではなく、内装材へのライトの当て方にもこだわった。車両のデザインを担当したのは建築家の隈研吾さんだ。
食堂車の天井には木材をふんだんに使った。地元・西川材のスギを格子状に並べ、見た目は船底のようだ。天井の頂部には1本のラインがくねくねと引かれているようにみえる。秩父を走る荒川の激しい流れをイメージしているという。
別の食堂車の天井には柿渋和紙を使用。温かみを強調しようと発光ダイオード(LED)を使って照らすが、当初は隈さんが「影が出ている」と指摘。LED同士を重ね合わせることで解消した。
こうした演出は、不燃化処理した和紙を取り付けるために必要なアルミ板を天井に付けたことで実現。ただ天井までの高さは約2メートルと低くなることで、料理を堪能するにはやや圧迫感が出るおそれも。そこで椅子の背もたれの高さは床から約75センチにとどめ、空間全体のバランスをとった。
コピーライターも交えて考えた車名の由来は「最高のサービスを提供するための最適な席数が52席だった」(車両課の図子洋隆課長補佐)こと。ぜいたくを引き立たせる手段として木材が寄与しているようだ。1人1万円から。
全国で観光列車の運行が相次いでいる。地方では以前から走っていたが、このところ大手鉄道会社による豪華な観光列車が注目を集める。
JR九州の「ななつ星in九州」(2013年)を皮切りに、JR東日本は5月に「トランスイート四季島」、JR西日本も6月に「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」を投入した。いずれも寝台付きで利用料金は10万円超と高い。
観光列車の狙いは沿線活性化のほか、客単価の引き上げもある。国によると、鉄道の旅客数は延べ年230億人前後で推移。人口減少のなか収入確保が課題だ。ふだんは競合しない鉄道路線でも、観光需要を獲得するとなれば状況は違う。観光地の魅力向上と独自性の発揮が求められる。
(企業報道部 岩本圭剛)
[日経産業新聞 2017年7月27日付]