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埋められた毒 中国が隠す土壌汚染

The Economist

トランプ米大統領が6月1日に地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言しても、中国が離脱しないとしたことに多くの人が喜んだ。

米国が離脱表明したことで、地球温暖化との戦いを指揮するリーダーは今や中国だ、とみる向きがある。それは、中国共産党が推し進めたくてたまらない自国の国際イメージだろう。

中国は世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国だが、近年はそれを削減する努力をしてきた。過去3年間連続して、火力発電に使う石炭消費量を前年より減らしてきたし、2016年に新たに設けた風力発電能力の規模は世界一であり、同2位だった米国の3倍に上る。

専門家の中には、中国のCO2排出量が25年をピークに減少に転じる可能性があるとみる者もいる。それは、パリ協定で中国が設定したよりも5年早い。だが、中国を地球環境保護のリーダーと呼ぶのは時期尚早だ。

大気や水質汚染は公表したが

中国の大気汚染と水質汚染は有名だ。あまり知られていないが土壌汚染も深刻さでは劣らない。だが、問題がどれほど深刻かを数値で計るのは難しい。中国政府が極めて不透明なためだ。2006~11年に実施された土壌調査の結果は当初、機密扱いとされていた。

この調査結果の多くはいまだ非公開だが、1つ不吉な統計が明らかになっている。中国の農地の5分の1が許容限度を超える汚染物質を含んでおり、作物の安全性が脅かされているところもあるというのだ。

世界人口の18%を抱えながら、農業に利用できる土地は世界の7%しかない中国にとって、これは大問題だ。土壌の洗浄は非常に難しく、莫大な費用がかかる。土壌は動かないので、汚染物質は何世紀にもわたってそこに留まり続ける。

国民の不安は高まっている。試しに誰か中国人に「カドミウム米」のことを聞いてみるといい。これは重金属であるカドミウムを含んだ米で、体内に摂取されると、腎臓障害、肺疾患、骨の異常などを引き起こす恐れがある。工場から漏れ出たカドミウム汚染水が、水田に入り込むことがあり、その結果、「カドミウム米」が食卓にのぼるのだ。

13年に、ある報告が中国の国民を震かんさせた。中国南部、広東省の広州市で検査したところ、飲食店や社員食堂で出される米の半分近くがカドミウムに汚染されていたことが判明したという。

国民があらためて意識したのは、土壌汚染は「がん村」(がんによる死亡率の高い村)のような一部の地域だけでなく、国全体に広がる問題であって、中国政府はその真実を明らかにしてこなかったという事実だ。

中国政府は、大気汚染や水質汚染については積極的に公表してきた。これらの汚染は目に見える形で現れ、隠しにくいからだ。それでも中国政府が、大都市の大気におけるPM2.5(空中を浮遊し、肺の奥深くに入り込んで健康を損なう微小粒子状物質)の濃度をリアルタイムで公表し始めたのは13年で、国民の怒りの高まりを受けた末のことだった。

15年には中国人ジャーナリスト、柴静(チャイ・ジン)氏が中国の大気汚染を告発するドキュメンタリーをネット上で公開したが、閲覧回数が2億を突破すると政府による検閲でサイトから削除された。

中国政府は国民の不安をよく認識している。14年に李克強首相は、「環境汚染を絶対に克服してみせる」と宣言した。

16年には中国政府は、土壌汚染地の90%を20年までに利用可能な状態にするという実現不可能とも思える計画を発表した。そして同年3月、李首相は「われわれの空を再び青くする」と約束し、16年のPM2.5の濃度は「顕著な」低下を記録するだろうと述べた。

隠蔽主義をやめるべき

そうした動きは大歓迎だ。しかし、中国が地球環境保護で世界のリーダー役を果たそうというのであれば、風力発電や太陽光発電の施設建設だけでは足りない。自国が抱える様々な他の環境問題についても明らかにしていくことが必要だ。その上で、他国にも同じことを要求していくべきだ。

パリ協定を成功させるためには、透明性が不可欠な要素となる。地球温暖化防止のために何か約束しても、実際に行われているかどうかを検証できないなら、共通の目的に向かって加盟各国を結束させることはできない。

地球環境問題で指導的立場に立つためには、中国政府はパリ協定が定める義務以上に踏み込んで、自ら自国のCO2排出量を国際機関に計測させるのも一案だろう。少なくとも、自国民の健康にかかわるような差し迫ったほかの汚染問題についても隠蔽主義をやめるべきだ。

そうした情報を公開していけば、中国の国民は自分たちがどんな危険にさらされているかを理解できる。そして政府高官らに環境汚染を止めるよう責任を果たさせることができるようになる。

「エコノミスト」を読んでくれている北京の市民たちは、太陽の光がどんなものか、もはやぼんやりとしか覚えていないかもしれない。だが、隠されているものを明るみにする光こそが、最も有効な汚染対策と言えるはずだ。

(c)2017 The Economist Newspaper Limited. June 10-16, 2017 All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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