「太らないビール」も発想の1つ~キリン健康技研

2017/7/4 6:30
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キリンの健康技術研究所は、機能性表示食品やトクホ(特定保健用食品)につながる素材の研究開発を手掛ける。健康で長生きにつながるような食生活を後押しするため、これまで蓄積してきた素材を生かそうと有効性や安全性を調べている。商品の訴求力をより高めるため、実験を積み重ねている。

研究室では香りや味わいの試験もする

研究室では香りや味わいの試験もする

5月中旬、スロベニアの首都リュブリャナで開かれた欧州醸造学会。山崎雄大研究員は世界中のビール研究者を前に口頭発表した。テーマは「熟成したホップエキスの体脂肪低減効果」。このエキスを摂取すると一定のダイエット効果が期待できるという。

意外な発表を受け、会場からは「どうやって脂肪を減らすのか」といったメカニズムに関する疑問や、熱をかけてホップを熟成させる工程についてなどの質問が相次いだが、山崎氏はよどみなく答えたという。

「太らないビールがあればいいのに」。ビール好きな職員のこんな発想から研究は始まった。ビールの原料で、ハーブでもあるホップに注目した。ホップを常温で10カ月、もしくは60度で数日間熟成し、抽出したエキスには褐色脂肪組織を活性化させ、脂肪を燃やす代謝促進効果があることをマウスなどの実験で突き止めた。

200人を対象に、エキスもしくはニセエキスを12週間毎日飲んでもらう無作為試験をしたところ、エキスを飲んだグループの方が体脂肪率が減少したという。

一方、同じホップでも脳の老化に注目した研究も展開する。厚生労働省から、適度な飲酒は認知症の防御因子になるとの報告があり、ホップの成分に脳機能改善につながるようなものが含まれるのでは、と考えた。

脳にある免疫細胞に注目した。この細胞は老廃物を取り除いたり、生体防御に関わったりしている。ビールに入っているホップの苦み成分「イソα酸」で細胞を処理すると、ゴミを取り除く能力が向上した。アルツハイマー型認知症のモデル動物に餌に混ぜて与えたところ、原因たんぱく質とされるアミロイドβの沈着が減ったという。

イソα酸は苦いため、ヒトは大量に摂取することができない。同じような薬理作用で苦くない成分を探索しており、今後ヒトでの研究につなげたい考えだ。

健康技術研究所が機能性を見つけた素材で、既に商品化したものもある。免疫の作用に注目した乳酸菌だ。免疫細胞のひとつである樹状細胞を活性化するという。樹状細胞は病原菌などを攻撃する一連の免疫系のなかで、異物を検知する司令塔の役目を果たす。

樹状細胞に特殊な乳酸菌を与えると、免疫にかかわるたんぱく質の量が増えた。約200人の人でも臨床研究を実施し、風邪のような症状が少なくなったという知見を得た。

食品は薬と異なり、不特定多数の人が長く摂取することが前提であるため、安全性が最優先される。同研究所が30年以上続けてきた研究で、機能性のある素材が数十は蓄積されているという。

近藤恵二所長は「高齢化に伴い、体にはいろいろな不具合が起きる。食品で病気を予防するとまでは言えないが、予防に貢献する商品を開発したいという使命感を共有している」と強調する。

(藤井寛子)

《拠点の概要》
▽名称 キリンR&D本部健康技術研究所
▽場所 横浜市
▽研究者数 約40人
▽主な内容 機能性のある食品素材の開発や有効性、安全性の評価、特定保健用食品などの商品化に向けた臨床研究の実施など

[日経産業新聞 7月4日付]

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