免疫療法、日本流で進化 がん治療・解体新書 第2部(2)

2017/7/20 6:30
保存
共有
印刷
その他

「急に思い立ってやってるんじゃないですから」――。遺伝子研究で定評のあるタカラバイオの仲尾功一社長は少し誇らしそうだ。最近、急激に脚光を浴びる次世代のがん免疫療法だが「当社は随分前からその有効性に着目、T細胞を遺伝子操作して強くする治療法に日本でいち早く取り組みを始めた企業だ」と話す。

■T細胞のセンシング能力強化

遺伝子操作を行うタカラバイオの新研究棟

遺伝子操作を行うタカラバイオの新研究棟

2014年、滋賀県草津市に完成したタカラバイオの新研究棟は同社が免疫療法の老舗であることの何よりの証拠だ。がんを攻撃するT細胞の遺伝子を改変する時に必要な、ウイルスベクター(CARやTCR遺伝子の乗り物)の製造設備や、遺伝子を改変した後のT細胞を培養する装置を備える。CAR-T治療の臨床試験(治験)に必要なパーツのいわば百貨店と言える。

この研究棟でタカラバイオが今、急ピッチで進めるのが、がん免疫治療の研究。医療業界で最も注目を集めるCAR-T療法はもちろんだが、もう1つユニークな別の免疫療法の研究にも着手している。TCR-T療法だ。

TCR-T治療は遺伝子操作により、がんを攻撃するT細胞のセンシング技術を高める点ではCAR-T治療と同じ。ただ、CAR-T治療の場合、抗体の先端にある「可変部」が持つセンシング技術をT細胞に持たせるのに対して、TCR-TはもともとT細胞が持つ「T細胞受容体(TCR)」のセンシング能力を高める手法をとる。

TCR-T療法の最大のメリットは捕捉できるがんの領域が広いことだ。特に大きいのは、たんぱく質の断片とHLA(ヒト白血球抗原)が連結して表面に浮き上がってきたものを捕捉できる点だ。

これはCAR-Tでは捉えることができない。この差は大きい。がん細胞は遺伝子変異により、内部に正常細胞にはない多くの異常なたんぱく質を蓄える。

その断片とHLAが連結、表面に浮き上がっているものを捕捉できるわけだから、TCR-T療法では精度の高いがん細胞の捕捉が実現できるわけだ。

ただ、問題はある。CAR-Tの場合は抗体のレーダーを組み込んだキメラ受容体だけに絞り込んで数を増やすことができるが、TCR-Tの場合はそうはいかない。がんではなく他のウイルスや細菌を捕捉するレーダーのパーツと混ざってしまい雑種のレーダーができてしまうのだ。

こうなると雑種のレーダーが正常細胞を攻撃してしまい、副作用を引き起こす可能性も出てくる。

■雑種レーダーを排除

そこで最近、タカラバイオが力を入れているのが「RNA(核酸)干渉」という技術の開発だ。がん以外の異物を感知する雑種レーダーが育たないよう核酸を使って遺伝子を操作するのだ。これにより、雑種レーダー形成を担う遺伝子を排除してしまう。

結果的にT細胞にがん細胞を感知するレーダーを中心に増殖させることが可能になる。レーダーが増えた分、T細胞のがんの検出力が広がり、がんへの攻撃力を引き上げることが可能になる。

タカラバイオが遺伝子治療法に参入した背景には、これまで長年、遺伝子治療などの技術を支えてきた蓄積がある。

タカラバイオの親会社である宝酒造がバイオ分野に参入したのは1970年代後半だ。遺伝子操作に使う試薬を大学や製薬企業に販売することからスタートした。その後、タカラバイオを設立、遺伝子操作や細胞培養などバイオ実験の受託を行うようになり、遺伝子操作の技術を磨いた。

90年代には、培った技術を医療に生かすため、遺伝子治療の実用化に向けた研究を開始。大阪大学など世界の中で遺伝子治療の分野をリードしていた大学の教授らと連携、臨床研究への技術提供を行ってきた。CAR-TやTCR-Tはその延長上にある。

CAR-T、TCR-Tに国内製薬会社としていち早く着目、布石を打っていたタカラバイオ。その成果が少しずつ形になろうとしている。

(企業報道部・野村和博、大阪経済部・高田倫志、前野雅弥)

〔日経産業新聞 7月11日付〕

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]