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アップル、モバイル決済の普及度 米では年内に50%へ

鈴木淳也 モバイル決済ジャーナリスト

ITpro

米Apple(アップル)のモバイル決済サービス「Apple Pay(アップルペイ)」。このサービスについて関係各所を取材していると、同サービスの登場前後で業界地図が大きく変化しており、「そのインパクトは非常に大きい」という話が必ずといっていいほど聞こえてくる。

街中でApple Payのロゴを見かける機会も増えてきた。写真は台北市内のドラッグストアでの決済端末の画面(写真:鈴木淳也)

例えば日本ではJCBがApple Payの登場後にカード発行枚数とトランザクション数で「従来のカード業界では例を見ない増加」を達成しているなど、国内でのサービス開始から半年程度で無視できないレベルの影響が顕在化している。

実際、Android Pay(アンドロイドペイ)を擁する米Google(グーグル)や、国内ローンチパートナーの1社であるMasterCard、さらにおサイフケータイ陣営なども交えてApple Pay路線を追随する動きを見せており、その影響力は計り知れない。アップル自身も自らを「モバイル端末を使った非接触(NFC)決済で業界ナンバーワン」と称することをはばからず、この分野におけるトレンドリーダー的立場に立っている。

2017年6月に開催された開発者会議「WWDC17」で講演した米Appleソフトウエアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのCraig Federighi氏。Apple Payは業界ナンバーワンのモバイル決済サービスと話した(出所:Apple)

一方で、Apple Payに関する具体的な統計データはいまだ出されておらず、アップル自身も意図的に明言を避けているとみられる。関係パートナー各社でもApple Payの利用状況が分かる具体的な数字の拠出については"箝口令"が敷かれているようだ。

2017年5月2日には、アップルの2017年度第2四半期(2017年1~3月期)決算会見において、ごく一部の最新データが紹介された。このように、断片的に出てくる周辺情報からある程度推測するしかないのが現状だ。

1年間で450%の増加

同四半期決算会見でCEO(最高経営責任者)のTim Cook(ティム・クック)氏は、台湾とアイルランドでApple Payが開始され、サービス提供国・地域が15カ国となり、非接触決済が利用可能な小売拠点は2000万以上に達したと紹介された。さらに5月17日にはイタリアでサービスが開始された。

2016年10月25日にサービスが開始された日本は12カ国目だったので、Apple Payの提供範囲は日々拡大している。

5月17日にはイタリアでApple Payサービスが開始された。サービス提供は16カ国目(出所:Apple)

Apple Payの利用量は、提供国・地域の拡大、そして非接触決済が利用可能な小売拠点の増加とともに上昇カーブを描いている。クック氏によれば、過去1年間で450%の増加(5.5倍)が見られたという。ここでいう1年間とは2016年4月~2017年3月の期間のことで、この前の時点では米国、英国、カナダ、オーストラリア、中国の5カ国でしかサービスが始まっていない。

つまり、残り10カ国がこの1年間で対象地域として新たに追加されたことになる。しかもカナダでは当初、暫定的なローンチで、サービスの本格稼働は2016年5月まで待たなければいけなかった。実際のところ、Apple Payの直近での大幅な業績拡大はサービス対象国・地域の追加による部分が大きいとみられる。

一方で、クック氏は一部国・地域での業績について具体的な例もいくつか挙げた。例えば英国では、2016年に非接触決済が可能な拠点が44%増加したことで、Apple Payの月間トランザクションが300%近く増加したという。日本では50万人以上の通勤・通学客による月間当たりのトランザクションが2000万に達するなど、Apple Payを日々活用しているユーザーが一定数存在することも紹介している。

地域差の大きいApple Pay利用

「モバイル決済」としてのApple Payの成長には目を見張るものがあるものの、店頭での決済ボリューム全体からみれば、まだ"マイノリティ"なのが現実だ。

例えば、「mPOS(エムポス)」と呼ばれる決済サービスを提供している米Squareは、米カリフォルニアで開催された音楽イベントのポップアップショップにおいてApple Payを使った決済比率が全体の1割程度だったと報告している。最新テクノロジーに明るく、生活に余裕のある層が集まりやすいイベント会場の物販での話題なので、既存店舗での決済比率はさらに低いことが容易に想像できる。

米国では最近になり、ようやくICチップ入りの「EMV」と呼ばれるカードが発行されるようになった段階だが、先行する欧州やオーストラリアではこのICチップカードにNFC (Near Field Communication)決済の機能、つまりMasterCardの「PayPass」やVisaの「payWave」の機能を含んだカードが発行されている。

特にオーストラリアでは、非接触決済の大部分がモバイル端末ではなくこのNFC対応カードによるものとなっている。この事情は英国でも同様で、おそらくApple Pay利用が同国で伸びるのと同時に、NFCカード決済はそれ以上に伸びている可能性が高いと筆者は予想している。

Apple Payのサービスが開始されたものの、利用できる場所がまだごく一部に限られている地域もある。台湾が典型だ。台北市内では街のあちこちでApple Payに関するプロモーションを見かけるものの、実際に2017年5月末に同市内を回ったところ、Apple Payを利用できた場所はドラッグストアとTaipei 101という高層ビル内のモールくらいだ。

台湾でドラッグストアチェーンを展開するWatsons(本社は香港)。5月末に台湾に赴いた際、Apple Payが利用可能な唯一の小売チェーンだった(写真:鈴木淳也)

コンビニを含め、同市内での決済手段の多くは現金に依存しており、非接触決済でもクレジットカードを使った決済ではなく、「EasyCard」と呼ばれる交通系ICカードの利用が中心だ。マクドナルドに至っては独自の非接触ICカードの導入準備を進めており、Apple Payだけで市内を回るのは当面の間は難しいだろう。

こうした状況は、市内のほとんどの場所でApple Payが利用でき、さらに2017年7月には「オープンループ」と呼ばれるロンドン交通局(TfL)と同じ方式でApple Payを使って公共交通にそのまま乗車できる仕組みを導入するシンガポールとは大きな開きがある。

Taipei 101でのApple Payを使ったキャンペーン広告。ただしマクドナルドなど、101内であってもApple Payが利用できない店舗が複数存在する(写真:鈴木淳也)

17年内に米国での利用可能店舗は50%に

先ほどクック氏が世界15カ国で2000万以上のApple Pay利用が可能な非接触決済対応拠点があると説明したことを紹介したが、同氏はこのうちの450万が米国のものであると付記している。

2016年末に「Code Commerce」というカンファレンスでApple Payの責任者であるJennifer Bailey氏が語ったところによれば、同時点での米国での非接触対応店舗は約400万で、シェアは35%程度だという。

ここから計算すると、2017年3月末時点での450万店舗は、シェアでは約40%ということになる。アップルのFederighi氏が説明する「2017年内に50%」という水準は、現在の増加ペースを加味すれば十分達成可能な数字と言える。

「中小規模の小売店での対応が進んでいない」「すでにNFC対応決済端末を導入した店舗でも、バックエンドのソフトウエアの更新や整備が進んでおらず非接触決済が行えない」――。こうしたケースはまだ見られるものの、着実にApple Payを利用可能な場所は増えている。

米国では非常に多くの店舗でApple Payのロゴを見かける機会が増えている。McDonald'sの一部店舗ではKIOSK型の端末が導入され始めているほか、写真左のように新型POSへの移行も進み始めており、ライアビリティシフトによるEMV対応と合わせて全米規模でのApple Pay対応が行われつつある(写真:鈴木淳也)

筆者が6月上旬にサンフランシスコやサンノゼのベイエリア周辺をまわった際、現金を使ったのはチップとレストランでの割り勘による支払い、さらにIN-N-OUTというハンバーガーチェーンでの決済だけだ。

あとは高額な買い物でのクレジットカード利用、交通系ICカードでのバスや列車の利用を除いて、ほとんどの決済はApple Payで済ませることができた。現在Apple Payに未対応の店舗でも、おそらく今後1~2年内のタイミングでその多くが利用可能になると推測される。

[ITpro2017年6月21日付の記事を再構成]

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