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解剖「ケイレツリスト」 アップル経済圏の栄枯盛衰

裏読み「アップル経済圏」(上) 大槻智洋 TMR台北科技代表

<訂正>15日6:30公開の「解剖『ケイレツリスト』 アップル経済圏の栄枯盛衰」の記事中「逆にコネクターの米TE コネクティビティ(TE Connectivity)は2016年にリストから消えた」とあった部分は事実と異なる点があったため削除し、表に注記として「[注]TE Connectivityは2016年に回路保護製品部門を他社に売却したのでリストから外れた」を加えました。表中にある米TE Connectivityの提供内容の分類で「コネクター」とあったのは「回路保護製品」の間違いでした。

米アップル(Apple)が毎年公開している「サプライヤーリスト」という"企業名簿"がある。同社に部材を供給する業者(サプライヤー)の、いわば"ケイレツリスト"である。そこに名前が載ることは、電子機器の世界で"業界地図の一等地"に入居したに等しい。

アップルは2016年度にiPhoneだけで2億1600万台(世界出荷2位でシェア14.4%)を出荷し、全社の売上高が2156億米ドル(2016年9月24日までの1年間、1ドル110円換算で約24兆円)に達する。さらに、部材に対するQCD(品質・コスト・納期)はことさらに厳しい。それ故、選ばれたサプライヤーは「優良」のお墨付きを得る。

連載「裏読み『アップル経済圏』」では、著者が5年分(2012~2016年)のサプライヤーリストを集計し、取引内容などを補足した結果を3回に分けて報告。消費者からは普段見えないアップル経済圏の「裏側」を分析することで、世界の部材産業における日本企業の立ち位置や、日・台・中の部材メーカーの動静、栄枯盛衰を浮き彫りにする。

アップルは2012年以来、毎年3月頃にサプライヤーリストを公開している。主目的は、コンプライアンス(法令順守)の強化。外部機関が、アップルとサプライヤーが社会規範を守っているか、チェックしやすくすることだ。同様なリストを公開している日本企業には、ファーストリテイリングがある。

サプライヤーリストには社名と事業所の住所が記載され、供給内容は書かれていない。掲載されている業者は約200社。その調達額は全体の97%以上を占める。商社などを通じてアップルと間接的にのみ取引している企業は、このリストに載らない[注]。なお、2012年からの5年でサプライヤーリストに名を連ねた企業は合計で269社、本社所在国・地域は17、事業所所在国・地域は37に及ぶ。

昨今、アップルのような民生機器メーカーが台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業(通称:フォックスコン、Foxconn)のようなEMS/ODM(設計製造受託)企業に、製品の組み立てを依頼するのは"常識"になっているが、アップルは他社よりも多く部材を自ら調達し、EMS/ODM企業に供給している。調達に要する手間や費用は増えるものの、「部材の最新事情を把握すればサプライヤーを制御して所望の水準で製品を量産出荷しやすくなる」と信じているためだ。

カンタツが「1等地入り」した理由

まずは、日本企業の直近の状況を見てみよう(表1~表2)。

2016年に初めてリスト入りした企業は、日本電波工業、カンタツ、東レインターナショナル、日本特殊陶業の4社だ。いずれも、かつてはアップルに間接納入をしていたとみられる。

一方、2015年のリストにはあったが、2016年にはなかった日本のサプライヤーは以下の3社だ。シチズン電子(液晶バックライト)、カネカ(熱拡散シート)、スリーボンド(接着剤)である。

日本電波工業、カンタツなど"新顔"4社が直接取引に切り替わった理由は一様でないが、レンズメーカーのカンタツに関してはアップルの明確な意志がある。既に直接取引している、"ある特定サプライヤー"の競合に育て上げ、一層の値下げを迫れる状況を作ることだ。

供給内容
の分類
社名詳細、補足



アルプス電気レンズ用モーター、地磁気センサー
トーキンタンタルコンデンサー
京セラ水晶振動子、イメージセンサー用パッケージ材
ミネベアミツミバックライト、レンズ用モーターなど
村田製作所セラミックコンデンサー、SAWフィルター、Liイオン2次電池(ソニーから買収予定)
日本電波工業水晶振動子
パナソニックインダクター、グラファイトシート、フィルムコンデンサー
シャープ液晶パネル、カメラモジュール、指紋センサーのモジュール加工
SMKiPadドックなど
スミダコーポ
レーション
インダクター
太陽誘電インダクターなど
TDKインダクター、レンズ用モーターなど
供給内容の分類社名詳細、補足供給内容の分類社名詳細、補足
材料旭硝子――機構部品古河電工放熱機構部品
ダイキンフッ素コーティング剤日本電産振動モーター
デクセリアルズ異方性導電膜東陽理化学研究所筺体加工
ポリマテック樹脂部品銭屋アルミニウム
製作所
筺体加工
住友化学――半導体日本特殊陶業パッケージ材
東レインターナショナル――ローム電源IC
UACJ古河スカイと
住友軽金属が源
ソニーイメージセンサー
ディスプレージャパンディスプレイ――東芝フラッシュメモリー
日亜化学LEDプリント基板フジクラフレキシブル基板
日本写真印刷タッチセンサーイビデンIC基板
日東電工ITO日本メクトロンフレキシブル基板
豊田合成LED住友電工プリントサーキットフレキシブル基板
ツジデン光拡散フィルムコネクター第一精工――
音響フォスター電機イヤホンヒロセ電機
カメラカンタツレンズ日本航空電子工業
[注]近年買収されたり、経営の独立性が高かったりする企業は、独立してカウントしている。その対象企業は「TDK傘下の香港ATL(新能源)、米インベンセンス(Invensense)」「米ケメット(Kemet)傘下のトーキン(旧NECトーキン)」「ルネサスエレクトロニクス傘下の米インターシル(Intersil)」「米アナログデバイセズ(Analog Devices)傘下の米リニアテクノロジー(Linear Technology)」「台湾ASE(日月光)傘下の台湾USI(環鴻)」

その特定サプライヤーとは、台湾ラーガン・プレシジョン(Largan Precision、大立光)である。同社は高価格帯のレンズで他社を圧倒しており、収益性は極めて高い。それ故、台湾本社の従業員には通常のボーナスとは別に、「員工分紅」と呼ばれる株主総会で決定するボーナスを、2017年に一人当たり約90万台湾ドル(327万円)も支給する予定という。

直接取引に切り替えれば、アップルはサプライヤー間のアロケーション(割り当て)を直接変えられる。それ故、カンタツに対して「この課題を克服すれば御社のアロケーションを増やしますよ(逆に言えば、Larganのアロケーションを減らしますよ)」という提案の魅力が増す。部材メーカーとしてはアップルと直接取引することで、もちろん相当数の供給量が保証されると当時に、業界で「優良」との評価が得られる。このようにしてアップルは、自らにとって頼れる存在の部材メーカーを増やしてきた。

「毒リンゴ」食べた日本企業

"カリスマ経営者"のスティーブ・ジョブズ氏亡き後も、電子機器業界のトレンドをリードし、市場に与えるインパクトも絶大のアップル。しかし、同社と取引することは、業界でしばしば「毒リンゴを食う」と表現される。

アップルの部材調達や商品ラインナップに関する方針が、表3に示すような利害得失をサプライヤーに与えるからだ。例えば、アップルはいわゆる低価格帯のローエンド製品を持たないため、部材メーカーにとっては購入単価が高いうまみがある一方、それに慣れてしまうと頻繁に登場する"価格破壊者"と取引できなくなってしまう。

良し原因(Appleの特徴)悪し
サプライヤーの名声が高まる競争が激しい「アップル経済圏加入選手権」にサプライヤーが勝利したからなし
購入単価が高いアップルがローエンド商品を持たず、仕様値が高いからアップルとの取引で満足すると、電子産業で頻繁に現れる価格破壊者に対処できない
購入量が多いアップルがスマホ、タブレット、パソコンの大手で、かつ商品数が少ないからなし
新設計およびその費用回収機会を得られるアップルが汎用の部材を使いたがらないから設計費用がかさむ
量産規模を高められるタッチパネル部材のように、時にアップルだけが設計するから設計の経験値を高められない
必ず損する価格を要求しないアップルが生産コストを子細に把握するからたくさんの利益を出せない
購入量のボラティリティが低いスティーブ・ジョブズ氏がCEOの時と違って、粗利を下げて商品のヒットを求めないから値下げ交渉が高頻度
なしサプライヤーの生産能力割り当て上位に、アップルがいることを求めるから/時にアップルの競合と取引しないことを喜ぶから取引先を広げにくい

一等地に入居した企業といえども、技術進歩が速い電子機器業界では相応のリスクを負わなければならない。リスクを負いすぎた日本企業は、少なくとも二つある。ジャパンディスプレイフォスター電機だ。

社名2015年3月期2016年3月期
ジャパンディスプレイ41.80%53.70%
フォスター電機36.80%43.90%
シャープ19.80%27.10%
ミネベア(現ミネベアミツミ)10%未満17.80%
日本航空電子工業11.70%15.40%

表4に売上高のアップル依存率を示した。2016年3月期にジャパンディスプレイのそれは53.7%、フォスター電機は43.9%に達している。もし、アップルによるアロケーションが減少した場合、そのあおりを大きく受けることになる。

しかも両社には、技術トレンドの逆風が吹きつけている。ジャパンディスプレイは有機ELパネル(AMOLED)事業において、韓国企業に対して完全劣位にある。フォスター電機は無線(Bluetooth)化の波にまだ乗っていない。それに乗ったのは、台湾インベンテック(Inventec、英業達)や中国企業である。

外資の日本法人がアップルと直接取引

ここまでは本社が日本にあるサプライヤーについて説明したが、日本に拠点を置く外資系企業に目を移してみよう。実は日本拠点の従業員がアップルとの直接取引に貢献した例が数多くある。

表5に外資系企業の星取表(サプライヤーリスト入りの年別成否)を示す。例えば、プリント基板の台湾ユニマイクロン(Unimicron)は2015年にリスト入り、半導体の米スカイワークスソリューションズ(Skyworks Solutions)は2016年にリストに載った。

供給内容の
分類
本社社名日本国内事業所の所在地供給記録
20122013201420152016
半導体米Micron広島県東広島市、秋田県秋田市
米ON Semiconductor岐阜県安八町、福島県喜多方市××××
米Sandisk三重県四日市市×××
米Skyworks Solutions大阪府大阪市、大阪府門真市××××
米Texas Instruments茨城県美浦村(2013年のみなし)、大分県日出町(2012年のみあり)、福島県会津若松市
材料米3M山形県東根市×
米Chemours岐阜県中津川市、東京都千代田区×××
米Corning静岡県掛川市×××
コネクター米Molex鹿児島県鹿屋市(2013年のみなし)、神奈川県大和市(2012年のみあり)、静岡県吉田町
回路保護製品米TE Connectivity茨城県稲敷市×[注]
物流ドイツArvato千葉県千葉市××××
プリント
基板
台湾Unimicron北海道恵庭市×××
包装印刷米RR Donnelley岐阜県下呂市

日本企業の中国拠点配置に疑問

最後に、アップルのサプライヤーを取引先とする日本の部材/工作機械メーカーによくある"悪習"を指摘しておこう。日本人駐在員を中国・上海市にばかり送り込むことだ。

確かに上海市にも設計や製造の現場がある。しかし、それは明らかに年々減少している(図1)。単に上海市が都会で日本人駐在員が暮らしやすいから、日本企業は同市を選んでいるのだろう。しかし、本気でビジネスをしたいのなら、駐在員を送り込むべき地は、江蘇省や四川省、河南省である。これらの地域でサプライヤーの拠点が増えているからだ。

また、深圳市を含めた広東省で中国営業を統括したり、商品を開発したりする日本企業が、ほとんど増えていないことも気になる。サプライヤーの中国拠点の35%が、この地域に存在するからだ(2016年時点)。例え、アップルがスマートフォン(スマホ)市場で後退したとしても、この重要性は変わらないだろう。スマホの世界シェア3~5位がすべて広東省の企業だからだ。

調査会社の米ガートナー(Gartner)によると、2017年第1四半期に中国ファーウェイ(Huawei、華為)、オッポ(Oppo、歐珀)、ヴィヴォ(Vivo、維沃)を合計したスマホの世界出荷台数シェアは24%。アップルの14%はもちろん、韓国サムスン電子(Samsung Electronics)の21%さえ超えている。

大槻智洋(おおつき・ともひろ)
 ベンチャーキャピタルで投資や経営支援に従事した後、2001年より日経BP社で日経エレクトロニクス記者となる。カメラ技術やEMS/ODM産業の分析記事で高評価を受ける。2011年に台湾でTMR台北科技を設立。コンサルティング会社や電子関連企業に調査サービスを提供するほか、メディアに寄稿している。

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