「貸出ゼロ本」最初に読んで
「眼鏡の社会史」「白菜のなぞ」… 図書館、隠れた良書PR
各地の図書館で借り手のいない本だけを集めた展示が広がっている。不人気ぶりをあえて前面に出すことで来館者の興味を引き、埋もれた良書の貸し出しにつなげるのが狙い。近年、インターネットで検索した蔵書を受け取るだけの利用者も目立つ。司書らの試みには「無数の本を手に取り、自分なりの一冊を見つける」という図書館本来の魅力を再確認してほしいとの思いも込められている。

大阪市立東淀川図書館で5月、1台の書棚が来館者の目を引いた。「1年間、貸出0(ゼロ)の本」。貼り紙の下には、絵本や小説、実用書など60~70点の書籍が並ぶ。「眼鏡の社会史」(ダイヤモンド社)、「白菜のなぞ」(平凡社)――。最近1年間で全く貸し出しのなかった作品ばかりを集めた。
館長で司書の角田人志さん(56)が作品を選び、1カ月限定で開設した。角田さんは「内容が充実しているのに、地味な装丁や題名の取っつきにくさから、借り手のいない書籍は少なくない。不人気を逆手にとって、来館者が本を手に取るきっかけをつくりたかった」という。
展示期間中、対象のほぼ全作品が貸し出された。近所に住む主婦、山口照美さん(48)は「どれも面白そうな本ばかりで、誰も借りていなかったのが不思議」と話す。
市内で最初に借り手のいない書籍の専門コーナーを設けたのは市立福島図書館。2015年、直近5年間で貸し出しのなかった50点を紹介したところ、来館者に好評だったため、東淀川図書館なども導入した。同様の試みは府外にも広がり、今年1月には、鳥取市の鳥取県立図書館が「貸出0回救出大作戦」と銘打って153点を展示した。
「隠れた名著に光を当てたい」(角田さん)というのが司書らに共通の願いだが、図書館を取り巻く環境の変化も一連の取り組みにつながっている。
インターネットが普及して以降、図書館を訪れる前に、お目当ての蔵書を検索して予約しておく利用者が目立つようになった。大阪市内で24館を運営する市立図書館によると、15年度にネット経由で予約のあった書籍やDVDは全館で約176万点。ネット予約システム導入後の02年度から6倍近くに増えたという。
市立図書館全体の企画などを担当する島上智司さん(53)は「最近は予約した本の受け取りと返却だけのために図書館を訪れる人も多い」と指摘。「落ち着いた空間の中で、自分の人生を豊かにしてくれる本を直接手にとって選べるのが図書館の素晴らしさ。今後も興味深い企画を考え、魅力を再認識してくれる人を増やしたい」と話している。