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耐火木造に挑んだ全国初のガソリンスタンド

日経アーキテクチュア

これまでは「木造」を考えることすらしなかったであろうガソリンスタンドで、木材を扱う発注者自らが耐火木造化を推進したプロジェクトが現れた。地方都市の再生を見据えた熱意と粘りが、全国で初めての事例を生んだ。

林業が盛んな大分県日田市で、地産材を計26.56m3(立方メートル)使用した小規模な建物が、全国から注目を浴びている(図1)。

施工中の写真は一見、住宅にも見える何の変哲もない建物だが、実は危険物を取り扱うセルフ式ガソリンスタンド(屋外営業用給油取扱所)「日田北サービスステーション」の事務所棟だ。総務省消防庁によると、木造によるガソリンスタンドは全国で初めてとみられる(図2)。

日本木造住宅産業協会が大臣認定を取得している「メンブレン型」で、1時間耐火の木造を実現した。事務所棟は、地上2階建てで延べ面積は約128m2(平方メートル)。工費は、構造を鉄骨とした場合と同等程度で約2000万円だ。国道の拡幅に伴って全面改築し、2016年12月に開業した(図3)。

ガソリンスタンドに事務所棟のような建築物を計画する場合、壁や柱、床、梁、屋根を耐火構造または不燃材料でつくることや、建築物の窓及び出入り口に防火設備を設けることなどが求められる。確認申請、消防同意に加えて、危険物取扱所の設置許可申請などの手続きが必要だ。

発注者は、日田石油販売(日田市)。同社の瀬戸亨一郎社長は、日田木材協同組合の理事長でもある。木造建築の可能性を示し、木材の需要を拡大したいという狙いもあった。「ガソリンスタンド内の建築物は鉄骨造などが一般的だが、木材以外で建築されるのを残念に感じていた。木造でできないのだとしたら、その理由を知りたかった」と、瀬戸社長は当時の思いを説明する。

理論武装で消防と協議

「地元の流通材と地元の大工による施工でつくる」。これが、瀬戸社長の思い描く木造の条件だった。関連する法規などを調べると同時に、社会人学生として在籍した東京大学時代の恩師である安藤直人・東大名誉教授に真っ先に相談した(図4)。

安藤名誉教授からの助言で桜設計集団の安井昇代表にも意見を聞き、メンブレン型を採用すれば法規と技術の両面から、条件を満たす耐火木造が実現できる目算が立った。

瀬戸社長はこれらを踏まえ、設計を担当した長澤設計(福岡市)の畑島範敏設計課長とともに、地元の日田玖珠(くす)広域消防組合消防本部と協議を重ねた。畑島設計課長は並行して木住協の講習を受け、実施設計も進めていた。

協議を始めてから約3カ月後の2016年7月、最終的には消防本部を経由して消防庁に判断を仰ぎ「違法性はない」との回答を得た。同年12月の開業は決まっていたため、実施設計と施工は急ピッチで進めた。

設計は木住協の講習で得たメンブレン型のマニュアルに沿って、軸組み工法をベースに床と壁、天井のそれぞれに21mm厚の強化石こうボードを二重張りにした。軸組みは、日田産のスギ材とヒノキ材を使っている。しかし、木を石こうボードで完全に覆うため、完成すると木造であることは分からない(図5)。

事務所棟は、確認申請時に構造計算書の添付が義務付けられない建物だった。だが、石こうボードによる荷重が大きくなることから、木造の構造設計を専門とするきいぷらん(日田市)と協業し、構造計算上も問題がないことを確認しながら設計を詰めた。

畑島設計課長はこれまで、多くのガソリンスタンドの設計を手掛けた経験があるものの、耐火木造の建築物はもちろん初めてだった。「流通材を使用することが前提だったこともあり、鉄骨造のようにスパンが飛ばせない。そのため、柱の位置など構造設計とすり合わせながら進めた。防火区画の貫通部などの納まりにも苦労した」と打ち明ける。

2016年9月に着工し、既存の建物の解体や地下タンクの埋め戻し工事を経て基礎工事が完了したのが2016年10月末。建物の施工期間自体は、1カ月余りだった。建て方は2日も掛からず完了したものの、耐火構造に仕立てるための施工は、勝手が違った(図6)。

石こうボードは1000枚以上

施工を担当した江藤工務店(日田市)の中野英男専務は、「使用した石こうボードは、1000枚を超えていた。ボードは1枚を1人で持ち上げるのがやっと。この規模の一般的な木造の現場であれば2人ほどの大工のところ、多いときで7人が入った。耐火被覆のための工程も多く、神経を使う現場でもあった」と笑う。

開業以来、建築やエネルギー、林業の関係者からの見学者が後を絶たず、延べ300人にも上るという。瀬戸社長は「今回は他店とのデザインの統一性を考慮する必要があったため、木造らしさを残すことは難しかった。今後、木造建築の可能性を広げるためには、設計側から積極的に提案がほしい」と期待を込める。

制約が厳しい用途での木造事例が生まれたことで、いつ誰もが非住宅の木造を求められてもおかしくない。木造は、ついにここまで来た。

(日経アーキテクチュア 谷口りえ)

[日経アーキテクチュア2017年5月25日号の記事を再構成]

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