病気・ケガで働けない! ピンチのときのお金講座
いまさら聞けない大人のマネーレッスン

こんにちは。経済エッセイストの井戸美枝です。いよいよ夏。熱中症や夏風邪など、体調を崩さないように気をつけたいものです。とはいっても、人生何が起こるかわかりません。病気やケガで仕事を休まなくてはならないこともあるでしょう。そんなとき、できるだけお金の心配はしたくないですよね。
今回は、もしも病気やケガで働けなくなってしまったとき、どんな公的な保障があるのかについてご紹介しましょう。記憶の片隅に「こんな制度があるんだ」ということを置いておけば、いざというとき焦らずにすみます。また、公的な保障を知っておくことで、必要以上の保険に加入していないか、保険料を払いすぎていないかチェックすることもできます。
それでは早速見てみましょう。
医療費は1カ月ごとに上限がある「高額療養費制度」
まずは、病気やケガの治療にかかる費用をチェックしましょう。
日本では国民全員が健康保険に加入しています。毎月保険料を支払うかわりに、病院の窓口などで支払うお金はかかった費用の3割ですみます。
※小学校に入学する前の子どもの自己負担額は2割(自治体によっては無料)、70歳以上75歳未満の方も2割負担です(現役並みの収入があれば3割)。
この3割の自己負担額にも、上限が1カ月ごとに設定されています。これが「高額療養費制度」です。
上限はそれぞれの収入によって異なりますが(図1参照)、この限度額を超える医療費を支払った場合、申請すれば差額分を返金してもらうことができます。

標準報酬月額は、簡単にいうと「毎年4~6月のお給料を平均して、段階ごとに分けられた等級表にあてはめたもの」。
例えば年収が370万~770万円の場合は、標準報酬月額でいうところの28~50万円の等級にあたりますので、医療費が100万円かかった場合でも自己負担限度額は8万7430円です。

ここで知っておくと便利な情報をひとつ。
図2のように医療費が100万円もかかったケースですと、払い戻されるとはいえ30万円の出費は厳しいですよね。そんなときは加入している健康保険に申請して「限度額適用認定証」をもらっておきましょう。この認定証を病院の窓口で提示すれば、支払いは高額療養費制度の自己負担限度額までとなります。立て替える必要がなくなるのですね。
ただし、この高額療養費制度が適用されるのは健康保険の適用内の治療であることが条件です。ほとんどの病気やケガは、健康保険の適用内の治療ですみますが、先進医療(大学病院や保健機関で開発された最新の医療技術の中で厚生労働大臣が認可したもの)などの治療を受ける場合は全額自己負担となります。
後述しますが、こうした万が一の備えとして民間の保険が有効となるかもしれません。
会社員の場合 病気やケガで働けなくなったら…… 「傷病手当金」
病気やケガでしばらく仕事を休むことになり、その間はお給料がもらえそうにない。そんな場合の保障はあるのでしょうか。
会社員の方であれば、答えはイエスです。
病気やケガで4日以上会社を休み、十分にお給料が支払われない場合、健康保険から「傷病手当金」を受け取ることができます。
傷病手当金の支給額は「標準報酬日額」の3分の2。「標準報酬日額」は、先ほどの「標準報酬月額」を30(日数)で割ったものと考えてください。
※正確には、標準報酬日額は支給日開始以前の12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30(日数)で割ったもの。
傷病手当金は最長で1年6カ月、受けとることができます。休んでいる間も会社から給料が出ていて、傷病手当金よりも少なければその差額が支給されます。給料が傷病手当金よりも多い場合は支給されません。
仕事中・通勤中にケガをしたら…… 「労災保険」
病気やケガの原因が仕事にある場合、または仕事中や通勤途中にケガをした場合は、労災保険から「休業給付」を受け取ることができます。

労災だと認定されれば基本的に治療費は無料。休業中には給料のおおよそ8割が支給されます。因果関係が認められれば、精神障害(うつ病など)にも適用されます。
フリーランス・自営業の場合は……貯蓄や保険で備えて
フリーランスや自営業者の方には、残念ながらこうした保障はありません。傷病手当金は会社員対象の制度であり、国民健康保険には適用されないからです。雇い主がいないため、労災保険からの給付を受けることもできません(特別加入すれば労災に加入することもできる)。貯蓄を確保する、民間の保険に加入する、などで万が一の事態に備えましょう。
民間の保険に入るなら、選ぶポイントは?
このように会社員であれば、病気やケガで休業することになっても、多くの場合経済的に困ることは少ないでしょう。福利厚生が手厚い会社であれば、さらに安心です。
ただ、起こる可能性は低いものの、貯蓄や公的な保障ではカバーしきれないような事態、例えば「健康保険適用外の治療を受ける」とか「子供が小さいうちに、万が一自分が亡くなったら」といった事態に備えて、民間の保険に入ることは有効でしょう。
ここでは「生命保険」「医療保険」「所得保障保険」の3つを取り上げます。
・生命保険
生命保険に加入するきっかけとして主に考えられるのは、子供の誕生でしょう。加入する際に「いつまで加入するか」「いくらの保障にするか」をあらかじめザックリと決めておきましょう。「子どもが大学を卒業するまで、自分に万が一のことがあれば○○円」といった具合ですね。
家計を支えていた人が亡くなったときに支給される「遺族年金」という公的な保障もあります。亡くなった人の年齢や職業、18歳未満の子どもの有無など条件が複雑ですので、くわしい説明は別の機会にゆずります。
・医療保険
先述した通り、日本の健康保険は自己負担額がそれほど高額にはなりにくい制度です。貯蓄で医療費を支払えるなら医療保険への加入は必要ないでしょう。しかし「加入することで安心して働ける」と考えるのであれば、「入院したら〇〇円」「手術したら○○円」など保障内容がシンプルなもの、保険料が安いものがよいですね。「先進医療特約」のように、起こる可能性は低いけれど安い保険料で大きな保障が得られる特約をつけておきましょう。
・所得保障保険
所得保障保険は、病気・ケガ・障害によって働けなくなった時に支払われる保険です。働けなくなってから一定期間を超えると、毎月給付金が支払われます。休業期間や給付金は商品によって異なります。住宅ローンを組んでいる、子どもの教育費を支払っているなど、傷病手当金だけでは毎月の支払いが賄えない可能性のある方は加入の検討を。自営業者の方は傷病手当金などの保障がありませんので、貯蓄と支出のバランスをみて検討してください。
保険はあくまで万が一に備えるもの。リスクを気にするあまり、保険料の支払いで貯蓄や収入を減らしてしまっては元も子もありません。
また、保険の保障内容が重複していないか気をつけて下さい。たとえば、生命保険に医療特約という形で医療保障が付いている商品もあり。住宅ローンを組んでいる方は団体信用生命保険に加入していますので、死亡保障額は差し引いて考えましょう。
・健康保険適用の治療であれば、1カ月の自己負担額は最大8万7430円(所得による)
・病気やケガ、会社員であれば手厚い保障あり
・民間の保険は「万が一」に備えるために活用しよう
・自営業・フリーランスは保障が少ない。 貯蓄がなければ保険で備えよう

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