/

「石炭は宝の山」 熱意が生んだスマホレンズ

関西サイエンスマガジン

真っ黒な物体が、無色透明な樹脂に変化する――。石炭から都市ガスを生成する際の副産物として出る真っ黒な「コールタール」。無色透明とはほど遠く思えるのだが、これを分留して成分を抽出すると、今や誰もが使う「アイフォーン」や「アンドロイド」といったスマートフォン(スマホ)のカメラレンズに様変わりする。

(上から時計回りに)コールタール、フルオレン、OKP樹脂と姿を変え、スマホカメラ用レンズ(中)が作られる(大阪市此花区)

大阪ガスの子会社である大阪ガスケミカル(大阪市)は、世界で普及しているスマホのカメラ用レンズ部品を供給している。コールタールに約1%含まれる「フルオレン」という化学物質から「OKP」と名付けた無色透明な光学用ポリエステル樹脂を2000年ごろに開発した。

世界で初めて開発したOKP樹脂は従来のカメラレンズより屈折率が高く、薄く成形できるのが特長だ。さらに画面端のゆがみを抑え、均質にできるという特長により、高画素の鮮明な写真を撮ることができる。

従来はポリカーボネート樹脂から作った素材に、硫黄原子などを入れるなどの手法が一般的だった。100万画素まで高めることはできたが、300万、400万、1000万とさらに高い画素を実現するには新素材の開発が必須だった。携帯電話などモバイル製品がどんどん薄くなっていたことへの対応も課題になっていた。

スマホに限らず光学系のレンズで使用されており、デジタルカメラやビデオカメラにも使われている。今でこそ競合各社がしのぎを削るが、それでも世界のシェアは約5割と高い。

化学物質と混ぜ合わせるなどの工程を経てフルオレンからOKP樹脂を作る

なぜ、ガス会社がカメラのレンズを作るのかと疑問に思うかもしれない。もともとガスは石炭から作っていた時代があった。1990年代初頭までは石炭からもガスを生成。デジカメやスマホなど向けは最近だが、研究は足かけ30年近くになる。

輸入天然ガスの普及を受けて石炭からガスを生成する時代は終わり、工場は閉鎖。研究自体が終わりかけた時もあった。

「石炭は宝の山」。研究への執念を燃やしたのは、1990年代に当時30代の若手研究員だった山田光昭取締役・技術統括だ。山田さんは「このまま終わりにするのはもったいない」と決意。当時の上司と相談して、生成した1トンのフルオレンや、実験器具、分析機器を資材倉庫に運び込み、ビニールシートで覆って隠した。

事業所移転の機に隠したのが本社に分かり、呼び出しを受ける。そこで、研究の必要性や将来性など盛り込んだ事業計画書を作り、「ダイヤモンドより金になる」と直談判した。計画書の熱意が通じ、研究の継続が決まったという。

山田さんは「自動車向けセンサーや仮想現実(VR)ゴーグル向けのレンズなど、用途を広げていきたい」と、新たな広がりに期待を寄せている。

(文・川口健史、写真・淡嶋健人)

 関西にはけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)や神戸医療産業都市、京都大学や大阪大学などのほか、大手企業の研究機関が集積する。関西の先端技術や研究を、独自の視点で切り取った写真と文章で毎月伝える。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン