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風とともに去りぬ 松山英樹のメジャー初制覇

編集委員 吉良幸雄

松山英樹(25)のメジャー初制覇の望みは23日の最終日、スタートの1番(パー4)で、ロイヤルバークデールの風とともに去っていった――。世界最古のメジャー大会である第146回全英オープンゴルフ選手権(20~23日、ロイヤルバークデールGC=パー70)。通算4アンダー、首位と7打差の5位タイから逆転優勝を目指したが、いきなりティーショットを右OB。よもやのトリプルボギーをたたき、一気に1アンダーに後退。首位ジョーダン・スピース(23)と10打差の重荷を背負ってプレーするはめになった。「ボギーかダボで抑えられたら……。トリで気持ちを切り替えられなかった」。2番以降は3バーディー、2ボギー。結局通算2アンダーの14位タイで、5度目のジ・オープンを終えた。

やや左ドッグレッグの1番はフェアウエーが狭く難しいホール。風向きは第3ラウンドとは逆で左からのアゲンスト。練習ラウンドや初日にも経験している風だったが、前日までのアイアンではなく、3番ウッドのショットは出球から右に出て、コースの外の林に消えた。全英のリンクスはどこも風が空中のハザードで大敵だが、ロイヤルバークデールは強風で名高い。第2ラウンドは平均スコア74.026と大荒れ。第3ラウンドは一変、風が収まりブランデン・グレース(南アフリカ)がメジャー史上最少スコアとなる「62」をたたきだしたが、最終日は午後になると風がぐっと強まった。

松山にしてみれば、スピースを捉えるにはスコアを伸ばすしかなかった。それなのに誰もが神経を使うスタートホールのティーショットが、最悪の結果を招いた。昨年のマスターズ・トーナメントでは最終日を首位と2打差の3位でスタート。1番をボギー発進し、6番(パー3)でティーショットを右の木に当てダブルボギーをたたくなど前半アウトで3打落とした。インに入って巻き返し7位に入ったが、今回のつまずきもそれと似ている。最終組の2組前でのスタートで、優勝を意識せずにはいられない。知らず知らず体が硬くなり、思うような体の動きができなかったか。第3ラウンドでもティーショットを何度も右に曲げており、最終日も修正が利かなかったと思われる。

リンクス攻略、もう少し慣れ必要

リンクスコースは林間コースと違って目標物を見つけにくい。松山には、苦手意識とはいかなくても、やや攻めづらい印象があるのかもしれない。プロデビュー1年目の2013年に唯一、予選落ちしたのがリンクス風コースのJFE瀬戸内海GC(岡山)が舞台のミズノオープンだった。全英では初出場の13年ミュアフィールド大会で6位と大健闘したが、14年が39位、15年が18位、昨年は予選落ちしている。今回は2週前のアイルランドオープン(14位)に谷原秀人とともに出場し、リンクスの雨風も経験したのが初日12位の好発進につながった。

ただティーショットに関していえば、リンクス攻略にはもう少し慣れが必要なのかもしれない。今大会では随所で鋭いアイアンショットを披露し、パットも安定していた。4日間のバーディー数16は、2位に敗れたマット・クーチャー(米国)の19、スピースとダスティン・ジョンソン(米国)の17に次ぐランク4位。ギャラリーからは「マツヤーマ」の声が飛び、かなり人気があった。米ツアー4勝、先月の全米オープンでは2位に入っており、認知度は高いのだろう。

グリーンを狙うショットは世界でトップクラス。攻撃力はかなり高い。ふてぶてしい野武士のような面構えで、豪胆な攻めをみせる。その一方で完璧主義者は結構繊細である。世界ランク2位で大会を迎えながら、練習ペースを乱されるのが嫌で、開幕前の公式記者会見を断り、外国メディアからは「クレージー」と不興を買った。ナーバスになりすぎては、プレッシャーのかかるメジャーの優勝争いで、勝ち抜けないのではないか。メジャー初制覇には、最終日を上位スタートしたときの心のコントロールも大切になる。

松山以外の日本勢は谷原、池田勇太、宮里優作の3人とも2日間で姿を消した。谷原は06年に5位に入り、今季の欧州ツアーで何度か優勝争いしており期待も高かった。ところが初日にショットが乱調で7オーバー、142位と大きく出遅れ、2日目も挽回できなかった。キャディーを務めた東北福祉大の後輩で、04年アイフルカップ、08年サン・クロレラクラシックとツアー2勝の谷口拓也は「パットがうまく決まらず、乗り切れなかった」という。池田、宮里は初日を58位、40位と予選通過圏内(70位以内)でスターとしながら荒天の2日目にスコアを崩した。2日間の平均パット数は2人とも32パットでランク142位。ティーショット、アイアンとも悪くなかったのに、肝心のグリーン上で精彩を欠いた。

スピースの13番、今後の語り草に

驚異的なパット力を発揮したのが、15年マスターズ、全米オープンに次ぐメジャー3冠を達成したスピースだ。優勝争いの大詰めの15番で15メートルのイーグルパットをねじ込み、16番も10メートルのバーディーパットを沈めた。

とりわけ、ギャラリーやテレビ桟敷のゴルフファンの目をくぎ付けにし、驚かせたのが13番(パー4)のプレーだ。ティーショットを大きく右に曲げ、小高い丘の斜面の深いラフに。ウエッジでフェアウエーに出すだけかと思われたが、全幅の信頼を寄せる相棒キャディーと話し合い、選択したのが、1罰打を犠牲にしてのアンプレヤブル。スピースは丘の上に何度も上ってグリーン方向を確認、ボールとカップを結ぶ後方線上にある練習場まで下がった。クラブを調整するメーカーのサービスカーの車両の間にまで入り込む念の入れようで、どこから第3打を打つかじっくり時間を費やした。前方にはボールが埋まった丘がそびえ、グリーン面は当然見えない。難しい1打だったろうに、3番アイアンでグリーン右手前まで運ぶ素晴らしいリカバリーショット。アプローチを2メートル余りに寄せてボギーパットを沈め、傷口を防いでみせた。

冷静に最善のルートを選んだスピースの13番のショット、パットは今大会の最大の見せ場。1979年大会(ロイヤルリザム&セントアンズ)の16番でティーショットを右に曲げ、グリーンは見えない臨時駐車場のベアグラウンドから、ピンそば4メートルにつけバーディー、全英初制覇を引き寄せたセベ・バレステロス(スペイン)の伝説のショットをほうふつとさせる。「スピースの13番」は今後の語り草になるに違いない。13番に加え、14番(パー3)から4ホールで5打伸ばしたショット、パットは神がかっていた。クーチャーに首位を譲りながら、あっという間に置き去りにしたスピースは「楽しいゴルフだったよ」。史上最年少でのグランドスラム達成のかかる8月の全米プロ選手権での、スピースの挑戦が見ものだ。

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