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酷暑に阻まれ日本ドロー W杯へ次が正念場

サッカージャーナリスト 大住良之

「勝つためにここに来たのに、勝利で終わらせることができなかった。これで(8月31日の)オーストラリア戦が『決勝戦』となった」。試合後、バヒド・ハリルホジッチ監督は悔しさを隠しきれなかった。

8分にMF本田圭佑の右CKをFW大迫勇也がヘディングで決めて先制。だが15分を過ぎるとプレスが弱くなり、以後は相手に攻め込まれる時間が続いた。そして72分、右サイドで相手にパスを回されて中央に持ち込まれたのをDF吉田麻也が体を入れてキープ。簡単にクリアしておくべき場面にGK川島永嗣につかませる選択をし、川島がつかみ損ねたところをMFマハディに決められて同点。1-1で引き分けた。

誤算…戦術的交代は1人もできず

ハリルホジッチ監督にとっては、この試合のために3月から考え抜いたプランが次々と崩れる思いだっただろう。攻撃の中心となるはずだったMF香川真司が6月7日のシリア戦で左肩を脱臼して離脱、MF山口蛍もシリア戦のケガでイラク戦には間に合わなかった。

それに加え、この試合ではボランチとして見事なボール奪取ぶりを見せていたMF井手口陽介が59分に相手との衝突で脳しんとうを起こしてMF今野泰幸と交代。失点の直前にはDF酒井宏樹が足の故障でDF酒井高徳と交代を余儀なくされた。ハリルホジッチ監督はその直前に疲労困憊(こんぱい)のMF原口元気に代えてMF倉田秋を送り込んでいたため、酒井宏から酒井高への交代で3人の枠を使い切ってしまった。

この試合に向けたハリルホジッチ監督のプランは、相手の足が止まる後半半ば以降に右にスピードを誇るFW浅野拓磨、左にドリブラーのMF乾貴士を投入して突き崩すというものだった。しかし結局、戦術的な交代はひとりもできず、故障などへの対応で3枠を使い切ってしまう形となった。

この日は終始左サイドでプレーしたFW久保裕也は失点の直前から足がつっていた。右サイドの本田もひとつプレーすると荒い息をしていた。彼らに代えて「フレッシュな足」を送り込めなかったのは、ハリルホジッチ監督にとって大きな痛手だっただろう。

イラクは確実にボールをキープし、サイドに振ってそこからクロスをヘディングで狙うという意図が明らかだった。得点したマハディが左サイドからボランチの位置まで下がってボールを受け、ゲームメーカーの役割を果たす一方、左サイドにはイタリアのウディネーゼで活躍するDFアリ・アドナンが上がってきて精度の高いクロスを送り続けた。

これに対し日本は、相手への寄せが甘くなって大苦戦した6日前のシリア戦の反省を生かして厳しいチェックを見せ、立ち上がりからボールを支配した。だが前半15分を過ぎるとそのチェックの部分部分に「ほころび」が生じ、結局それ以後はよみがえらなかった。

とはいっても、吉田と昌子源の両センターバックが相手の攻撃によく対応し、ヘディングでも負けていなかったので、イラクの決定的なチャンスがそう多くはなかったのも事実だ。

この試合の本当の「敵」はイラクではなかった。気温38度、湿度10%という過酷なコンディション。午後4時55分キックオフといっても太陽はまだ高く、試合終了まで選手たちには体力を奪う強い直射日光が差し続けた。前後半とも「給水タイム」はとられた(後半の給水タイムは酒井宏の故障時)が、3人の交代枠だけでは試合の水準を維持することは不可能だった。

そうしたなかで、中盤で犬のように走り回り、相手ボールにチャレンジし続けたチーム最年少20歳の井手口を失ったのは非常に痛かった。

追加タイムの5分間、日本は懸命に攻め続けて勝ち越し点を狙った。しかし右コーナー付近からのDF酒井高のスローインをDF吉田が落とし、MF本田が左足を振り抜いた最後のシュートも、相手GKの正面をつき、引き分けに終わった。

B組首位も厳しい残り試合

これで全10試合のうち8試合を終えて日本の成績は5勝2分け1敗、得点15失点6、得失点差+9、勝ち点17でB組首位の座は守った。2位は勝ち点16、得失点差+7のサウジアラビア、そして6月8日にそのサウジアラビアを3-2で下したオーストラリアが同じ勝ち点16、得失点差+6で続くという大混戦となった。日本がイラクと引き分けた同じ6月13日に4位アラブ首長国連邦(UAE)が6位タイと引き分け、勝ち点10、得失点差-3となったため、日本は「3位以内」が決まったが、残り2節の対戦相手を見ればまだ非常に厳しい状況であることがわかる。

次の第9節。日本は埼玉スタジアムでオーストラリアと対戦し、サウジアラビアはアウェーでUAEと対戦する。そして9月5日の最終節には、日本はアウェー(会場は発表されていないがおそらくジッダ)でサウジアラビアと対戦、オーストラリアはホームに最下位のタイを迎える。

9月のジッダは、イラク戦が行われたテヘランと同じように気温が高いだけでなく、紅海に面しているため恐ろしく湿度が高い。この悪条件のなかで90分間相手を支配するような試合は考えにくい。できれば出場権獲得がこの試合にかからないよう、8月31日のオーストラリア戦で勝ち、「2位以内」を決めてしまいたいところだ。

これまでのハリルホジッチ監督のチームづくりを見ていると、「過去の実績(これを「経験」という言葉に置き換えてもいい)」や「欧州組」にとらわれ過ぎのように思えてならない。昨年秋の予選初戦でUAEに敗れ、タイ戦、イラク戦と苦戦が続いたのは、香川、本田、そしてFW岡崎慎司といった実績と欧州での経験をもつ選手に期待するあまり、彼らのコンディションの悪さに目をつむった結果だった。

そして今回、誰もを驚かせてMF加藤恒平(ブルガリアのPFCベロエ・スタラ・ザゴラ所属)を呼びながら、結局はイラク戦でベンチ外にした(チーム練習に加われなかった山口はベンチにいた)のが、「欧州組」に目を奪われ過ぎていることのなによりの証明だ。

実績よりコンディション

イラク戦では、酒井宏に代わって右サイドバックに入った酒井高が攻撃の場面で能力の低さを露呈し、終盤の追い込みの力になれなかったのは痛手だった。日本代表出場33試合、今回のワールドカップ予選でも7試合に出場している酒井高の「実績」と「欧州組」のレッテルを買ったのだろうが、攻撃面を考えるなら、初めて代表に選ばれたばかりながら、浦和所属でアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)など海外経験も豊富なDF宇賀神友弥をどうして使わなかったのだろうか。

3月のUAE戦で「救世主」のような活躍を見せた今野は、その後負傷でまったく試合に出場していなかったのに選出し、シリア戦で60分間プレーさせて、そこでようやく自らの過ちに気づいた。

こうして見ていけば、8月31日のオーストラリア戦、9月5日のサウジアラビア戦に向けてのチームづくりのテーマは明らかだ。

欧州のリーグ、Jリーグを問わず、そのときにコンディションの良い選手を選択し、しっかりとプレーできるチームを組み立てることだ。初代表に近かったDF昌子は、イラク戦では非常に立派なプレーを見せた。井手口とボランチのコンビを組んだMF遠藤航も、「フル代表」でプレーするのはほとんど初めてだったが、守備の強さと粘りのあるプレーで90分間戦いきった。

「欧州組はシーズン終了直後で疲れている」と、先週からの連戦中にハリルホジッチ監督は何度も嘆いたが、それならもっともっとフレッシュな活躍を見せているJリーグの選手を呼ぶべきではなかったか。

日本のワールドカップ6大会連続出場は、ハリルホジッチ監督が自らを呪縛する「実績主義」「欧州第一主義」から解き放たれることができるかどうかにかかっている。

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