2019年1月17日(木)

ロンドン火災、大規模改修が被害を拡大

2017/7/5 23:00
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日経アーキテクチュア

「ロンドンでこれほどの大火災が発生するとは…」。建築や防災の専門家の声に耳を傾けると、被害の大きさに対する驚きが自然に口をついて出てきた。延焼の規模や被害者の多さなど、先進国の大都市では近年まれにみる大規模火災に、肝を冷やした建築関係者は多かった。

現地時間6月14日未明に大規模火災が発生した英国ロンドンの「グレンフェル・タワー」。24 階建て、高さ68mの高層公営住宅は、外壁に張り付けた断熱材などを燃やし、急激に上層階まで延焼した(写真:東京大学生産技術研究所・野城智也教授)

現地時間6月14日未明に大規模火災が発生した英国ロンドンの「グレンフェル・タワー」。24 階建て、高さ68mの高層公営住宅は、外壁に張り付けた断熱材などを燃やし、急激に上層階まで延焼した(写真:東京大学生産技術研究所・野城智也教授)

2017年6月14日午前1時20分ごろ(日本時間14日午前9時20分ごろ)、ロンドン西部に立つ高層公営住宅「グレンフェル・タワー」で火災が発生した。火元は居住フロアの4階(地上8階に相当)とみられている。

消火活動には約40台の消防車と、約200人の消防士が動員された。約120 世帯が入居する公営住宅では6月30日までに死者・行方不明者79人、重傷者約20人が確認されている。現地報道によると、スプリンクラーは設置されていなかった。

グレンフェル・タワーの断面図。地上1階から4階まではオフィスや保育所、ジムなどが入っていた。火元は地上8階に相当する居住フロアの4階とみられる(資料:取材を基に本誌が作成)

グレンフェル・タワーの断面図。地上1階から4階まではオフィスや保育所、ジムなどが入っていた。火元は地上8階に相当する居住フロアの4階とみられる(資料:取材を基に本誌が作成)

被害者が増えた背景には「タワーの空間構成が関係している」との見方が多い。平面図から浮き彫りとなるのは、火災発生時の避難の危うさだ。居住フロアは6室がエレベーターホールを囲むコア型の配置となる。各住戸にバルコニーは見当たらない。避難はコア内にある階段からのみ可能で、2方向避難はできないつくりだ。

炎が外壁から室内に侵入した経路については検証が必要だが、建物内部では避難経路となるコアまで煙が充満していた。現地報道が伝えた生存者の話では、15階に住んでいた男性が「逃げようとしたが熱い黒煙に覆われて呼吸ができなかった。視界を奪われ、死体につまずきながら避難階段を探した」と証言している。

■「選択的」に改修されたグレンフェル・タワー

玄関扉の防火性能が不十分であったり、扉を開放したまま避難したりすることで、コアへの炎や煙の侵入を許し、住民が逃げ場所を失った可能性もある。エレベーターの昇降路や階段室に防火区画が設けられていたかは分かっていない。炎や煙がそれら垂直方向に建物をつなぐ空間に入り込みめば、煙突効果で上層階に広がってしまう。

グレンフェル・タワーは、1974年に竣工した。2016年5月に外断熱の外装材を取り付ける改修を終えている。英政府は17年6月25日、同国内にある高層住宅の緊急点検を実施。60棟が検査基準を満たしていないと分かった。いずれもグレンフェル・タワーと同様の外装材を使っていた。

外装に断熱材を設置する改修は外壁の作業となるため、施工中に住人が移動する必要がない。そのため、英国では過去20年ほど公営住宅で似たような改修を進めてきた。 また、老朽化した高層住宅には、エレベーターホールを中心に持つコア型の空間構成が多いという。

現地を視察した東京大学生産技術研究所の野城智也教授は「英国では老朽化した公営住宅を改修する際に防犯性を重視した。外廊下の建物を解体して低層住宅に建て替える。一方、コミュニティーが形成できるグレンフェル・タワーのようなコア型の高層マンションを残し、選択的に改修してきた」と指摘する。

■大規模改修が消火作業のあだになった

改修の目玉だった外装部分が「火災の被害を拡大させた」と分析する研究者は多い。東京理科大学大学院国際火災科学研究科の小林恭一教授は「外壁などを含む大規模改修があだになった」とみている。理由の1つは消火活動を困難にした点だ。

グレンフェル・タワーの壁面に張り付けた断熱材はポリイソシアヌレートフォーム。高い難燃性を有する素材とされるが、化粧用の亜鉛の金属パネルとの間に通気層があったことから、「煙突効果」で延焼スピードが速くなったとの分析が多い(写真:東京大学生産技術研究所・野城智也教授)

グレンフェル・タワーの壁面に張り付けた断熱材はポリイソシアヌレートフォーム。高い難燃性を有する素材とされるが、化粧用の亜鉛の金属パネルとの間に通気層があったことから、「煙突効果」で延焼スピードが速くなったとの分析が多い(写真:東京大学生産技術研究所・野城智也教授)

グレンフェル・タワーの既存外壁は厚さ250mmのコンクリートだ。16年までの改修では外壁に厚さ150mmの断熱材を張り付け、厚さ3mmの金属パネルを化粧用に覆った。断熱材と金属パネルの間には50mmの通気層を設けた。この通気層に入り込んだ炎によって、断熱材が急速に燃え広がった可能性が高いと小林教授は分析している。

消防隊は通報から6分で火災現場に到着した。放水は火元に届く距離だったが、「断熱材が燃えていたのだとすると、外から水をかけても外装の金属パネルが邪魔をして消火できない。パネルはいずれ燃えて脱落するため、燃焼している断熱材がむき出しになった部分に放水できるが、そのころにはさらに上層階が燃えており、延焼が止められなかった」と小林教授は推測する。

詳細な現場検証を待つ必要があるが、柱を覆う外装材が延焼を加速させた一因になった可能性もある。外周の南北面に5本、東西面に4本設けた柱には、外壁と同様に断熱材(厚さ100mm)と金属パネルが設置されていた。断熱材には難燃性が高いとされるポリイソシアヌレートフォームが使われていたが、金属パネルと断熱材の隙間にある通気層が「煙突効果」を助長して、上層階に延焼が急拡大する要因になった可能性がある。

外装材を扱う建築関係者は、壁材、柱材ともに通気層には延焼を防ぐファイアストップがあったとみている。しかし、断熱材を燃やしながら通気層を通過する炎は止められなかった。加えて、「柱を伝って燃え上がる炎が壁材との継ぎ目から横に燃え広がった」との見方が多い。

断熱材などを製造するJSP総合技術本部の小浦孝次主管は「柱の通気層を通って上昇した炎は金属パネルの隙間から水平方向にも延焼し、"あみだくじ"のように燃え広がったのではないか」と分析する。

(日経アーキテクチュア 江村英哲)

[日経アーキテクチュアWeb版 2017年7月5日掲載]

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