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働き方改革、それでも島耕作はモーレツに働く

今ほど日本人の働き方について考えさせられる時代はないかもしれない。ホワイトカラーの生産性が国際競争力を左右するなかで人手不足に陥り、官民が「働き方改革」を急ぐ。ビジネスマンの生きざまを描いた漫画の主人公「島耕作」なら、どう思うのか。作家の弘兼憲史氏(69)に聞いた。

――大手電機メーカーで働く島耕作は連載開始時は課長でしたが、異動や左遷、海外駐在を経て会長にまで上り詰めています。

「当初はオフィスラブの話のつもりで描いていましたが、部長になった頃から出世物語になってきて、日本経済や産業界の動きの色合いを濃くしていきました。島耕作はいわゆる『モーレツ社員』の最後の世代で、会社イコール人生です。残業もものすごくしますが、働かされているのではなく日本のために働く。日本から世界企業を出す気概を持っていた時代の会社員です」

「日本は世界での地位も上がったし、人々の考え方にもゆとりが出てきて、仕事と人生のバランスを取る方向に社会が向かっています。それ自体は悪いことではありません。全員がモーレツに働くのではない今の時代では自分はどのタイプなのかを考えてみるのも良いでしょう。100匹のアリの集団の中で60匹は普通のアリ、20匹はモーレツに働くアリ、20匹は怠けるアリだという説を聞いたことがあります。島耕作は一生懸命働く先頭のアリです。いつの時代でもそのような先頭のアリが組織を引っ張っていくのだと思います」

――昨今の「働き方改革」の機運をどう見ていますか。

「働き方改革を言うなら、仕事を減らすか人を増やすかする必要があると思います。残業をせずに定時で家に帰りなさいといっても仕事は持ち帰るのではないでしょうか。40~50年前からそうですよね」

――モーレツ社員といっても島耕作は我が強くなく、優しい人。出世もするし、女性にももてるように感じます。

「私の会社員時代には様々なタイプの上司がいましたが、島耕作はバランスのとれた調整型のキャラクターとして描いています。セクハラもパワハラもしません。日本の経営者で印象に残るのはサントリーホールディングス社長の新浪剛史さん。同族経営が続いていた企業に入って手腕を振るっています。次の一手をよく考えている人だという印象です。交流のある日本の経営者は、新浪さん以外にもみな、仕事が好きですよね」

「窮地に陥ると女性が助けてくれる設定にしたのはサラリーマンが読むからですが、社長になって60歳を過ぎた頃からは女性とのシーンも自然と少なくなってきました。島耕作は自分から女性を口説いたことはありません。女性からのアクションに対しては常に受け身です」

――仕事よりも趣味や生活を重んじる意識が強い世の中が舞台ならどのようなストーリーになるのでしょう。

「ビジネス漫画にはならないかもしれないですね。(料理上手で家庭を愛するお父さんが活躍する)『クッキングパパ』のように何らかのライフスタイルを描く物語になるかもしれない。でも働き方改革の中でも島耕作だったら働くと思いますよ。部下には休めと言うけれど、自分は働くと思います」

――弘兼さんが考える「理想の働き方」を教えてください。

「島耕作シリーズは日本の会社が世界でどういう立場になるのか、企業の人たちはどういう心持ちで働いているのかを描きたいと思って続けてきました。右肩上がりで夢があった時代の仕事が好きなビジネスパーソンの話です。理想は嫌々ではなく、好んで仕事をしていること。仕事をしている時間が人生では一番長いのですから、もし自分の今の仕事が嫌で嫌で仕方がないんだったら、すぐに辞めた方がいいと思います」

 ■記者の読み方■ ■

島耕作シリーズはバブル崩壊前後から現在までを舞台に製造業の中国移転や新興国の発展、大企業と下請けの関係、出世を巡る派閥や男の嫉妬などの人間関係や悲哀を現実感をもって描いている。主人公が働く初芝電器産業は弘兼氏が勤めた松下電器産業(現パナソニック)がモデルで、三洋電機を買収する現実の出来事を作品が先取りしたのは有名だ。

「仕事と生活のバランスを取るゆとりが生まれるのは悪いことではない」「島耕作を女性が助けてくれるのは漫画だから」。インタビューの前、「モーレツ」や「イケイケ」な作者の姿を想像して少し緊張していたが、ダンディーな印象を醸し出すその穏やかな語り口から、冷静に物語を作ってきたのだろうと感じた。(増田有莉)

 ひろかね・けんし 早大法卒、3年間の松下電器産業(現パナソニック)勤務を経て漫画家に。代表作「島耕作シリーズ」は1983年に連載開始。ほかに「黄昏流星群」「人間交差点」など。8月17日発売の「モーニング」(講談社)で新連載「島耕作の事件簿」が始まる。山口県出身。

[日経産業新聞 7月19日付]

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