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外岩ではぐくんだ高い修正力 渡部桂太(上)

プロスポーツクライマー

壁に点在するホールド(突起物)に手をかけ、足をおいて5メートルほどの高さにあるゴールを目指すボルダリング。2020年東京五輪の追加競技となったスポーツクライミング3種目の中でも国内の知名度、人気がひときわ高い種目だ。

W杯、年間優勝も狙える位置に

「最高のクライマーになりたい」と語る23歳、渡部桂太は年間7戦のうち6戦を終えた今季のワールドカップ(W杯)で総合2位。8月のW杯最終戦(ドイツ)で優勝すれば、年間優勝も狙える位置につける。

スポーツクライミングの中でも人気の高い種目で「最高のクライマーになりたい」と語る

渡部の最大の強みはどんな壁にも対応できる修正力だ。W杯の課題は多彩で、トップ選手がギリギリ完登できるかどうかのレベルに設定されている。形状は登る直前まで分からず、1つの課題に使える時間は4分。限られた条件下で特徴をつかみ、最適な解を導き出さなくてはならない。

4月、スイスでのW杯開幕戦。決勝の第2課題でその片りんを見せた。やや傾斜が緩やかな「スラブ」と呼ばれる壁を左から右に登るルート。途中に配置された持ち手と、足が置けるホールドの大きさはいずれもわずか数センチで、力の入れ方を誤ればすぐにバランスを崩す。派手さはないが、極めて高度な課題だった。

「柔軟性をうまくコントロールできた」と振り返る3回目のトライ。1、2回目の失敗から微修正してホールドに左足のつま先を置くと、体重をしっかり乗せて体を安定させた。右半身を自由にできる体勢を確保すると、次のホールドをつかみ取り、そのまま一気に完登を果たした。

これがW杯参戦3年目にして、初めて進んだ決勝だった。上位6人で競う独特の舞台でも落ち着いた様子で、この課題をただ一人完登。「あんなの無理」「すごいな。どうやって登ったんだ」。失敗した選手たちから次々に賛辞を浴び、国際競技団体(IF)の中継も「すごい柔軟性だ」と絶賛するほどだった。

課題を設定するIF公認のルートセッター、平嶋元は渡部について「全ての性能を引き出せるドライバーのようなもの。色々なポジションで動ける形を持つ、まさに上手なクライマー」と評する。この大会で3位に食い込むと、勢いに乗って3戦目の中国・南京大会で初優勝。ここまでの6戦中5戦で決勝に進み、うち表彰台3回と抜群の安定感を誇る。

高い修正力は小学2年から続ける外岩(そといわ)での経験で育まれた。外岩とは自然の岩を登ること。人工壁には一応の「模範解答」があるが、割れ目や出っ張りから自身でルートを開拓する外岩は正反対。「人間が作る課題の練習量より、外岩の理不尽な課題の経験値が圧倒的に多い。それがスキルアップにつながったのかな」。渡部は今も時間があれば仲間と外岩に出向く。

「こんなに楽しいスポーツはない。一日中でもずっと続けられる」。15年間蓄積してきた技術が今、競技の世界にぴたりかみ合い、最高の舞台で花開こうとしている。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊7月24日掲載〕

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