2018年7月23日(月)

記者がトライ 琵琶湖の有事、ARが手引き 巨大ポンプも簡単操作

(1/2ページ)
2017/6/19 6:30
保存
共有
印刷
その他

 雨の季節になった。子どもの頃より集中豪雨や巨大台風のニュースは増えた気がする。川の水が急増して、街が水浸しになることもしばしばだ。そんな水害を防ぐポンプや水門を管理する水資源機構(さいたま市)が富士通と開発した拡張現実(AR)を使うウエアラブル端末を配備しているという。ARで防災?。「面白そう、使ってきてよ」。編集長のツルのひと声で琵琶湖まで来たけど、機械オンチの私でも、大丈夫かなあ……。

 琵琶湖東部にある大同川排水機場(滋賀県東近江市)。琵琶湖と流れ出る川の氾濫から地域を守る水門やポンプを管理する施設だ。琵琶湖畔に14カ所あり、4月からARを使ったウエアラブル端末を導入している。

 「きょうは設備の運転をよろしく」。渡されたのはヘルメットに小さなディスプレーやカメラ、スピーカーを搭載したウエアラブル機器。琵琶湖開発総合管理所の芦田哲朗副所長は「新入社員も操作できるようにしてあるから」というけど不安は残ったまま。湖の水をくみ出すポンプを動かす作業の指令が下った。

 いきなりの任務に腰が引けつつ、恐る恐るヘルメットをかぶる。ウエアラブル端末の重さは450グラム程度。思っていたよりも軽い。右目の前に小さな画面があり、この画面を通じて、施設内の移動や機械操作を指示するのだという。

 装着すると、画面に映像が表示された。最初のうちは、焦点を合わせるのに戸惑ったが、慣れると視界右側の空中に別の画面がぼわっと浮き上がっているように見える。

 画面にはヘルメットに付いたカメラが捉えた映像が映し出される。「水門操作室へ移動してください」。ヘルメットの後ろに付いているスピーカーから指示の声が流れた。画面表示が地図に替わり、その通りに操作室のドアを開けた。

 中は無機質な扉が並んでいた。瞬時に機械オンチな私の脳ミソが拒否反応を示す。だが、戸惑う間もなく次の指示が出る。「補機2盤へ移動してください」。言われるまま「補機2盤」と書いてある扉の前に立った。

 「ARマーカーにカメラを向けてください」。音声と共に右目で見る画面の上部に文字も流れた。扉になにやら印がついている。ヘルメットのカメラを向けると、画面に四角が出て印を読み取った。似た扉がたくさんある中で、指示通り正確な場所で操作していることを確認しているそうだ。

 いよいよ扉を開ける。中には数十のブレーカーと複雑な配線がびっしり並ぶ。これはダメだ――。平常心を失った私を見透かすように指示が下る。「赤枠内のブレーカーをONにしてください」。画面にカメラが映し出す機器の上に、赤枠が重なって表示された。ARが特定のブレーカーをはっきり示している。おお、これなら私にも分かる。指示された4つのレバーをサクサク上げた。

 この調子で移動、ARマーカーの読み込み、扉を開けてブレーカーの操作、確認を繰り返した。スイッチをひねったり、ランプの点灯を確認したり。1つ1つの作業が終わると、写真の撮影を求められた。カメラを向けると自動で写真が撮られ、クラウドに送信される。私が書かなくても操作報告書はリアルタイムで作成される。

 どうやら本人は何の操作なのか分からないまま、ポンプを動かす電源の準備が整ったようだ。画面に映る地図のままに、地下に向かう。1秒間に約12トン、琵琶湖の水を吸いあげるという巨大ポンプが3つ並んでいた。

 ポンプの横にある操作盤もARが映し出す赤枠の力を借りて、スイッチを特定する。ありがたいのはどの場面でも専門用語が1つもないことだ。「中央側にひねってください」。誰にでも分かりやすい言葉を使った指示なので、判断に迷うことはなかった。

 ポンプの操作を一通り終えて、屋外に出た。排水口や水門近くに大きなゴミがないかを確認。操作室に戻る頃には右目の前の小さな画面からの指示にも慣れ、対応は素早くなっていた。最後に電源盤についたレバーを回せば巨大ポンプが動きだし、琵琶湖畔の水害を防ぐことができるという。

 ウエアラブル端末を使った5月の演習では未経験者も1時間程度で工程を終えられたという。頭に装着するので手順書を手に持つ必要がなく、空いた両手で作業しやすいという利点もある。

 水資源機構は琵琶湖の水位が規定値を超え、水害が懸念されるときに「防災班」を結成し、排水機場に駆けつけることにしている。ただ、専門知識を持つ人がすぐにたどり着けるとは限らないため、大津市の本部から指示を出す、遠隔指示の仕組みも設けている。

 助けが必要な時はヘルメット搭載カメラに映った作業員の視点を本部のパソコンと共有する。本部が音声で指示しながら、AR画像内に矢印や丸を書きこみ作業員に知らせるのだという。点検作業や故障対応で普段から使いこなすことで、緊急時に備えている。

 芦田副所長は「ポンプを確実に動かすのが我々の使命だ」と力説する。だいぶARの力を借りた気もするが、私も琵琶湖畔の街の安全を守れるようになった気がした。

  • 1
  • 2
  • 次へ
保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報