日経産業新聞セレクション

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

企業遺産 ドコモのショルダーホン 日航機事故で緊急登板

2017/7/11 6:30
共有
保存
印刷
その他

 NTTドコモが発足してから25年が過ぎた。携帯電話の原型となった「ショルダーホン」をNTTが世に送り出したのが、1985年の暑い夏。当時の傍流だった開発者たちの思いが詰まったケータイはその後、誰も予想できなかった普及曲線を描く。

■超法規的措置で使用許可

 85年8月15日、NTTの無線技術者だった加藤薫氏(66、現ドコモ取締役相談役)は、戦後最悪とも言われる航空機事故の現場に向かった。3日前に日航ジャンボ機が墜落した御巣鷹山だ。草をかき分けて登山し、山の尾根に立つと真っ黒な煙が見えた。

 「ここから先には立ち入れません」。現場捜索に追われる警官に加藤氏が差し出したのが、開発したばかりのショルダーホンだった。加藤氏は自衛隊の関係者を呼んでもらい、その場でショルダーホンが家庭の電話機のように通話できることを実演した。

日本電信電話公社時代にショルダーホン開発に携わったNTTドコモの加藤薫取締役相談役

日本電信電話公社時代にショルダーホン開発に携わったNTTドコモの加藤薫取締役相談役

 ショルダーホンの重さは3キロで一度の充電で話せるのは40分だけ。大きめの弁当箱のような箱に電話機がくっついている。ストラップで肩からぶら下げて持ち歩くが、当然ながらズシリと重い。社内では「着脱式自動車電話」と呼ばれ、あくまで持ち運べる自動車電話という位置づけだった。

 それでも御巣鷹山の捜索で使われていた無線機より性能は高い。事前の性能評価では、山中に2つあった中継局を少なくとも1つにはできるという結果が出ていた。12台が捜索隊に提供され実際に使われた。

 実はショルダーホンの商用化は9月に予定していた。この時点で電波利用の免許は得ていなかったが、NTTは郵政省(現総務省)に超法規的措置の適用を申請。水戸市と宇都宮市の拠点から電波を送ってつながるようにした。加藤氏をリーダーに8人を事故現場に送り込んだ。ショルダーホンは予期せぬ緊急登板でデビューした。

ショルダーホンは1985年の日航機墜落事故の際、超法規的措置で使用が認められた(群馬県御巣鷹山)

ショルダーホンは1985年の日航機墜落事故の際、超法規的措置で使用が認められた(群馬県御巣鷹山)

 その6年前に日本電信電話公社(現NTT)に無線技術者として入社したのが、現ドコモ社長の吉沢和弘氏(62)だ。チューター役が加藤氏。2人ともショルダーホンの開発陣に名を連ねた。

■ケータイつくった「無線屋」

 2人が次に目指したのが正真正銘の携帯だ。1年半後に完成したのが日本初の携帯「TZ―802型」だ。重さは約900グラム。当時としては画期的な小ささだった。

 最も苦労したのは電波を捉えるアンテナだった。本体から引き出せる形に行き着くだけで1年ほどかかった。NECや松下電器産業(現パナソニック)など他社の技術者も訪ね歩いた吉沢氏は「自分一人では何もできないということを学んだ」と話す。

 「無線屋」。固定電話の会社だったNTTで、加藤氏や吉沢氏は、半ば蔑みの意味を込めてこう呼ばれていた。完全な傍流だが、吉沢氏は「傍流だからこそ面白いことができる」と考えたと言う。92年にドコモの前身となるNTT移動通信網がNTT本体から分離される際に、吉沢氏は自ら手を挙げて参加した。

画像の拡大

 加藤氏は94年に加わったが部下から冗談交じりに「左遷ですか」と言われた。当時はまだ携帯ではなく女子高生の間で人気だったポケベルでなんとかやりくりしていた。

 だが90年代後半になると携帯電話が一気に普及する。99年にはネットをケータイで使えるiモードが実用化され、ドコモが爆発的な成長を始めた。固定電話は97年を境に減少に転じ、かつての無線屋が主役に躍り出た。加藤氏は2012年にドコモ社長となり、16年には苦楽を共にした吉沢氏にバトンをつないだ。

 だが、2人の無線屋がトップとなった頃、ドコモは新たな試練にさらされる。米アップルがiPhoneで幕を開いたスマートフォン(スマホ)時代への挑戦だ。

■iモードの成功が足かせに

 ドコモはショルダーホンを源流に日本初の携帯電話を発売し、1990年代に携帯の王者となった。99年2月、その地位を盤石にするかに思えた新サービスを始めた。ネット接続サービス「iモード」だ。

 iモードはドコモの3人の社員が中心となって生まれた。その一人、元雑誌編集者の松永真理氏(62)は著書「iモード事件」で「IT革命なんてそんな大それたことは、はなから思ってもいなかった」と振り返るが、紛れもなく電話とネットが融合するモバイルインターネット時代の到来という「事件」だった。

「iモード」は女優の広末涼子さんがキャラクターを務めた

「iモード」は女優の広末涼子さんがキャラクターを務めた

 その実力は当初から認識されていたわけではない。かつての無線屋、加藤氏が初めてiモードで読んだ電子メールは、3人衆の一人の榎啓一氏(68)から届いた。液晶の画面に小さく映る字に加藤氏は思わず言った。「榎さん、こんな字読めませんよ」

 加藤氏の予想を反してiモードは爆発的にヒットする。ライバルのKDDIも「EZweb」で追随する。両社の意向を受けて日本の電機メーカーが次々と開発する端末は当時、間違いなく世界をリードしていた。だが、そこに落とし穴があった。iモードは日本国内で独自の進化を遂げ、海外展開で後手に回った。

 2007年、本当の事件が起きる。米アップルが「iPhone」を発売し、スマホ時代の幕が開いたのだ。iモード機にこだわったドコモは完全にスマホの威力を見誤り、最先端だった日本製の携帯はいつしか、絶海で閉ざされた生態系を持つガラパゴス諸島になぞらえ「ガラケー」と呼ばれるようになる。

 12年にドコモの社長に就任した加藤氏は翌年にiPhone導入を決めた。ソフトバンクに遅れること5年。不利な契約から不平等条約とも皮肉られ、NTTグループ内からも「ドコモはアップルの代理店に成り下がった」との批判も漏れた。加藤氏も「iモードの大成功が足かせになったのは否めない」と認める。

 そこで方向転換を打ち出す。スマホそのものではなくスマホの周辺で生まれる「生態系」を収益源に取り込み始めた。雑誌が読み放題の「dマガジン」や映像配信の「dTV」だ。16年に加藤氏はかつてショルダーホンの開発で苦楽をともにした吉沢氏に社長のバトンを託した。異業種と連携して生態系を育てる路線は同じ。吉沢氏は「パートナー企業のビジネス拡大がドコモの成長につながる」と話す。

 「スマートライフ領域」と呼ぶ生態系ビジネスの営業利益は17年3月期に初めて1000億円を超えた。それでもまだ利益全体の12%だ。自動運転、仮想現実(VR)、人工知能(AI)搭載ロボ――。吉沢氏は20年に実用化する次世代の携帯通信規格「5G」に向け、新事業のタネをまく。かつて自らの手で生み出した携帯ビジネスでの再挑戦が始まる。

(企業報道部 杉本貴司)

[日経産業新聞 2017年7月10日・11日付]

「日経産業新聞」をタブレットやスマートフォンで

 全紙面を画面で閲覧でき、各記事は横書きのテキストでも読めます。記事の検索や保存も可能。直近30日間分の紙面が閲覧可能。電子版の有料会員の方は、月額1500円の追加料金でお読み頂けます。


人気記事をまとめてチェック

「ビジネスリーダー」の週刊メールマガジン無料配信中
「ビジネスリーダー」のツイッターアカウントを開設しました。

日経産業新聞セレクションをMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップビジネスリーダートップ

企業・業界をもっと詳しく

企業がわかる。業界がみえる。ニュースとデータをまとめてチェック!

【PR】

日経産業新聞セレクション 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

塩野義製薬の研究所では新薬のタネとなる最適な化合物を探索している(大阪府豊中市の中核研究拠点)

塩野義製薬「手代木流」で10年先も勝つ

 世界で巨額買収が相次ぐ激動の製薬業界において、連結売上高が3000億円規模の塩野義製薬が屈指の好業績を続けている。すでに売上高営業利益率は30%を突破した。少し前まで「鳴かず飛ばず」とされた名門を復…続き (9/23)

カプコンの「モンスターハンター:ワールド」のブース(21日、千葉市美浜区の幕張メッセ)

辻本流 撃つは巨砲のみ

 カプコンは21日に千葉市で開幕した「東京ゲームショウ2017」で最新ゲーム「モンスターハンターワールド」を初公開した。累計4000万本を販売してきた人気シリーズだが、今回は最新技術を駆使し同社を世界…続き (9/22)

ちょっと紹介 明日(22日)の紙面

カプコン、辻本「大作主義」真骨頂
 日経産業新聞の明日(22日)の紙面を紹介。カプコンは21日に千葉市で開幕した「東京ゲームショウ2017」で最新ゲーム「モンスターハンターワールド」を初公開しました。…続き (9/21)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

今週の予定 (日付クリックでスケジュール表示)

<9/18の予定>
  • 敬老の日
  • 8月の中国70都市の新築住宅価格動向(10:30)
  • 9月の全米住宅建設業協会(NAHB)住宅市場指数(23:00)
  • 7月の対米証券投資(19日5:00)
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<9/19の予定>
  • 【国内】
  • 閣議
  • 9月のQUICK外為月次調査(11:00)
  • 9月のESPフォーキャスト調査(日本経済研究センター、15:00頃)
  • 【海外】
  • 豪中銀理事会の議事要旨公表(5日開催分、10:30)
  • 9月の欧州経済研究センター(ZEW)の独景気予測指数(18:00)
  • 4~6月期の米経常収支(21:30)
  • 8月の米住宅着工件数(21:30)
  • 8月の米輸出入物価指数(21:30)
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<9/20の予定>
  • 【国内】
  • 8月の貿易統計速報(財務省、8:50)
  • 4~6月期の資金循環統計速報(8:50)
  • 3カ月物国庫短期証券の入札(財務省、10:20)
  • 日銀金融政策決定会合(21日まで)
  • 鈴木日証協会長の記者会見(14:30)
  • 三村日商会頭の記者会見(15:00)
  • 8月の訪日外国人客数(日本政府観光局、16:00)
  • 8月の主要コンビニエンスストア売上高(日本フランチャイズチェーン協会、16:00)
  • 東証ジャスダック上場=ニーズウェル
  • 【海外】
  • 8月のマレーシア消費者物価指数(CPI)
  • 8月の英小売売上高(17:30)
  • 8月の米中古住宅販売件数(23:00)
  • 米エネルギー省の石油在庫統計(週間、23:30)
  • 米連邦公開市場委員会(FOMC)結果発表(21日3:00)
  • イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が会見(21日3:30)
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<9/21の予定>
  • 【国内】
  • 日銀金融政策決定会合の結果発表
  • 8月の白物家電出荷額(JEMA、10:00)
  • 8月の食品スーパー売上高(日本スーパーマーケット協会など、13:00)
  • 8月の全国スーパー売上高(日本チェーンストア協会、14:00)
  • 8月の全国百貨店売上高(日本百貨店協会、15:00)
  • 黒田日銀総裁が記者会見(15:30)
  • 西川自工会会長の記者会見
  • 日商通常会員総会
  • ゲーム見本市「東京ゲームショウ」が開幕(幕張メッセ、24日まで)
  • 【海外】
  • フィリピン中銀が政策金利を発表
  • 南アフリカ中銀が政策金利を発表
  • 米新規失業保険申請件数(週間、21:30)
  • 9月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数(21:30)
  • 8月の米景気先行指標総合指数(23:00)
  • インドネシア市場が休場
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<9/22の予定>
  • 【国内】
  • 閣議
  • 対外・対内証券売買契約(週間、財務省、8:50)
  • 7月の毎月勤労統計確報(厚労省、9:00)
  • 前日銀審議委員の木内登英氏が会見(日本記者クラブ、15:00)
  • 社員に違法残業をさせたとして労働基準法違反に問われた電通の初公判(東京簡裁)
  • ゲーム見本市「東京ゲームショウ」(幕張メッセ、24日まで)
  • 東証マザーズ上場=PKSHA Technology
  • 【海外】
  • インドネシア中銀が政策金利を発表
  • 9月の仏購買担当者景気指数(PMI)速報値(16:00)
  • 9月の独PMI速報値(16:30)
  • 9月のユーロ圏PMI速報値(17:00)
  • 産油国閣僚会議(ウィーン)
  • メイ英首相が欧州連合(EU)離脱で重要演説
  • ジョージ・カンザスシティー連銀総裁が講演(22:30)
  • 9月の米購買担当者景気指数(PMI)速報値(IHSマークイット調べ、22:45)
  • カプラン・ダラス連銀総裁が講演(23日2:30)
  • マレーシア市場が休場
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

[PR]