/

日本人スプリンター さらなる高みへ

編集委員 北川和徳

日本の陸上男子短距離が新しいステージに進もうとしている。昨年のリオデジャネイロ五輪は400メートルリレーで銀メダルの快挙。今季は桐生祥秀(21、東洋大)、山県亮太(25、セイコーホールディングス)に加え、リオの第2走者、飯塚翔太(25、ミズノ)と新鋭の多田修平(20、関西学院大)も100メートルで10秒0台に突入した。リオでアンカーを務めたケンブリッジ飛鳥(24、ナイキ)も調子を上げている。「100メートルの日本記録が10秒の壁を破る」歴史的瞬間が23日から始まる日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)で見ることができるかもしれない。

リオの代表選考会だった昨年の日本選手権を振り返ってみる。男子100メートルは10秒0台を何度もマークしている桐生と山県の対決に注目が集まり、ケンブリッジがダークホース的な存在だった。会場は名古屋市のパロマ瑞穂スタジアム。9秒台への期待も高かったが、少し向かい風で雨が降り続く記録は望めないコンディションでスタートを迎えた。

予想通り4コースの山県、6コースの桐生が好スタート。山県はいつも通りのスムーズな加速でリードを広げたが、桐生はうまく加速できなかった。右太もも裏に異常を感じたという。そこから5コースのケンブリッジが猛追。50メートルあたりで桐生を抜き去ると、山県もゴール手前でとらえて100分の1秒差で激戦を制した。

コンディションに恵まれず優勝記録は10秒16にとどまったが、高いレベルで実力が伯仲したレースだった。この3人に200メートルを快勝した飯塚を加えたメンバーでリオの400メートルリレーの快挙を成し遂げた。山県とケンブリッジは個人の100メートルも準決勝まで進出した。

桐生が走る国内レースに緊張感

桐生は条件さえ整えばいつ9秒台が出てもおかしくない=共同

リオ五輪後も日本の男子短距離陣の勢いは止まらない。特に今季、桐生が走る国内レースは緊張感に満ちている。条件さえ整えばいつ9秒台が出てもおかしくないからだ。3月のオーストラリアの競技会で10秒04。国内は4月に出雲(島根)10秒08、織田記念(広島)でまた10秒04。この国内2レースはどちらも向かい風だった。5月13日の中国・上海での競技会は会心のスタートを切ったはずが反応時間が速すぎたとして失格。

5月26日の関東学生対校(横浜)は準決勝で終盤を流して10秒15と好感触。ところが、いよいよかと期待された決勝は10秒24に終わった。直前に追い風が向かい風に変わり、スタートがやり直しとなる不運も重なったが、「思い通りにスピードが上がらなかった」と桐生。スタートがわずかに遅れたため、好スタートを切った両隣のランナーを意識して微妙に走りが乱れたようにみえた。

今月は欧州で2レースを走ったが、いずれも10秒1台。今季の桐生はスタートが改善して安定感が増したが、時々、競り合う相手を意識してうまく加速できないケースがある。記録更新には会心のスタートからリードを奪う展開に持ち込みたい。

山県、日本選手権が久々のレース

一方、日本初の9秒台へもう1人の最有力候補である山県は今季、桐生とは対照的に1レースしか走っていない。初戦は桐生と同じオーストラリアの競技会で10秒06と10秒08。好タイムを1日に2本そろえた。順調にシーズン開幕を迎えたが、ここで右足首を痛めてしまい、練習再開が5月中旬まで遅れた。日本選手権が久々のレースとなる。

リオの準決勝を10秒05で走り、五輪の決勝進出まで100分の4秒差まで迫った。スタートからの加速は世界トップクラス。昨季から桐生以上にコンスタントに10秒0台をマークしている。

ケンブリッジは爆発的な加速力が魅力=共同

18日に母校の慶大日吉グラウンドで練習を公開。強い雨の中でスタートダッシュから30メートル、60メートル、100メートルとこなした。スタートからのスムーズな加速は健在で「30メートル、60メートルはいい感じで走れた」。ただ、100メートルの終盤の走りは本人も満足できなかったようだ。スタートの切れ味が戻っているかも不安が残る。「優勝だけを狙う。スタートと同時にリードして逃げ切るイメージ」と話したが、9秒台に向けての自信は口にしなかった。

ケンブリッジ、体を作り直す

連覇を目指すケンブリッジは自己ベストが10秒10で、まだ10秒0台の記録も残していない。プロ宣言して今季は練習環境が変わった。筋力トレーニングで体を作り直し、体重は約2キロアップした。

パワーアップした分、「腕の振りと足の動きがまだかみ合ってない」と話していたが、今月4日の布勢スプリント(鳥取)で今季ベストとなる10秒12をマーク。「少しずつ形になってきた」と手応えをつかんでいる。ジャマイカ出身の父親のDNAを感じさせる爆発的な加速力は桐生、山県にはないものだ。昨年と同様の後半勝負のレース展開で9秒台到達の可能性は十分にある。

多田、武器はスタートの速さ

この3強を脅かす存在として今季急成長中の多田が注目を集めたのが今月10日の日本学生個人選手権(神奈川・平塚)。準決勝で追い風4.5メートルでの参考記録とはいえ9秒94でゴールした。国内レースで初めて記録された電動計時の9秒台だった。続く決勝は追い風1.9メートルの公認される最高の条件で10秒08をマーク。それまでのベスト10秒22から一気にジャンプアップした。

スタートが得意の多田はレースで存在感を発揮しそうだ=共同

多田の武器はスタート。地力では3強にまだ及ばないだろうが、60メートルまでなら山県にも負けない速さがある。レースでは存在感を発揮しそうだ。

陸上の短距離走は人類で最も多数が経験している競技といえる。世界的には今季限りの引退を表明しているウサイン・ボルト(ジャマイカ)が飛び抜けた存在だが、彼以外はこの数年、新たなスターの台頭はなく、記録的にも停滞している。ドーピングに対して厳しい目が向けられている影響もあるのだろう。そこで日本男子が急激にレベルアップしている意味は大きい。

今回は200メートルに専念して100メートルは走らないが、飯塚も布勢スプリントでケンブリッジに先着して10秒08をマークした。気の早い話だが、銀メダルのリオよりそれぞれがレベルアップした布陣で組む400メートルリレーは8月の世界選手権、さらに3年後の東京五輪では、もっと輝くメダルだって夢ではないかもしれない。

史上最もハイレベルの日本選手権男子100メートルの決勝は24日午後8時半すぎ。追い風1メートル前後の記録達成に絶好のコンディションを期待したい。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン