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ゴルフ場のグリーンキーパーにもっと光を

公益財団法人日本ゴルフ協会専務理事 山中博史

皆さんは「良いゴルフ場」と言うときに、何を基準にしますか? 「食事がおいしい」「クラブハウスが豪華」「接客がいい」「近い、アクセスがいい」など、いろいろな要素があると思いますが、やはり一番大切なのは「コースのレイアウト」や「コースコンディション」ではないでしょうか。確かにゴルフ場にはプレーをしにいくわけですから、コースそのものがお粗末というのでは話にならないですよね。

では具体的には、ゴルファーの満足度が高いものとは何でしょうか。それはやはり、コースの整備が行き届いていることだと思います。グリーンはデコボコで転がりが悪い、フェアウエーは雑草や裸地、穴だらけ。樹木の枝落としもしていなくて、バンカーには砂が入っていないし、境目もわからない――。こんなコンディションではいくら名設計家のデザインでも、がっかりして「もう来たくない」となりますよね。

一方、きれいに刈り込んだティーインググラウンドやフェアウエー、転がりのよいグリーンのコースなら、多少プレー代や食事代が高くても、クラブハウスやお風呂が狭くても、満足度はぐっとアップするはずです。

これらのコースメンテナンスの仕事を指揮しているのがグリーンキーパー(以下、キーパー)です。コースメンテナンスとは、芝草という生き物と日々変化する環境(気象)ストレスと向かい合いながら、ゴルフ場というフィールドをいかに最高のコンディションにするかに尽きます。そのミッションを達成することが経理や労務管理、植物生態学、生理学、病理学、土壌学などの知識を習得したキーパーの業務といえます。当然、キーパーはロボットではないので、そのメンテナンス方法に個性が出るのは言うまでもありません。

グリーン委員会の使命とは

実はこうしたキーパー、コース管理スタッフをサポートしようという目的で、私たち日本ゴルフ協会(JGA)は今年から「グリーン委員会」なるものを発足させました。委員会は、今のところ経験豊かな現役キーパーやOBら8人で構成しています。そしてこの委員会は、いろいろな使命を担っているのです。

その使命とは何か。全米ゴルフ協会(USGA)やロイヤル・アンド・エンシェントクラブ(R&A)にも似たような組織があります。しかし、それは芝草や新しいグリーンの構造の研究、維持管理技術やコース設計などアカデミックな視点からコース管理をサポートするものです。しかしJGAのグリーン委員会は「人材」「経験」という側面から、キーパーの社会的地位向上やコース管理ノウハウの集積と発信に取り組むのが狙いです。

現在、日本には約2300のゴルフ場(そのうちJGAには約1600のゴルフ場が加盟)があり、ゴルフ場ごとにキーパーがいます。キーパーの職務はゴルフ場のコース管理課の責任者として、そのスタッフとともにコースが目指すミッションを共有して、芝草の管理に必要な知識を実践しながらコースを管理することです。海外ではキーパー(欧米では「superintendent」といわれています)の地位は高く、ゴルフ場では「クラブハウスの中は支配人。スタートや練習場、レッスン、プロショップはヘッドプロ。コース管理全般はキーパー」ときちんと権限と役割がすみ分けされています。当然、有名コースのキーパーともなれば、一目置かれる存在でメディアに取り上げられることも多々あります。ゴルフ場経営者だけでなく、メンバーたちも自分たちのコースをきれいに保ってくれるキーパーを大切にします。彼らがいなくては自分のコースを良い状態に保てないこと、優秀なキーパーは他のコースからのお誘いも多く、待遇が良いところに引き抜かれてしまうことをよく知っているからです。

コース管理について大きな権限を持っているということは、責任を負っている裏返しでもあります。海外のトーナメントなどでは、選手のロッカールームにキーパーの署名入りで「今年は、かくかくしかじかの理由で十分なコースコンディションを準備できなくて申し訳ない」という掲示が出ているのを見たことがあります。コース整備のプロ、いわば"職人"としての務めを果たせなかった、という責任感とプライドの表れだと思います。

一方、素晴らしいコンディションに仕上がったコースでエキサイティングなトーナメントが展開されれば、キーパー冥利に尽きます。優勝者がスピーチでスポンサーや大会関係者と並んで、必ずキーパーにも謝辞を述べるのは、コース整備がいかに大変かを知っていて、そのことに敬意を表しているからです。

人材確保、深刻な問題に

翻って、日本ではどうでしょうか。多くのゴルファーはキーパーの存在など意識したことはなく、知っていても「草刈りをしている人」ぐらいに思われているのが正直なところではないでしょうか。とても社会的にリスペクトされているとはいえず、残念な限りです。このような状況ですので現在、キーパーの間でコーススタッフの人材確保が深刻な問題になっています。先日開いたグリーン委員会でも話題になったのですが、次世代を担うキーパーのなり手がなかなかいないのです。

キーパーになるには、ゴルフ場に入社した社員が管理課に配属され、現場のたたき上げで勉強するか、大学の農学部や専門施設などアカデミックなルートから入るかがほとんどですが、最近ではそうした若者がなかなかいないのです。

昔なら先輩について、朝から晩までコースを歩き回って仕事を覚え、季節や天候に応じた管理方法を経験し、肌で学びました。どこの世界にもある師弟関係の世界で、それは厳しい世界でした。

しかし、最近は何か問題があるとすぐインターネットで検索したり、関連する業者に聞いたりするキーパーが多いそうです。確かにネット情報は便利ですが、自分のコースの立地や自然条件にあったやり方かどうかはわかりません。また、ゴルフ場関連の業者とビジネス抜きの相談はなかなかできないのが実情でしょう。

さらに高温多湿の日本では、地域固有の事情で、そのコース特有のコツがあることも少なくありません。こうした背景から、これからコース管理の重責を担う若いキーパーはいろいろな問題に直面したとき、誰に相談してよいのかわからないことが多く、ネット検索などでその場しのぎの対応で済ませてしまいがちです。一方でベテランキーパーたちはコース管理のノウハウや、そのコースにあったコツなど自分が現場で学んだノウハウをどうやって次の世代に伝えるか、頭を悩ませているのです。

グリーン委員会は、こうしたキーパーの皆さんのお手伝いをしようというわけです。具体的には豊富な経験を積んだ委員がいつでも相談に応じ、必要なら現地指導もしながら適切に対処していくことが可能になります。また、海外から発信している情報の精査もしながら、正しくコース管理関係者に報告をしていくことを使命とします。そのためには、委員として「是非」を言わなければならないときもあります。

特に、トーナメント開催のセッティングノウハウはJGAとしてもキーパーの皆さんの"職人気質"をもっと刺激し、積極的に関与していく必要があると思っています。

試合では選手のレベルが高くなればなるほど、わずかな実力差がスコアに表れるセッティングが求められます。通常営業の際には、そこまでシビアなセッティングは求められないでしょう。しかし、そうした高いレベルの話になると、いろいろな勉強が必要となってきます。そして、他のコースを見にいく、経験のあるキーパーから話を聞く、自分でもやってみたくなるという好循環につながり、彼らの士気も上がります。どの分野でもそうですが、「職人共通の意識」がそうさせるのです。

実際、トーナメントを開催するとコースのコンディションは間違いなく向上します。一度、そういう状態をつくると「来年はここをよくしよう」、その次は「ここも直そう」などと、一段上のレベルを求めるのがキーパー共通の性質なのです。これを繰り返していくと、気が付いたら以前よりはるか上のレベルにまでたどり着いたというコースがたくさんあります。

いいコースはいい選手を育てる

このようにキーパーのノウハウが共有され活用されるようになれば、キーパーのやる気もスタッフのレベルも向上し、コースも良くなります。メンバーも自分のコースが良くなれば、友人を招きたくなります。ゴルフ場オーナーもコースの価値が上がり満足します――。いわば、みんなが幸せになりますし、日本のゴルフ界全体のレベルアップに直結するのです。「いいコースはいい選手を育てる」はまさに格言だと思います。こうした好循環のお手伝いをJGAができれば、というわけです。

最後に日本のキーパーの仕事の素晴らしい点について、紹介しましょう。よく日本人プレーヤーが米ツアーに行って、パッティングで悩むという話を聞きます。ほとんどのメディアが米国のグリーンのアンジュレーションや速さを話題に取り上げます。

しかし、私は日本のキーパーたちが仕上げた素晴らしい転がりを実現するグリーンに慣れているので、米国の雑な、雑草交じりのグリーンに戸惑っているケースも多いのではないか、と思っています。その証拠に世界のツアーを転戦してきたプロたちは日本のグリーンを見るなり「いつもこんな素晴らしいグリーンでやっているのか?」と驚くからです。

グリーンについて付け加えるなら、グリーンやカラーの刈り込みなど繊細な感覚と心遣いが必要な作業は、女性の方が上手な場合もあります。最近は女性がグリーンを刈っているコースも多く見られるようになりました。

これから五輪に向け、日本を訪れる外国人ゴルファーが増えるにつれて、日本のコースも注目されるようになります。日本のキーパーたちが世界に誇れるコースコンディションをつくり上げ、アジアのゴルフ先進国として尊敬されなければなりません。それが、日本のゴルフ界として目指していく方向であると確信しています。

皆さんも今度ゴルフ場に行ったら、ほんの一瞬でよいですから、そのコースのキーパーの仕事に注目し、感謝の気持ちを持たれてはいかがでしょうか。きっと見慣れたコースが違って見えてくるはずですよ。

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