気流制するもの、エアコン制す? 省エネ化に限界

2017/7/3 8:40
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エアコン大手が室温調節にとどまらず、快適な空間作りに本腰を入れだした。風を人に当てるか否かの選択を軸に、企業ごとの送風哲学の違いも鮮明になっている。日本経済新聞社が評価を依頼する「新製品評価委員会」(委員長・片岡寛一橋大学名誉教授)で、高度化するエアコン気流について話し合った。

在室者を避けて冷風を部屋の奥まで届ける富士通ゼネラルのエアコン「ノクリアX」(イメージ写真)

在室者を避けて冷風を部屋の奥まで届ける富士通ゼネラルのエアコン「ノクリアX」(イメージ写真)

夏本番を迎え、エアコンから出る冷風をじかに浴びるのを嫌う女性は多い。福音となるのが、在室者を避けるように空気の流れを作り、部屋全体の快適性を高めるモデルの普及だ。

富士通ゼネラルの最新機種「ノクリアX」もその一つ。冷気と別に、室温と同じ空気の吹き出し口を本体側面に用意した。部屋全体をかき混ぜ、冷暖房と綿密に連動させて実効性を高める。

エアコン節電を目的に扇風機の併用が珍しくなくなった。富士通製品はこの働きをエアコン本体に取り込んだ。試用した大学教授・商品学は「在室者の居場所に応じて扇風機の位置を変える手間が省ける画期的なアイデア」と評価する。

下に落ちる冷風を持ち上げるように運ぶ。「広い部屋の奥までしっかり涼しくなる」と流通コンサルタントは感心した。

こうした気流制御を通じた部屋の快適性向上が、今やエアコンメーカーによる競い合いの軸となった。各社は長い間、省エネ性能にしのぎを削ったが、2年ほど前に潮目が変わった。背景には省エネ性能をこれ以上高めることが困難になったことに加え、主戦場であるリビングの変容がある。第1に、ダイニングやキッチンと一体になり大型化した。第2に、家族重視の流れで、子供の勉強や一家だんらんに使われる機会が増えた。室内に人が散らばりやすくなり移動も頻繁になった。この結果、きめ細かく高度な空調管理が求められるようになった。

エアコンは住宅の断熱化を追い風に暖房器具でも主役の座に躍り出た。富士通は室温運転だけに絞れば夏や冬以外も使える点を生かし、通年で快適な空間に自動的に調節する用途を提案。家電製品総合アドバイザーは「自分で調節しにくい高齢者や子供、ペットの利用が増えているので重宝」と歓迎する。

快適な気流性能を巡り企業による開発姿勢の違いも浮かび上がった。大手メーカーは送風パターンで2つの流れに分かれた。富士通同様、部屋全体の気流を整える系列にダイキン工業がある。一方、在室者の性別や年代をセンサーでかぎ分け、各人にふさわしい風をピンポイントで送るメーカー群も現れた。三菱電機や日立などが該当する。

どちらが優勢となるのか、評価委員の間で意見が割れた。家電製品総合アドバイザーは後者を推す。「消費者はわがままになっており、自分仕様に設定してもらうのを好む」との見方だ。

一方、日用品メーカー役員は「肌の乾きが気になる冬場も使うことを考えると、ピンポイント系は女性に敬遠される」と予想。こちらの系譜だったパナソニックは今年から両方式併用に改めた。

「睡眠の質への関心が高まっており、小ぶりな寝室に的を絞って心地よい眠りに誘う気流を工夫したモデルが有望」との提案もあった。エアコンが9割の世帯に普及し、その排熱が都市部高温化の一因となっている。片岡委員長をはじめ参加者からは「熱源として再利用するなど対策が急がれる」との声が相次いだ。

気流の高度運用は、室内状況をきめ細かく正確につかむセンサー技術の向上で可能になった面が大きい。本体の出口に付いた、風向を振り分ける羽根に当たる部品も改良が進んだ。

日本住宅リフォーム産業協会(東京・中央)の中山信義会長は「現時点で空調技術ならダイキン工業に定評がある」と打ち明ける。「負けずに独自技術の知名度を高め、販売単価の上昇につなげたい」と富士通の開発担当者。目指すのは「気流は富士通」というブランドイメージだ。

国内市場に飽和感も漂う中、販売数量の上積みもテーマとなる。ダイキンの開発担当者は「夏場、汗だくになりがちなトイレや廊下など、エアコン気流が届かない空間にダクトで冷気を送れないか」と知恵を絞る。「急激な室温変化が体調悪化をもたらすヒートショック対策で洗面所の暖房も有望」とみる。

1カ所の熱源で家全体を暖めるセントラルヒーティングが主流の欧米と違い、日本は部屋別のエアコン設置がもっぱら。パナソニックは4月、全館空調の戸建て住宅を商品化した。「現状ではコストがかさみ富裕層に限定せざるをえない」(メジャーアプライアンス商品部)という。

(企業報道部 田中紹夫)

[日経産業新聞 2017年7月3日付]

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