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不安定な監督の椅子 J1すでに4人が交代

サッカージャーナリスト 大住良之

7月9日Jリーグ1部(J1)第18節の2日目。この日唯一行われた浦和-新潟戦は、異様な空気に包まれた。最下位の新潟を迎えた8位浦和は、4月末からの9試合で2勝1分け6敗。それまでの8試合が6勝1分け1敗と、圧倒的な強さで首位を独走していたところから急下降し、危機的な状況に陥っていた。

選手に救われたペトロビッチ監督

この4日前には、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のために延期されていた川崎とのアウェーゲームを1-4で落とし、試合後、怒ったサポーターの前でミハイロ・ペトロビッチ監督が「次から連勝できなければ辞任する」と言ったことまで報道された。

その浦和は、自らのCKからカウンターを受けて先制点を献上し、0-1で前半を終了。そして後半も、なかなか相手の守備を崩すことができず、時計が進んでいった。

今季序盤に圧倒的な強さを見せ、ACLでも韓国の済州を大逆転で退けて準々決勝進出を決めた浦和。しかしACLの戦いで全精力を使い果たしてしまったかのように、6月に入るとガクンと調子を落とした。7月9日の新潟戦でも、攻守とも本調子からは遠い状況だった。

しかし最後の15分間に、浦和の選手たちは体のいちばん奥底にあった力を絞り出した。MF阿部勇樹とFWラファエルシルバの得点で逆転し、かろうじて2-1の勝利。ペトロビッチ監督を辞任の瀬戸際から救った。

今季、J1では、すでに4つのクラブで「監督交代」が行われている。

監督交代第1号となった呂比須監督就任後も、新潟は苦境を抜け出せていない=共同

「第1号」が新潟だった。5月11日、全34節中の10節が終了したところで今季就任したばかりの三浦文丈監督が辞任し、同日に日本国籍をもつブラジル出身の呂比須ワグナーの新監督内定が発表された。

第11節は片渕浩一郎コーチが監督代行として戦い、呂比須新監督は第12節から指揮を執っている。しかし初戦で札幌に1-0で勝った後は7月9日の浦和戦まで6連敗。第18節終了時点で勝ち点8、最下位の18位に沈んだままだ。再度の監督交代となる恐れも十分ある。

「第2号」は大宮だった。昨年J2から復帰した1年目で5位というクラブ史上最高成績をもたらした渋谷洋樹監督が5月28日、第13節を終了した時点で解任され、伊藤彰コーチが昇格した。この時点で2勝1分け10敗、勝ち点7で最下位。開幕から6連敗し、2カ月間勝利がなかったことから、仕方のない結果だった。

新潟と違うのは、大宮は監督交代の効果がはっきりと出たことだ。14節から18節までの5試合は2勝2分け1敗。順位はまだ16位と「降格圏」だが、勝ち点を15に伸ばし、「残留圏」の14位甲府、15位札幌に1差まで迫っている。

優勝3回も「結果に対する責任」

「第3号」を飛ばし、先に「第4号」について触れよう。7月4日、広島は過去5シーズンで3回の優勝に導いた森保一監督の「退任」を発表した。シーズンのちょうど半分、17節を終えて2勝4分け11敗、勝ち点10で17位。降格の危機に立たされ、森保監督を含めたクラブ幹部で話し合いを行った席で森保監督から辞任の申し出があったという。クラブ側は慰留したが、森保監督としては「結果に対する責任は自分が取らなければならない」と考えたのだろう。第18節と7月12日の天皇杯3回戦は横内昭展コーチが監督代行を務め、それ以降はスウェーデン人のヤン・ヨンソン新監督が指揮をとると7月10日に発表された。

18クラブ、全34節で行われているJ1。「残留(15位以上)」の目安は「試合数プラスアルファの勝ち点」と言われている。折り返しの17節の時点で17に届かないクラブ(甲府と札幌を含む)は「黄信号」であり、11の広島、8の新潟は「赤信号」が素早く点滅する状況と言える。これらのクラブで監督交代が行われるのは、状況としては当然といえる。

しかしそういう状況下ではない監督交代もある。それが「第3号」の鹿島だ。昨年の優勝監督であり、国際サッカー連盟(FIFA)クラブワールドカップ準優勝、天皇杯優勝に導いた石井正忠監督が、5月31日に突然解任されたのだ。

鹿島・大岩監督(左)は就任後5勝1分けと好調。広島・森保監督(右)はこの鹿島戦の1カ月後に「退任」した=共同

その前日、鹿島はACLで中国の広州恒大を2-1で下したものの、「アウェーゴールルール」で準々決勝進出を逃していた。この時点でJリーグでは12戦して7勝5敗、勝ち点21で7位。しかし首位柏とは6勝ち点差しかなく、しかも1試合少ない状態だった。負け数が多いものの、けっして悲観する成績ではなかった。

ところが鹿島は「今季の成績を総合的に考慮したうえで」石井監督を解任することを決めたという。後任には大岩剛コーチが昇格した。

結果を見ると、鹿島は監督交代でいまのところ見事すぎる成功を収めている。大岩監督になってからの6試合で5勝1分け。7月上旬の「中2日でのアウェー3連戦」という非常識な日程も、最後のFC東京戦を2-2で引き分けて2勝1分けで乗り切り、第18節終了時点で首位C大阪に勝ち点1差の2位を占めている。

手っ取り早くチームに刺激

これまでの記事で、同じ「監督交代」でも「辞任」「解任」「退任」といろいろな表現があったのにお気づきだろうか。こうした表現はクラブの発表によるものだが、「辞任」とは監督自身の意思で交代が行われること。前後の事情から見て、広島・森保監督の「退任」も「辞任」と表現するのがふさわしい。一方、「解任」は、クラブ側がいわば「クビ」にするという形である。1997年10月に日本サッカー協会が日本代表監督の交代を行ったが、そのときには「更迭」と表現されたが、これも「解任」と言い換えていいだろう。

ともかく、こうして2月末の開幕からわずか4カ月間で18クラブ18人の監督のうち4人がそのポジションから去り、さらに浦和のペトロビッチ監督だけでなく、「解任か」の報道が出た神戸のネルシーニョ監督(18節終了時で8勝2分け8敗、勝ち点26で9位)、第18節の鹿島戦(2-2で引き分け)で敗れれば解任論が出るのは必至だったFC東京の篠田善之監督(7勝4分け7敗、勝ち点25で10位)ら苦しい立場に立たされている監督も少なからずいる。

試合数の多いプロ野球なら13連敗してもメディアから「解任論」など出ない。しかしJリーグでは、いろいろな状況で監督たちは自分の立場の弱さを感じることになる。

「サッカーの監督には2種類ある。すでにクビになった監督と、これからクビになる監督だ」

浦和・ペトロビッチ監督の苦境は変わらない=共同

こんなイングリッシュ・ジョークがある。選手に対して、ときに「絶対君主」のような振る舞いをする監督もいるが、実際にはプロサッカーの世界で監督というのはそれほど不安定な職業なのだ。

成績が悪いとき、最も手っ取り早く刺激を与える方法が監督交代だからだ。チーム力を急激に上げられる選手など簡単に獲得できるものではない。しかし監督なら、他クラブを解任されて新ポジションを待っている人がいくらでもいる。監督交代という刺激で選手たちを発奮させ、あるいは新監督の選手起用によってチームを活性化させるというのが、手っ取り早いだけでなく、最も安価な方法なのだ。

イングランドでは、プレミアリーグから4部相当の「フットボールリーグ2」まで全92のプロクラブがあるが、2016~17年シーズン中に、何と45人もの監督交代があった。

シーズンを折り返したばかりのJリーグはさて、今後どうなるのだろうか。

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