実は幻想、iPhoneの「日本製部品頼み」
裏読み「アップル経済圏」(下) 大槻智洋 TMR台北科技代表
iPhoneなどのアップル(Apple)製品には、日本企業の部材ばかりが使われている――。こうした認識を持っている日本人は少なくない。

しかし、これはもはや"神話"だ。確かにかつて、携帯音楽端末「iPod」では日本企業の部材の採用も目立ったが、今では台湾企業が強く、中国企業も躍進している。
アップルとの直接取引という"業界地図の一等地"を得た企業は、世界でどのように分布しているのか。アップルが毎年公開している、部材供給企業リスト、いわゆる「サプライヤーリスト」から読み解く。
常に台湾 > 米国 > 日本
アップルに部材を供給しているサプライヤー数を本社の国・地域別に調べると、最大勢力は常に台湾企業である。図1に、同社がサプライヤーリストを公開し始めた2012年から2016年までの各年別の実績を示す。国・地域別の順位はこの5年間まったく変わっていない。
過去5年通算でも同じだ。アップルサプライヤーとして掲載された269社中、台湾企業は71社、米国企業は60社、日本企業は55社である。

日本企業がサプライヤーの最大勢力だった時期について、明確なデータはない。ただし10年以上前のiPodシリーズは、そうだったと推測される。東芝や日立グローバルストレージテクノロジーズ[現在の米ウエスタンデジタル]のハードディスク装置、ソニーのリチウムポリマー電池、オプトレックス(現在の京セラディスプレイ)の液晶パネルなどが採用されていた。こうした大型部品の採用実績が"神話"を生み出したのだろう。
しかし、それも今は昔。台湾企業がトップの座を占めている。台湾企業の強みの一つは、製造の現場とコミュニケーションが取りやすいことだ。鴻海(ホンハイ)精密工業(通称:フォックスコン、Foxconn)など台湾系の電子機器受託企業(EMS/ODM)企業が、アップルから製造案件をほぼ独占的に受注しているからだ(表1)[注]。
社名 | 供給物 | |
英語 | 中国語 | |
Compal Electronics | 仁寶 | 2015年からタブレット |
Foxconn (Hon Hai) | 鴻海 | スマートフォン、タブレット、筺体などの部材も供給 |
Foxlink (Cheng Uei) | 正崴 | アクセサリー(周辺機器)、コネクターなどの部材も供給 |
Inventec | 英業達 | 音楽プレーヤー、Bluetoothイヤホン |
Pegatron | 和碩 | スマートフォン、タブレット |
Quanta Computer | 広達 | ノートパソコン、Apple Watch |
Wistron | 緯創 | 2015年から旧世代スマートフォン、2017年インド生産開始 |
これらEMS/ODM企業傘下の一部の部材メーカーは、親会社とは別口座でアップルと取引している。つまり、間接納入より難しいアップルへの直接納入を実現した。こうした部材メーカーは、親会社を通じてアップルのニーズを直接に近い形で把握できる。この立場が大いに役立った。
具体的には、鴻海系ではコネクターの台湾FITホントン(FIT Hon Teng、鴻騰)、プリント基板の中国ゼンディン(Zhen Ding Technology、ZDT)が、台湾ペガトロン(Pegatron、和碩)系ではWi-Fiモジュールなどを製造する台湾アズールウェーブ(Azurewave、海華)が、それぞれ直接取引を実現している。このほか鴻海関連では、子会社化したシャープと、シャープの持ち株比率が44%のカンタツがアップルに直接納入している。
機構部品系が半導体系よりずっと多い
アップルと直接取引する台湾勢の中で、実は半導体企業は少ない。2016年はアップルが設計したアプリケーションプロセッサーの製造前工程を受託する台湾TSMC(台積電)と、同後工程を担うASE(日月光)の2社だけだった。
これはアップルが米国勢の半導体を重用しているためだ(図2)。しかしながら、米国半導体メーカーの大半は、TSMCやASEに製造を委託している。

あまり知られてはいないが、台湾には精密加工技術を用いた機構部品のメーカーが多い(表2)。これらは多くの場合、材料や工作機械を手掛ける日本メーカーの大口顧客である。アップルと直接取引した機構部品メーカーは、過去5年に10社。世界市場で大きな地位を占める台湾のプリント基板メーカーは、過去5年に9社だ。
社名 | 供給実績 | 供給物・ サービス | |||||
英語 | 中国語 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
Asia Vital Components (AVC) | 奇鋐 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | 放熱機構部品 |
Auras | 双鴻 | ◯ | × | × | × | ◯ | 放熱機構部品 |
Catcher | 可成 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | 筺体 |
Coxon | 谷崧 | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | 筺体 |
Hama Naka Shoukin | 浜中松琴 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ネジ |
Jarllytec | 兆利 | × | × | ◯ | ◯ | × | ヒンジ |
Shin Zu Shing (SZS) | 新日興 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ヒンジ |
Sunon Electronics | 建準電機 | × | × | ◯ | × | ◯ | 放熱機構部品 |
Taiwan Hodaka | 台灣穗高 | × | × | × | ◯ | ◯ | 筺体加工 |
Triotek | 鈦鼎 | × | × | × | ◯ | ◯ | メッキ鋼板 |
ベンチャーキャピタルで投資や経営支援に従事した後、2001年より日経BP社で日経エレクトロニクス記者となる。カメラ技術やEMS/ODM産業の分析記事で高評価を受ける。2011年に台湾でTMR台北科技を設立。コンサルティング会社や電子関連企業に調査サービスを提供するほか、メディアに寄稿している。
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