2018年11月16日(金)

永田町アンプラグド 北方領土交渉、ロシアが放つ「くせ球」

2017/6/23 6:30
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6月15日、在日ロシア大使館で異例の説明会が開かれた。テーマは米国の弾道ミサイル防衛システム(BMD)。ビリチェフスキー公使とビジン武官が登壇し、メディアや安全保障専門家らを前に米国がアジア太平洋地域で進めるBMDは「ロシアへの深刻な脅威だ」と訴えた。

■強いメッセージ性

3月の日ロ2プラス2でロシア側はBMDへの強い懸念を表明した

3月の日ロ2プラス2でロシア側はBMDへの強い懸念を表明した

公使は在韓米軍が配備した「地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)」も批判したうえで、日本が陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」やTHAADの導入を検討していることに強い懸念を示した。

在日ロシア大使館がメディア向けの記者会見や説明会を開くことはまれなことだ。開催自体に強いメッセージ性をみてとることができる。

ロシアが日米のBMDを問題にするのは、これが初めてではない。3月20日に都内で開かれた日ロ外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では、ロシアのショイグ国防相が稲田朋美防衛相との会談でこう切り出した。「在日米軍のBMDシステムはアジア太平洋地域の戦略バランスを崩す恐れがありうる」

稲田氏はBMDは北朝鮮への防御が目的で、ロシアに脅威を与えるものではないと理解を求めたが、その後の共同記者会見で、ラブロフ外相も「地域における深刻なリスク」と指摘。「北朝鮮への対応だ」という日本側の説明にも「今現在行われているBMDの規模と、北朝鮮のミサイル脅威とは相当しない」と反論した。

日本政府関係者によれば、プーチン大統領も昨年12月に日本で開かれた日ロ首脳会談で、米国主導のBMD配備に懸念を示した。また、ロシア側は事務レベルでも様々な機会に日本に同様の問題を提起しているという。

■北方領土「BMD抑制の拠点」

一連の動きをみればロシアは、米軍のBMDに対する批判の一環として、日本をも強くけん制する――という方針にかじを切ったことがわかる。

問題は、狙いがどこにあるかだ。15日の説明会では、ロシア側は様々なシミュレーションを用いながら日米のBMDがいかに米ロの核抑止を脅かす可能性があるかを説明した。笹川平和財団の小原凡司特任研究員は「ロシアは改めて米国と軍事競争をする経済力はないので、バランスがとれている現状を維持したいだろう」と語る。

ただ、現段階でロシアの核抑止上のリスクが急激に高まっているわけではない。小原氏は「それでも強く反発するのは政治的なポーズということになる」とも指摘する。ロシアの狙いとして小原氏があげるのが、中国と北朝鮮だ。対米けん制における協力姿勢をみせて恩を売ると同時に、米国と対立するよう両国の背中を押しているとみる。

プーチン氏は北方四島を米国のBMDに対応するのに「うってつけ」と語った=タス共同

プーチン氏は北方四島を米国のBMDに対応するのに「うってつけ」と語った=タス共同

やっかいなのは、BMD問題を北方領土交渉にも利用しはじめたことだ。報道によれば、プーチン氏は6月1日、サンクトペテルブルクで開いた外国通信社の幹部との会見で、在韓米軍によるTHAADの運用開始に強い懸念を示したうえで、北方領土を「ロシアにとっての脅威を抑えるにはうってつけの場所だ」と語ったという。実際、ロシアは昨年11月、国後島や択捉島に対艦ミサイルを配備している。

■遠ざかるハードル

北方領土交渉は、ロシアが主張する「歴史」の壁にはばまれて、ながらく硬直状態だったが、プーチン氏は新たな扉を日本に示した。それが「経済」だ。たとえば2015年6月の記者会見では「ロシアだけでは何もすることができない。日本側からの行動を待っている」と水を向けた。当時、国際社会はウクライナ問題で対ロ制裁を実施しており、ロシアは苦しい立場だった。「得意の経済協力をテコに関係を改善できれば、歴史的な進展を迎えることができるかもしれない」。日本側ではこんな期待がおおいに膨らんだ。

それが安倍晋三首相による経済協力の「8項目の提案」につながり、昨年12月に日本で開かれた日ロ首脳会談での共同経済活動の合意を導いた。だが、ロシアは今や北方領土交渉に「安保」という別の条件があることを隠そうともしなくなった。日本側が「これなら越えられる」と喜んで駆け寄ったハードルは、逃げ水のように遠ざかってしまったかのようだ。

日本政府は昨年12月の合意に基づき、共同経済活動でなんらかの成果をつくろうと躍起になっている。だが、それはもう当初期待したような扉ではなくなった可能性が高い。条件を変えたのはロシア側だ。日本側も、複雑なロシア外交の展開に合わせて対応を見直す時期にきている。

(桃井裕理)

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