ドイツテレコム、米携帯再編で広がる選択肢

2017/6/8 6:30
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ドイツ通信最大手のドイツテレコムが、米国での携帯通信事業の再編を検討する可能性をちらつかせている。同社傘下で米携帯3位のTモバイルUSと他社との統合により、収益力を強化するのが狙いだ。Tモバイルは足元で米国でのシェアを急速に伸ばしており、グループの稼ぎ頭となっている。有利な立場を最大限に利用し、長期戦で業界再編に臨む構えだ。

ティモテウス・ヘットゲス最高経営責任者(CEO)は5月末、独西部ケルンで開いた株主総会で、米国事業について「我々は事業拡大を続けており、そのための多くの選択肢を持っている」と述べた。同CEOはかねて「理論的には再編・統合にはさまざまな利点がある」と話し、再編の必要性に改めて言及した格好だ。ソフトバンクグループの孫正義社長も傘下で米携帯4位のスプリントとTモバイルの統合に意欲をみせており、再編機運が高まっている。

ヘットゲス氏自身、固定通信会社との統合よりも、同業の携帯通信会社との統合が望ましいとの立場では共通する。事業者の数が減る再編の方が規模のメリットが発揮しやすいためだ。ただ、再編後にどのように経営に関与するのかなど具体的な方針は明らかにしておらず、さまざまな選択肢が考えられる。

一時売却を検討した2014年当時とは異なり、Tモバイルは足元で米国でのシェアを高めている。1~3月期の純利益は前年同期比46%増の約7億ドル(約770億円)。簡素な料金プランを武器に契約者数を大きく増やしている。米国でのシェア拡大の余地がなお大きく、米ジェフリーズの通信担当アナリスト、マイク・マコーマック氏は「携帯市場を強化したい多くの企業にとって、同社は最適な資産(買収対象)であり続ける」と説明する。

Tモバイルは同業者やCATV事業者などの提案を吟味する余裕があるとみて「短期的には何もする必要はない」とマコーマック氏は分析する。ドイツテレコムにとっても米国事業は稼ぎ頭で、よほどの高値でない限り急いで売却には応じないとの見方が多い。

売却した場合に、現時点では資金を投じる有力な対象が限られることも大きい。欧州連合(EU)の規制当局である欧州委員会は事業者が4社から3社に減る再編には否定的で、域内で同業者を買収するハードルは高いためだ。将来的には次世代の通信規格である第5世代(5G)への投資が必要になるが、当面は株主への還元以外に資金の振り向け先がないという現実的な問題がある。

ドイツテレコムが検討するもうひとつの可能性がソフトバンクなど他社との合弁だ。過去に旧フランステレコム(現オレンジ)と折半出資で英国で携帯通信事業の合弁会社EEを設立。昨年の英BTグループへの売却に伴い合弁を解消したが、ドイツテレコムはBT株の12%を保有する。

もっとも、Tモバイルはすでに株式を上場し、ドイツテレコムの保有比率は64%強にとどまる。どの程度の支配権を維持するかなど交渉は複雑になる見通し。再編後も過半数の株式保有にこだわれば、追加の資金負担が必要になり、財務悪化を招くおそれもある。

長期的には米国事業を手放す可能性も残る。欧州と米国の事業で相乗効果が薄いためだ。欧州に有力な投資先がある場合や米国の成長に陰りが出た場合、合理的に判断するとの見方もある。

■欧州は規制強化が影

米国で通信業界への規制緩和に追い風が吹く一方、欧州では規制強化に警戒感が強まっている。ドイツテレコムなどの主要通信会社のトップは5月下旬、規制当局の欧州委員会に共同書簡を提出し、欧州連合(EU)におけるデジタル単一市場の実現のために投資を促すよう強く求めた。

共同書簡に署名したのは、ドイツテレコムのほか、英BTグループや仏オレンジ、スペインのテレフォニカなどの首脳だ。(1)あらゆる規制が投資促進を保証する(2)次世代の携帯通信規格である第5世代(5G)の計画を支援する(3)消費者の選択肢の増加や技術革新に断固たる行動を取る――の3つを要求した。

欧州の主要な通信会社は年間300億ユーロ(約3兆7千億円)を無線や固定通信の設備に投資しているが、「デジタル単一市場をなし遂げるには不十分」という。

欧州は規制の足かせで企業が投資に及び腰で、北米やアジアに比べて通信網への投資が半分にとどまっており、関連のデジタルサービスの分野でも海外に出遅れていることに危機感を募らせている。

欧州で超高速の通信網を整備するには将来的に最大6600億ユーロが必要とみられている。欧州委は通信大手を優遇するとの見方から規制緩和には消極的で、プライバシー保護への規制強化なども取り沙汰され、通信各社の欧州事業の見通しに影を落としている。

(ロンドン=黄田和宏)

[6月8日付 日経産業新聞]

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