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球宴の思わぬ副産物 ベンチは研究と攻略の教室

今年のオールスターゲームも盛況のうちに終わった。ペナントレースのブレークタイムに行われる球宴は、選手にとってつかの間の安息のとき。日ごろは血走った目で白球を追うのに対し、このときばかりは童心に戻った感覚で野球を楽しんだのではないか。

私は中日時代の1980~84年、西武での85、86年と計7回オールスターに出場した。通算成績は39打数5安打で打率1割2分8厘。本塁打はゼロで、最優秀選手(MVP)になることはできなかった。

それでも中日のときに優秀選手に2度選ばれている。1度目は大阪球場で行われた82年の第3戦で、2-2の七回に代打で適時打を打った。全セの勝利を決める一打だったことで、先制2ランの掛布雅之(阪神)とともにMVP候補になったが、明暗を分けたのは守備だった。全セは七回に遊撃・真弓明信(阪神)、二塁・篠塚利夫(巨人)、一塁・掛布、捕手・山倉和博(巨人)の4人でトリプルプレーを完成。この珍事に絡んだことが決め手となり、MVPは掛布が手中に収めたのだった。

王さんの打撃フォームは時を重ねるごとに丸みを帯びていった印象がある

2度目は84年の第3戦。ナゴヤ球場での開催だったことも手伝い「1番・中堅」で先発出場、2安打を放って表彰された。MVPは8者連続奪三振の江川卓(巨人)。あと1人で江夏豊さんが阪神時代にマークした「9者連続」のオールスター記録に並ぶというところで、大石大二郎(近鉄)に外角のカーブを当てられてセカンドゴロになったシーンをご記憶の方も多いだろう。

うなるような直球でパの打者を牛耳っていただけに「何でカーブを投げたのかな」と思って江川に話を聞いたところ、仰天のプランを温めていた。2ストライクから低めのカーブを振らせた上で捕手がその球を後逸、振り逃げで出塁させ、次の打者から新記録となる10個目の三振を奪う狙いだったというのだ。いやはや「怪物」のクレバーさには恐れ入る。

間近で観察、またとない勉強の場

外野手だった私は公式戦では相手チームの打者を遠くから見ていただけに、一流選手の打撃をベンチから見られるオールスターはまたとない勉強の場だった。特につぶさに見たのが、構えたときのグリップの位置。グリップが顔の近くにあると狙ったポイントに向かって正確にバットを出すことができるが、これができていたのが王貞治さん(巨人)や若松勉さん(ヤクルト)、中日時代の先輩の谷沢健一さんだった。

田尾安志氏

王さんは顔から遠いところにグリップを置く時期もあったが、現役生活の後半は常に耳のそばにグリップがあった。時を重ねるごとに角が取れていったというか、フォームが丸みを帯びていった印象で、円熟味というのはこういうことをいうのかと思ったものだ。

様々な選手に打撃論を聞けるのもオールスターの醍醐味だが、苦手を克服するきっかけにもなった。中日にいたころ、対戦するのが嫌だった投手に広島などで活躍した福士敬章(松原明夫)さんがいた。打者に死球を当てても全く気にしない右投手。私は球をよけるのがうまく、16年間のプロ生活で死球は13個しかなかったが、福士さんにはよくブラッシングボールを投げられた。

体付近に投げさせないようにするには、と考えて思いついたのが福士さんと仲良くすること。全セの同僚としてオールスターに出たある年、思い切って福士さんに話しかけてみた。他愛のない話を重ねるうち、どんどん打ち解けていく。するとどうだろう、公式戦で再び敵味方に分かれても、体に近い球はほとんど投げてこなくなった。

投手は、一度親しみが湧いた打者には厳しい球を投げづらくなるもののようだ。最近はチームの垣根を越えて自主トレーニングをする選手が多いが、投手と組む野手にはチャンス。自らが強烈な"内角球"となって苦手投手の懐に飛び込んでいくことは立派な攻略法だといえる。

内角球といえば公式戦は厳しい戦いの連続で、1、2打席目と安打が出た後の3打席目は要注意だった。脅しとして体を目がけて投げられることを覚悟し、初球はまず打とうなどとは考えない。いつでもよけられる態勢で待った。そこでぽんとストライクを取られたら「当てられなくてよかった」とほっとしたものだった。

西武時代に山田久志さん(阪急)と対戦した際、1打席目で内角、2打席目は外角の球を打ってともに安打にしたことがあった。3打席目、「来るだろうな」と思っていたら案の定、初球で体の近くに投げられた。さっとよけて「もうないかな」と思っていると、2球目もブラッシングボール。さすがに頭にきて「山田さん、2球はないですよ」と抗議した。

14日の球宴第1戦でソフトバンク内川聖一は勝ち越し打を放った。技ありの一打だった=共同

投手とすれば、厳しい内角球を見せることで打者に外角球をより遠く感じさせる視覚効果は必須。分業制が定着した今と違って昔の投手は先発完投が主流で、1試合に同じ投手と3度も4度も対戦したから、試合の後半になるとこうした駆け引きがよくあった。

そんな果たし合いのような対決で神経をすり減らしたから、オールスターは楽しいものという感覚しかなかった。公式戦では主に1番を打ち、とにかく出塁することを意識してプレーした一方、オールスターはチームへの献身は二の次。1番打者の役割から解放されて自分中心にやれたから、いい気分転換になった。どんな球でもぶんぶん振れるのが楽しく「ああ、こうやって野球がやれるんだな」と本来の魅力を再確認できた。

パ、セに追いつこうと選手も燃える

球団もオールスターの影響力をよくわかっていた。西武時代に驚いたのが、選出された選手にボーナスが出たこと。ファン投票なら20万円、監督推薦はその半額だったと記憶している。西武に限らず、テレビ中継の少なかった「実力のパ」の各球団は人気でもセ・リーグに追い付こうと必死で、露出度の高いオールスターに出れば選手も球団も燃えたものだった。

選手が奮起した背景には賞品の豪華さもあった。MVPは賞金に加えて車などの賞品がごっそり。金額にして合計700万円相当はあったと思う。年俸を500万円上げてもらうのも大変な時代だから、まさに「夢の球宴」。主に冠スポンサーが賞を出す今と違って、いろいろなスポンサーが付いたからこその大盤振る舞いだった。

賞の中身だけをみれば昔の方がよかったと思うが、オールスターに出ることの名誉は昔も今も変わらない。活躍すれば気分よくペナントレースに戻れる。さて、今年の球宴で活躍した選手は17日からの後半戦でも暴れるのか。選から漏れた選手の巻き返しにも注目だ。宴(うたげ)の後は「夢の真剣勝負」に期待したい。

(野球評論家)

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