2019年7月17日(水)

治療費「1人7400万円」 高いか安いか  がん治療解体新書 第2部(4)

2017/7/24 6:30
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次世代のがん免疫療法として存在感を増すCAR-T。米国では今年の夏にも世界で初めてCAR-T治療が承認される可能性が高く、承認申請しているスイスのノバルティスや米カイトがどんな値段をつけるのか、関心が高まる。CAR-Tは患者に応じたオーダーメードのため数千万円になると試算されており、早くも議論は沸騰している。

■健康寿命が3倍なら値段3倍

がん免疫薬「オプジーボ」に続き「CAR-T」の価格が話題となりそうだ(東京・霞が関の厚生労働省)

がん免疫薬「オプジーボ」に続き「CAR-T」の価格が話題となりそうだ(東京・霞が関の厚生労働省)

1人当たり7400万円――。今年3月、英国で医薬品の価値評価を行う英国立医療技術評価機構(NICE=ナイス)が公表したCAR-T治療の値段だ。小児急性リンパ性白血病に対する費用対効果を分析して、国が許容できる費用の上限を「1人当たり約50万ポンド(7400万円)」と算出した。

昨年、日本で「高すぎる」と話題になった免疫薬「オプジーボ」が3500万円(年間)。それに匹敵する水準だ。「開発企業には安堵感が漂った」(製薬企業関係者)が、医療費を支払う国や保険者には衝撃的な数字と言える。

NICEの評価方式はこうだ。まず、既存の治療により獲得できる健康寿命を割り出す。そのうえで治療にかかった費用を精査、1年健康寿命を延ばすのにいくらかかるかを計算する。

そしてこれをもとにCAR-T治療の値段を割り出すのだ。既存のがん治療の3倍健康寿命が延びるなら値段も3倍といった具合。NICEは治療により患者が従来型治療より10年以上健康に生き延びられると想定、この値段を割り出した。

CAR-T治療が比較対象とする既存治療は抗がん剤などの化学療法と骨髄移植だ。このうち骨髄移植を行う場合、日本では1千万円、米国では3千万~5千万円。既存治療と比べて高い水準ではない。NICEがCAR-T治療の値段をつり上げたわけではない。

NICEではじいたCAR-T治療の価格は日本でCAR-T治療が導入された場合の費用に大きな影響を与える。日本の薬価制度には外国平均価格調整という制度があり高額な海外の薬価に引きずられかねない。

日本の薬価は製造コストなど原価に利潤を乗せて決まる。正確な製造コストは厚生労働省も公開しておらず、日本の薬価は「ブラックボックス」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。ただ、確実に言えるのはCAR-T治療の製造原価は従来型医薬品に比べると明らかに高いということだ。

■生きている細胞そのもの

なぜならCAR-Tは生きている細胞そのもの。それを医薬品として製造するのは非常に工程が複雑だからだ。

まずCAR-Tを製造する場合、血液を材料とする。人から血液を採取し、ここからT細胞を取り出す。

T細胞を取り出したら今度は遺伝子操作。CARの遺伝子を乗せたウイルスベクターをT細胞にわざと感染させ、感染してT細胞に乗り移ったウイルスに遺伝子操作を行わせるのだ。そのうえでクリーンルームで衛生管理、2週間程度かけ、培養技術で10億個程度まで増やして体内に戻す。

現在、開発が先行しているのは「自家」と呼ばれる方法で、最大の問題は割高なことだ。自家ではその患者の治療に限定したCAR-Tしか作れないため効率が悪い。

10億個というのは1人の患者の治療に必要な分量でしかない。本来、わざわざ遺伝子操作までしてCAR-Tをつくるのだから、100人分、1千人分と大量生産できればコストが下がる。

そこで「CAR-Tを大量生産し1人ではなく多数の患者の治療に使うことができないか」、そんな研究も始まっている。もし実現すればコストは数十万円から数百万円まで下がる。

■投与時に過剰な免疫反応も

ただ、ハードルはある。他人の細胞で作った「他家」のCAR-Tをそのまま投与してしまうと、投与時に過剰な免疫反応が起きてしまう。

他家のCAR-Tが患者の正常組織を異物と判断し攻撃したり、逆に投与したCAR-Tを患者の免疫が異物と判断して駆逐してしまったり、といった事故が発生するケースが多い。その過程で免疫性のショックが起き、患者が死亡する危険性すらある。

このため、最近ではその「他家」の弱点を克服しようとする動きが活発になっている。

15年11月、仏ベンチャーのセレクティス社が驚きのニュースを発表した。健常なヒトから作った同社の他家CAR-T細胞「UCART」を、患者に投与したというものだ。

過剰な免疫反応をどう防いだか。

セレクティスが取った手法は、CAR-T上にある過剰な免疫反応の原因となるたんぱく質をゲノム編集技術を使って消すというもの。「タレン(TALEN)」と呼ばれるもので、不要なたんぱく質を狙い通り正確にしかも簡単に消すことができる。この他にもペンシルベニア大などでは「クリスパーキャス9」というゲノム編集技術を使い他家で治療する研究を進めている。

(企業報道部・野村和博、大阪経済部・高田倫志、前野雅弥)

〔日経産業新聞 7月13日付〕

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