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宇宙経済圏 大手からVBへ投資流星群

ANAホールディングスは14日、宇宙ごみ除去を目指すベンチャー企業(VB)に3億円出資したと発表した。これまで宇宙開発の資金は政府の関係機関が供給してきたが、民間企業がリスク覚悟で収益を狙って資金を出そうとしている。豊富な手元資金を抱えながら、投資先が見いだせずにいる日本企業。宇宙がフロンティアになる可能性がある。

アストロスケールの岡田CEO(左から2人目)と宇宙飛行士の山崎さん(右端)ら(14日、都内)

「人類が活動する場所には、必ずごみが出る」。14日午後、都内で行われた記者会見。ANAホールディングスから出資を受けるアストロスケールの岡田光信最高経営責任者(CEO)は宇宙ごみ除去事業の意義を強調した。

横に座っていたANAホールディングスの長峯豊之副社長も「航空業界で培った安全運航のノウハウを共有できる出資先だ。我々も60年前にたった2機のヘリコプターから始め、ベンチャー精神は共通している。宇宙ごみという難題に立ち向かう姿勢に共感した」と語った。

アストロスケールはシンガポールに本拠を置くVB。宇宙空間に漂うロケットや人工衛星の破片(デブリ)を除去することを目的に2013年に設立された。都内に製造開発拠点となる日本法人を置いている。

創業者の岡田CEOは大蔵省(現財務省)と米コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て起業した。あるとき訪れた宇宙関連の学会でデブリ問題に関心を抱き、将来のビジネスにつながると感じた。

まだ売り上げはほとんど立っていないとみられるが、18年から19年にかけてデブリの浮遊状況を計測したり、実際に除去したりする衛星を相次ぎ打ち上げ、20年のサービス実用化を目指す。ANAホールディングスのほか、切削工具メーカーのOSGなども出資したことを発表しており、アストロスケールは合計で約28億円を調達する。

「いまや宇宙はごみだらけの状態なんです」。岡田CEOはプレゼンテーション資料を指しながら力説した。

現在、宇宙空間をただよう直径1センチメートル以上のデブリは75万個、それ以下のものは1億個を上回るとされる。

小さいからとバカにはできない。漂っているとはいえ、そこは引力のない宇宙空間。デブリの移動速度は秒速7~8キロメートル、時速に直すと2万5000キロメートルを超える。新幹線の約100倍の速さだ。稼働中の人工衛星に衝突すれば大事故になりかねない。

この日の会見には宇宙飛行士の山崎直子さんも出席しており、デブリの問題についてこう語った。「デブリを避けるために宇宙船の軌道を変えることもある。ちょっとした傷が大事故につながる可能性もあり、メンテナンスにかかる費用は経済的にも損失だ。衛星が壊れて観測の精度が落ちれば、たとえば自動運転など地上の生活の安全にも直結する」

アストロスケールの衛星

すでにデブリになってしまったものを除去するのは難しい。だが、現役の衛星をデブリにしないようにすることは十分可能だ。あらかじめ衛星に金属製のマーカーを付けておけば、壊れたときに磁石を備えたアストロスケールの衛星が近づいて回収し、大気圏に落として焼却できる。

アストロスケールが顧客として想定しているのは、衛星を運用している企業や政府。衛星を新たに打ち上げて軌道に乗せるには、古くなった衛星を除去しなければならないからだ。

しかもロケット技術が進み、数千個の衛星を打ち上げる「メガ・コンステレーション」の時代を迎えている。多数の衛星を駆使して地表にある農機や建機の正確な位置を測定し、自動運転させるといったビジネスが可能になりつつある。

地球を周回する衛星の数が増えるほど、デブリによる障害が発生するリスクも高くなる。アストロスケールはそこに着目、まだ料金体系は決めていないが、有料でデブリを取り除くビジネスを描いている。

ANAホールディングスの投資余力は大きい。18年3月期の連結純利益は前期比約26%増の1250億円になるとみられる。訪日外国人の増加を背景に国際線が堅調で、14年3月期から4期連続の増益になる。この間に純利益は約6.6倍に膨らむ計算になる。

一方で、設備投資はそれほど増えていないため、社内に資金がたまり続けている。14年3月期末に約2400億円だった「現金および現金同等物」の残高は、17年3月期末には約3100億円に達した。

株主や投資家は上場企業に対して、余裕資金を社内にとどめるのではなく、投資などに充てて収益をより高めることを求める。それができないのなら配当増や自社株買いを要求する。株価と連動することが多い自己資本利益率(ROE)の引き上げにつながるからだ。

こうした「圧力」がかかっているのはANAホールディングスだけではない。

日銀によると、16年度末の企業(金融機関を除く)の現預金残高は267兆円に達しており、10年度に初めて200兆円を突破した後も伸び続けている。M&A(合併・買収)に資金を積極的に投じている企業は目立つが、全体で見れば、お金を使い切れていない日本企業が多いことを示している。

しかも20年の東京五輪・パラリンピックが終わると、関連需要が一巡して景気が落ち込むとの見方もある。そうなる前に新たな収益源を育てておきたい――。そんな思いを持つ経営者の目の前に浮上しているのが宇宙関連ビジネスだ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の松浦直人新事業促進部長は「企業が投資対象として宇宙ビジネスを意識するようになってきた」と話す。政府の宇宙開発予算は年間3000億円程度で、欧米に比べると数分の1の水準でしかない。資金力のある大手企業の参画は宇宙ビジネスにとって願ったりかなったりだ。

東京大学発VBで超小型衛星を活用した地球観測ビジネスを始めるアクセルスペース(東京・中央)。三井物産や衛星放送のスカパーJSAT、気象情報サービスのウェザーニューズなどが合計で約20億円をアクセルスペースに出資した。

ウェザーニューズの海氷観測衛星「WNISAT-1R」はアクセルスペースが開発した

アクセルスペースを率いる中村友哉社長は「新しいインフラがこれまでの世界を変える可能性があるという点に共感していただいた」と話す。最初の打ち上げ予定は12月。重さ80キログラムの超小型衛星を22年までに50個打ち上げ、撮影した画像データを低価格で販売して農場での作柄予測や監視に活用する。

高精細画像ではドローンなど競合も多いため、アクセルスペースはあえて画像の解像度を地上の自動車を識別できる程度に落とし、毎日情報を更新する点をPRしている。競合は米プラネット・ラボなど海外勢。顧客と見込む大規模農場主や大型プラントも海外にあり、海外でも知られた大手企業が出資者に名を連ねる効果は大きい。

政府の宇宙政策委員会が5月にまとめた「宇宙産業ビジョン」では、宇宙産業全体の市場規模(約1.2兆円)を30年代に倍増させる計画が盛り込まれた。成長の原動力はもっぱら民間企業。ベンチャーの将来性を大手の資金力が支え、さらに高い技術を得るという好循環を期待したい。

(市原朋大、安西明秀)

[日経産業新聞 7月17日付]

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