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ラグビー日本、根本から強化見直すべきとき

「19年W杯8強」実現へ不可欠

世界との距離は縮まっているのだろうか――。そう考えさせられる、ラグビー日本代表の6月の3連戦だった。

初戦のルーマニアに勝ったところまでは悪くなかったが、続くアイルランドとの対戦は2試合とも完敗だった。

この1年、日本は欧州6カ国対抗に参加する3チームと戦っている。昨年6月はスコットランドと国内で2連戦し、13-26と16-21の接戦だった。11月には敵地でウェールズと対戦し、30-33と競り合った。3戦ともどちらに転ぶかわからぬ試合だった。

しかし、今月のアイルランドとの対戦では2試合とも22点以上の差をつけられた。しかも、いずれも前半で大差をつけられた時点で勝ち目は薄くなっていた。

この3チームの序列を考えると、世界ランキング3位のアイルランドが一番上だが、ほかと大差があるとは思えない。今年の6カ国対抗ではアイルランドの3勝2敗に対し、スコットランドも3勝2敗でウェールズは2勝3敗。両チームともアイルランドとの直接対決では勝っている。

一方、相手の陣容は昨年と今年で大きく違った。スコットランドとウェールズは主力がほとんど参加していたのに対し、今回のアイルランド戦は主力11人以上が抜けていた。ほぼ二軍のアイルランドが、一軍のスコットランド、ウェールズに勝るとは考えにくい。

強豪国との差開いたとの懸念拭えず

アイルランド代表に大差で敗れ、肩を落とす日本代表選手=共同

つまり、今年の日本代表は、昨年より力の落ちる相手に昨年より悪い内容で負けたことになる。極めて残念なことだが、2015年ワールドカップ(W杯)の後、強豪国との差は開いてしまったのではという懸念が拭えない。

何が変わってしまったのだろうか。15年W杯の日本の映像を見返してみると、すぐに気づく違いがある。タックルなどで地面に倒れてから立ち上がるまでの速さである。

例えば、W杯の南アフリカ戦の最後の攻撃。ボールを持って突っ込んだ選手も、サポートに入った選手も、密集で倒れた後にすぐに立ち上がっている。タイミングとしては、ボールが展開されて次の密集ができるころには、ほぼ全員が立っているという具合である。

ガソリン切れが起こるはずの時間帯なのに、脅威の運動量。これは南ア戦に限ったことではなく、最終戦の米国戦でも同じだった。

今回のアイルランド戦。同様の連続攻撃のシーンを見ると、寝て起きてのテンポが遅い。密集で倒れた後、その2つ先の密集から球が出ようとしているのに、まだ数人が片膝を地についたままというシーンが何度もあった。

選手が倒れる回数がサッカーなどの他競技より格段に多いラグビーは、立ち上がるまでのスピード、グラウンドに立っている人数の数が勝負のキモになる。体格やスピードで劣っていても、立っている人数で上回れれば勝機は広がる。

アイルランド戦では、むしろ相手の方が立っている人数で上回っていたのではないか。戦った選手の感想がそれを裏付ける。フランカー松橋周平(リコー)は相手の肉弾戦について、「差し込む強さがあるというよりは、速くて次々顔を出してくる」と話していた。相手の運動量への称賛は、15年W杯なら日本の方に向けられていただろう。

試合終盤の運動量を増やすために必要な力は、心肺機能などの持久力だけではない。筋肉量や、1対1のコンタクトプレーの技術も密接に関係する。毎回の肉弾戦で受け身になるほどダメージが体に蓄積し、試合の終盤で脚が止まりやすくなるからだ。

持久力や筋力アップといった総合的な体づくりはストレングス・アンド・コンディショニング(S&C)と呼ばれ、現代のラグビーでは欠かせない要素となっている。この分野の成功が、15年W杯の躍進の大きな要因だった。

S&Cでの戦略的な強化足りぬ

当時のジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)は、S&Cに徹底的に時間をかけていた。各ポジションでW杯に必要な持久力や筋力の数値を提示。試合の2日前まで高い負荷の鍛錬を課して鍛えた。目先の結果だけを見ていてはとてもできないこと。実績豊富な専門家も多数招き、選手の体調管理、トレーニング量の調整のためのアプリまで企業と共同開発している。

W杯までの4年間で各選手は筋肉量を数キロ増やしながら、持久力も向上。相反する2つの能力を高めるという難しい作業に成功した。

今の日本が肉弾戦で負ける回数が増え、立ち上がる速度が遅いのは、S&Cでの戦略的な強化が足りないことが主因だろう。

サンウルブズのスーパーラグビーへの参戦により、国内のシーズンが過密化し、トレーニングの時間を長く取りづらくなったのは事実である。

しかし、日本代表やスーパーラグビーのサンウルブズの活動中に行われているS&Cのトレーニングだけを見ても質、量ともに足りていない。各選手がチームを離れている際にも、コーチ陣と密接に連携した鍛錬は行われていない。

目の前の試合への準備に追われるだけで、一体いつ、体を鍛えるのかという状態。スーパーラグビーの試合に出続けていれば問題ないという声もあるが、15年W杯組の一人は否定する。「フィットネス(持久力)は試合に出続けていれば高めることも可能だが、フィジカル(筋力)はそのためのトレーニングをしないと上げることはできない」

S&Cについて、「今は選手任せ」とある代表の主力は話す。体づくりを選手に委ねることで、量が足りないだけでなく、方向性の誤りが心配される例も出てきた。

15年W杯に出場したバックスの一人はこの春、「体を絞ってジョセフHCのラグビーに合う体にしたい」と話していた。筋肉量を落として身軽になることで、キックしたボールを追いかける際に有利になるとの狙いからだ。しかし、アイルランド戦でタックルを何度もはじき返されていた姿を見ると、現状ではマイナスの方が目立っているようだ。

選手がコーチの求める姿に変わろうとするのは当然だが、問題はジョセフHCらがどこまでそのことを知り、納得していたか。もともと体格に劣る日本が筋肉を落とすのは、慎重を期さないといけないのだが。

15年W杯当時と今で、選手の体はどれくらい違ってしまったのだろう。

「選手の体重は15年から平均3キロくらい落ちたのかな」。アイルランド戦の後、日本ラグビー協会の薫田真広・15人制男子強化委員長が、さらりと話したのには驚いた。事実だとすれば、過去4年間の貯金がほぼ消えたことになり、強化委員会の失態を自ら明かすことにもなる。

「筋肉量だけではるかに大きな量を減らしているFWがいる」と話す関係者もいるが、そもそも、細かい比較すらできていない可能性がある。

ジョーンズHC時代の筋力、体力や疲労度などの詳細なデータは残っているが、「本当に基本的なものしか引き継ぎされていない」と関係者。現コーチ陣からその要求がないからだというが、本当なら実効性のある体づくりの戦略を立てることなど不可能だろう。

今回の日本代表は、約10人を負傷で欠いていた。ここにもS&Cの軽視が影響していると指摘する声は多い。ルーマニア戦の前に代表関係者が嘆いていた。「サンウルブズで毎週けが人が出るのも、フィジカルやコンタクトプレーの技術を鍛える時間が足りず、スーパーラグビーの基準に達していないからだろう。本当は2~3カ月、体を鍛える期間がないといけないのに」

今季のサンウルブズは試合終盤に逆転を許したり、突き放されたりする展開が昨年より増えている。精神的な要素だけが原因ではなく、身体能力の低迷が一因にあるのではないか。

もちろん、アイルランド戦で日本の全てが悪かったわけではない。

成果の筆頭は若手の台頭

成果の筆頭は、19年W杯で戦えそうな若手の台頭だろう。第2戦で先発したフランカー松橋はタックルに、ボールを持っての突進力にと十分に通用するところを見せた。フッカー庭井祐輔(キヤノン)やフランカー徳永祥尭(東芝)、FB野口竜司(東海大)も今後が楽しみな選手。

課題であるスクラムの修正力も見せられた。1戦目での苦戦は、フッカーの体を左向きにされて右プロップが孤立したことが原因と分析。2戦目ではフッカーが両プロップのジャージーをつかむ位置をやや上げ、FW第1列の肩の凸凹をなくすことでフッカーの孤立を防ぐなどの対策が奏功した。

ジョセフHCの指導力にも評価できる点はあった。特に、HCと攻撃担当のブラウンコーチの戦術指導には、選手の多くが称賛する。

ジョセフHC自らが教えるラインアウトも、「HCのラインアウトのシステムにはすごい満足している」とプロップ稲垣啓太(パナソニック)。実際に、アイルランドとの2試合では、個人のミスを除けば自軍投入のボールをほぼ確保できた。

気がかりな指導の「狭さ」

ただ、総合的には強化の方向性への不安は残ったまま。特に気になるのは、S&Cへの軽視に代表される指導の「狭さ」である。

コーチの陣容もその一つ。W杯の経験を財産として残すためにも日本人は必要だが、外国人コーチはジョセフHCが一緒に仕事をしてきた仲間ばかり。ブラウンコーチを除けば実績は乏しい。4カ国から各分野の専門家を集めたジョーンズ前HCと比べると見劣りしてしまう。

こういう状況があるから、HCが力を入れるキック戦術もつい、同様の視線で見てしまう。アイルランド戦でもキックが成功したシーンはあり、限定的に使えば新たな日本の武器になる可能性は感じさせる。ラグビー自体が進化する中、以前の戦術だけでは勝てないのも事実である。

ただ、HCがたくさんの引き出し中から日本の現状に合う戦術を選んだのかどうか。ジョーンズ前HCは日本人の持久力と敏しょう性を生かすためにこの戦術を採用すると説き続けていたが、ジョセフHCは日本代表がキックを多用すべき理論的な根拠を明確に説明していない。

まるで、古巣のハイランダーズでスーパーラグビーを制したときの戦術という理由だけで採用しているようにも見えてしまう。バックスに世界最高の選手が数人いるハイランダーズと日本は違う。

ジョーンズ前HCはトップリーグの各企業を集め、代表と同じS&Cのメニューを要求し、大学ラグビーの改革にまで乗り出そうとしていた。時に越権行為として反発も招いたが、W杯で勝つためには自分の役割を限定しなかった。

15年W杯で主将を務めたリーチ(奥)は当時の成功要因を見直す必要性を指摘する=共同

一方で、ジョセフHCは「自分の仕事は1試合1試合を勝つようにコーチをするだけ」と選手に話している。自らの領分として捉える範囲は前任者と比べると狭い。

HCの視野からこぼれ落ちているものへの危機感は一部の選手も感じ取っている。

15年W杯で主将を務めたリーチ・マイケル(東芝)は当時の成功要因を見直す必要性を指摘する。「日本の強さは低さとスピードとアジリティー(敏しょう性)にある。それを全員が理解してやらないといけない」

その一つが肉弾戦の際の低い姿勢。ジョーンズ前HCは総合格闘家の高阪剛氏を毎月のように招き、体の動かし方の指導を任せた。結果的に、W杯での日本は最も低いプレーができるチームだった。

今、その面影は薄れた。「日本の姿勢は間違いなく高くなっている」とリーチは指摘したうえで続ける。

「(この分野の強化を)本気でやるんだったら、TK(高阪氏)に毎回のキャンプで来てもらうのがベストだと思う。彼はただのコーチじゃなくて、実際に世界のでかい化け物(のような格闘家)を倒してきた人間。言うことが重い」。リーチはメンタルトレーナーとしてW杯に帯同した荒木香織氏らの必要性も訴える。

現状ではコーチ陣だけに頼れないからか。S&Cも選手自身がもっと主体的に進めるべきだともリーチは話す。「フィットネスのトレーニングは個人でやらないといけない。代表から離れているときも、(疲労度や筋力などの)データを携帯電話にインプットすることも必要」。体づくりの課題を見つけ、トレーニングの量、種類を調節する参考にするためだ。その意気は素晴らしいが、先述のように選手任せの危険性は必ず出てくる。

本来なら、前回W杯からの1年半で強豪国との差をある程度、詰められているはずだった。長年の日本ラグビー界の目標だったスーパーラグビーへ参戦を昨年、果たしたからだ。選手は高いレベルでの試合を格段に多くつめるようになった。松橋ら若手の成長はその果実である。

15年W杯を戦った選手もサンウルブズに参加し、長い遠征や過密日程に耐えて奮闘している。特に、サンウルブズの初代主将として苦しい1年目を戦った堀江翔太(パナソニック)らの努力は称賛に値する。その選手らの努力を、日本代表の力に結晶させられているとは言いがたい。

W杯の8強という目標と現在地を照らし合わせて、現状の路線でいいのか。日本ラグビー協会は根本から見直すべきだろう。

仮にジョセフHCの体制を続けるとしても、HCの目の行き届かぬ点を周囲が補完することは必須になる。選手だけに任せていいはずがなく、本来はラグビー協会の強化委員会の責任。少なくともS&Cについては、実績のある担当者を増やすとともに、サンウルブズと連携した戦略を強化委員会が主導権をもって進めた方がいいのかしれない。

強化委員会に危機感は?

ただ、当の強化委員会に危機感があるのかどうか。S&Cの問題一つをとっても今に出てきた話ではない。昨年来、10人近い関係者から不安の声が漏れる状態だったにもかかわらず、薫田委員長はアイルランド戦の後も「検討している」と話すだけ。すぐに効果が出る分野ではないだけに、今、手を打たないと完全に手遅れになる。

そもそも、強化委員会の機能そのものを高めるべきだという意見も、昨年から多くの協会幹部が口にしていた。しかし、根本的な手は打たれていない。W杯までの時間はどんどん減るのに、問題は見過ごしたまま。

日本代表の苦戦の根は、協会のマネジメントの問題に行きつくのではないか。まずは協会が動かなければ、選手の努力は水泡と化し、19年W杯の8強もさらに遠のく。

(谷口誠)

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