2019年6月19日(水)

解剖「ケイレツリスト」 アップル経済圏の栄枯盛衰
裏読み「アップル経済圏」(上) 大槻智洋 TMR台北科技代表

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2017/6/15 2:00
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その特定サプライヤーとは、台湾ラーガン・プレシジョン(Largan Precision、大立光)である。同社は高価格帯のレンズで他社を圧倒しており、収益性は極めて高い。それ故、台湾本社の従業員には通常のボーナスとは別に、「員工分紅」と呼ばれる株主総会で決定するボーナスを、2017年に一人当たり約90万台湾ドル(327万円)も支給する予定という。

直接取引に切り替えれば、アップルはサプライヤー間のアロケーション(割り当て)を直接変えられる。それ故、カンタツに対して「この課題を克服すれば御社のアロケーションを増やしますよ(逆に言えば、Larganのアロケーションを減らしますよ)」という提案の魅力が増す。部材メーカーとしてはアップルと直接取引することで、もちろん相当数の供給量が保証されると当時に、業界で「優良」との評価が得られる。このようにしてアップルは、自らにとって頼れる存在の部材メーカーを増やしてきた。

■「毒リンゴ」食べた日本企業

"カリスマ経営者"のスティーブ・ジョブズ氏亡き後も、電子機器業界のトレンドをリードし、市場に与えるインパクトも絶大のアップル。しかし、同社と取引することは、業界でしばしば「毒リンゴを食う」と表現される。

アップルの部材調達や商品ラインナップに関する方針が、表3に示すような利害得失をサプライヤーに与えるからだ。例えば、アップルはいわゆる低価格帯のローエンド製品を持たないため、部材メーカーにとっては購入単価が高いうまみがある一方、それに慣れてしまうと頻繁に登場する"価格破壊者"と取引できなくなってしまう。

良し原因(Appleの特徴)悪し
サプライヤーの名声が高まる競争が激しい「アップル経済圏加入選手権」にサプライヤーが勝利したからなし
購入単価が高いアップルがローエンド商品を持たず、仕様値が高いからアップルとの取引で満足すると、電子産業で頻繁に現れる価格破壊者に対処できない
購入量が多いアップルがスマホ、タブレット、パソコンの大手で、かつ商品数が少ないからなし
新設計およびその費用回収機会を得られるアップルが汎用の部材を使いたがらないから設計費用がかさむ
量産規模を高められるタッチパネル部材のように、時にアップルだけが設計するから設計の経験値を高められない
必ず損する価格を要求しないアップルが生産コストを子細に把握するからたくさんの利益を出せない
購入量のボラティリティが低いスティーブ・ジョブズ氏がCEOの時と違って、粗利を下げて商品のヒットを求めないから値下げ交渉が高頻度
なしサプライヤーの生産能力割り当て上位に、アップルがいることを求めるから/時にアップルの競合と取引しないことを喜ぶから取引先を広げにくい

表3 アップルと直接取引することの良い点と悪い点

一等地に入居した企業といえども、技術進歩が速い電子機器業界では相応のリスクを負わなければならない。リスクを負いすぎた日本企業は、少なくとも二つある。ジャパンディスプレイフォスター電機だ。

社名2015年3月期2016年3月期
ジャパンディスプレイ41.80%53.70%
フォスター電機36.80%43.90%
シャープ19.80%27.10%
ミネベア(現ミネベアミツミ)10%未満17.80%
日本航空電子工業11.70%15.40%

表4 売上高の多くをアップルに依存する日本企業の例。
有価証券報告書に基づく

表4に売上高のアップル依存率を示した。2016年3月期にジャパンディスプレイのそれは53.7%、フォスター電機は43.9%に達している。もし、アップルによるアロケーションが減少した場合、そのあおりを大きく受けることになる。

しかも両社には、技術トレンドの逆風が吹きつけている。ジャパンディスプレイは有機ELパネル(AMOLED)事業において、韓国企業に対して完全劣位にある。フォスター電機は無線(Bluetooth)化の波にまだ乗っていない。それに乗ったのは、台湾インベンテック(Inventec、英業達)や中国企業である。

■外資の日本法人がアップルと直接取引

ここまでは本社が日本にあるサプライヤーについて説明したが、日本に拠点を置く外資系企業に目を移してみよう。実は日本拠点の従業員がアップルとの直接取引に貢献した例が数多くある。

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