男を立てる力、強すぎる・エッセイスト酒井順子氏

2017/7/20 6:30
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エッセイストの酒井順子氏(50)は「未婚、子ナシ、30代以上」の女性を描いた「負け犬の遠吠え」を筆頭に現代の女性を取り巻く状況を鋭く分析する。女性は就職、結婚、出産の選択によって微妙に立場が変わる。女性の視点からの働き方、さらに生き方への意見を聞いた。

酒井順子 エッセイスト

酒井順子 エッセイスト

――5月の新作の題名で女性に潜む男女の差別観を「男尊女子」と表現しています。

「今でも日本の女性には『男を上ということにしておいた方が収まりがいい』『恋人には引っ張ってほしい』という意識が根強いように感じます。データを見ると国会議員よりも地方の議員の方が女性が少ない。前に出て私がやると言うとたたかれやすいため、普通の女性は『政治家はなるものではない』との感覚が強いでしょう」

「日本の女性は男性を甘やかしてきました。何でもしてあげて許してあげて。今の働く女性が『私がお母さんが欲しいくらいだわ』と叫ぶのも無理はありません。男性におごられて当然とは思わない女性もいるはずです。男性の生きる力を強めるためには男尊女子力を弱めた方がいいでしょう。先行き不透明なこれからの時代は男女双方に経済力と家事能力が求められます。バリバリ働く男性と専業主婦の組み合わせは危険です」

■  ■

――災害時を舞台にした「地震と独身」では家族の絆を前に見過ごされがちだった独身者のドラマを追いかけました。

「家族がいる人は災害時には家に帰ったけれど、その分の仕事を担うなど、何かが起こった際には特に仕事では独身者に負荷がかかりがちです。言いたいことがあれば言った方がいいですね」

――政府や企業の「働き方改革」をどのように見ていますか。

「夫婦共働きで家事もしなければならないとなると、労働時間を短くしなければ男も女もへとへとになります。それでも家事や子育ては女性がして当然との意識は残っているし、特に介護は男性の参加が少なく、女性の負担が大きいですね」

「アファーマティブ・アクション(積極的な差別是正措置)もある程度は必要だと思います。だんだんと女性の地位を上げるよりも、突然ドーンと出世する荒療治をしないと進まないでしょう。男女雇用機会均等法が施行された前後こそ女性の就労意識が高まりましたが、私のような少し時間が経過した世代は『そこまでして働きたくない』との意識が強まりました。失敗を繰り返しながら実例を作っていくことが重要だと思います。子供もいて家庭もあって管理職にもなってとなるとパンパンになってしまいますし」

■  ■

――負け犬の遠吠えから14年がたちました。

「作品は独身女性への応援歌だと言われたり、負けている顔をしていても実は(仕事の成功などの面で)勝っているではないかとの指摘を受けたりしましたが、私は敗北感がいっぱいの中で書きました。今では読む人のそれぞれの感じ方で読んでいただければいいと思うようになりました」

「負けたと弱みを見せることは処世術でもあります。私は『腹を見せることでたたかれない』手法で生きてきました。結婚していない、子供も産んでいないことで何か言われても言い返したり反論したりせずに、ダメですみませんと言っておけば話は早く終わります」

――現代の女性はどこに幸福を見いだしていったらいいのでしょうか。

「無理に自分を飾ったり、重いよろいで防御したりする必要はありません。SNS(交流サイト)を使って幸せな自分を演出したいという欲求が高まっている時代ですが、かわいそうな人と見られても実物大の幸せが2つや3つあればいい。それは私にとってはエッセーを書いて表現することです。他人には幸せに見えなくても、また変に見られても『実質本位』が重要です」

「同性の友達と話すと気持ちが晴れてデトックス効果があります。同年代の女性は体の不調や親の介護など同じ部分で大変になってくる。(女子会ならぬ)婦人会で気持ちを吐露し合っています」

■ ■記者の読み方■ ■

酒井氏には東京と京都を比較した「都と京」、鉄道好きとしての記録「女流阿房列車」など趣味や文化に関する著作も多い。インタビューでは黒地に白い水玉模様のブラウス、茶色い縁の眼鏡といういでたち。似合う装いから自分の人生に必要な物を分かっている印象を受けた。エッセーの鮮烈さや大胆さからすると、ささやくような話し方は意外なほどだった。

現在30歳の記者には酒井氏の作品は学生時代からのバイブル。悩んでいる時に手に取ると胸がすっとして霧が晴れる思いがする。「自分の手の中に握れる等身大の幸せを手放さないように」との言葉を大事にしていきたい。(増田有莉)

 さかい・じゅんこ 立教女学院時代から雑誌「オリーブ」に寄稿。立教大社会卒業後は博報堂勤務を経て、エッセイストに。ベストセラーとなった2003年の「負け犬の遠吠え」のほか「子の無い人生」、新作の「男尊女子」など現代に生きる女性の生き方を分析する著書多数。東京都出身。

[日経産業新聞 7月19日付]

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