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「高さ世界一」 日本の先行くカナダ18階高層木造

<訂正>6月23日公開の「『高さ世界一』 日本の先行くカナダ18階高層木造」の記事中「ブロックコモンズでは、合計2233m3(立方メートル)の木材を用いる。木材利用によって削減できるCO2の排出量は243万2000トンに及ぶ」とあったのは「2432トン」の誤りでした。
日経アーキテクチュア

カナダのバンクーバーに、木造を多用した高層ビルが完成した。混構造ではあるものの、柱や床といった主要構造材に木を用いた。単純な構造を採用して、横展開が容易なビルに仕上げている。

主要構造に木材を多用した18階建ての高層ビル「ブロックコモンズ」の建設が、終盤を迎えている(図1)。主要構造に木材を利用したビルとして実現した高さ58.5mは、世界一の水準だ。カナダのバンクーバー市内にあるブリティッシュコロンビア大学(UBC)に建設中の学生寮で、2017年6月から供用を開始する。延べ面積1万5115m2(平方メートル)の学生寮では、約400人の学生が生活できる。

図1  工事終盤に差し掛かったブロックコモンズの様子。東側から見る。柱や床に木材を用いていることが分かる。2016年8月に撮影(写真:KKLaw、naturally:wood)

この事業は、カナダの天然資源省が2013年に実施したコンペを経て進められている。「マスティンバー」と呼ぶ大型の木質材料を高層建築に活用するという要件で募集したコンペで、北米の森林資源の市場開拓とCO2(二酸化炭素)の固定による地球環境保全の狙いがある。

建築設計はアクトン・オストリー・アーキテクツ、構造設計はFast+Eppが、それぞれ担当した。いずれもバンクーバーに拠点を置く事務所だ。さらに、欧州の高層木造建築の設計で実績を積み重ねてきたヘルマン・カウフマンZT社がアドバイザーの役割を担った。

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国が支援する事業という点からも分かるように、このプロジェクトでは汎用性が求められた。つまり、複製や応用が容易な建物を実現する必要があったのだ。

収縮を考慮して床を設置

図2  木造の躯体(くたい)を立ち上げる前段で、RC造のコアを建設する風景。2016年4月に撮影。火災時の避難経路となるだけでなく、風や地震による水平力を負担する(写真:ActonOstryArchitects&UniversityofBritishColumbia)

木材を多用するうえで、構造材としての利用は効果的だ。ただ、高層建築の構造材として利用するには、法令で規定された耐火性能を満たす必要がある。ブロックコモンズが立つブリティッシュコロンビア州では、純粋な木造で7階建て以上の建物を建設することは極めて難しい。このプロジェクトでは、比較的容易に実施できる混構造を採用した。

基礎、1階の柱、2つの階段室であるコアを鉄筋コンクリート(RC)造で構築(図2)。コア部分は耐火性能の確保だけでなく、地震や風による水平力を受け持つようにした。

一方、2階から17階の柱にはベイマツによる集成材を、床には5層構造のCLT(直交集成板)を用いている(図3、図4)。

図3  2~17階部分は柱と床を木材で施工した。ベイマツ集成材の柱は軽いので、人力での施工が可能だ。2016年7月に撮影(写真: PolluxChung、SeagateStructures)
図4 格子状に配した柱に合わせて、CLTパネルを設置する様子。建物の建設に用いる木材は、施工当日に必要な量だけを現場に搬入した。2016年7月に撮影(写真: PolluxChung、SeagateStructures)

このCLTはトウヒとマツ、モミを用いたSPF材でつくったものだ。そして、主に26.5cm角の柱を2.85×4mのグリッドの頂点に配置して、その上にCLTの床を載せるシンプルな構造を採用(図5、図6)。同種の建物を簡単に設計できるような格好に仕上げた。

図5 シンプルな構造を選択して、作業性を向上させるとともに、同様の建物の設計を実践しやすくした。2016年8月に撮影(写真:KKLaw、naturally:wood)
図6 耐火性能を得るための処理を施す前の建物は、木質感にあふれている。2016年8月に撮影(写真:StevenErrico、naturally:wood)

2時間の火災に耐える性能が求められた柱などは、簡易に性能を付与できる石こうボードを張った(図7)。厚さ16mmのボードを3層重ねている(図8)。そのため、建物に木材を多用したにもかかわらず、居室内では木質感を得にくい意匠となっている。

図7 柱をはじめとした構造材に石こうボードによる耐火被覆などを施す。床にはCLTの上にコンクリートを厚さ4cmで施工して、重量床衝撃音の抑制を図った(写真:伊藤みろ)
図8 石こうボードは3枚重ね。柱の接合部と石こうボードによる耐火被覆のイメージ(資料: ActonOstryArchitects)

「木質感を得やすくするために木材を生かす方法もあるが、耐火実験によって性能を実証しなければならない。今回の事業では、そこまでの時間がなかった」。ブロックコモンズの設計を担当したアクトン・オストリー・アーキテクツのラッセル・アクトン氏は、木を室内の意匠として全面的に採用できなかった事情を、このように弁明する。

柱と柱の間の接合には鉄製のコネクターを用いている(図9)。このコネクターによって、鉛直方向の荷重を柱間で伝達する算段だ。さらに、コネクターは床材であるCLTを支える機能も備えている。

図9 柱間は金属性コネクターでつなぐ。このコネクターは鉛直荷重を伝えるだけでなく、図8中央のようにCLTを支える部材としても機能する。写真はモックアップ組み立て時のコネクター(写真:StructurlamProducts)

木材を多用するので、収縮による影響には配慮した。例えば、建設時の床を実際に設置すべき水平面よりもミリメートルのオーダーで少し高くして、時間経過に伴う収縮の影響を緩和している。具体的な対策としては、接合金物の鋼管上縁に厚さ1.5mmの薄板を取り付けた。一部の階では1.5mm厚の板を4枚挿入し、床の高さを調整した。

混構造ならRCとの差が小さい

混構造の選択は、コストの抑制にも寄与している。UBCでプロジェクト全体を管理するインフラストラクチャーデベロップ部門でマネジングディレクターを務めるジョン・メトラス氏は、次のように語る。

「全てを木質化するとコストがかさむ。実用面で考えれば、コンクリートコアの採用は妥当な選択だった」

設計費などを含む建設コストは5150万カナダドル(約44億5000万円)に及ぶ。UBCでは同様の建物をRC造で建てた場合に比べて8%ほど高いとみる。ただし、今回のプロジェクトでは、初めての事業を進めるためのコンサルティング費用なども要した。今後はこうしたコストを抑制できるので、木造を多用した混構造にはRC造と比べた価格競争力があるとUBCは見込む。

工費以上に魅力があるのが、工期だ。このプロジェクトでは、同規模の施設をRC造で建てる場合に比べて、工期を4カ月短縮した。これは、全体工期の2割弱に相当する。

工期を短縮できた大きな要因の1つは、効率良く作業するための工夫にある。ブロックコモンズでは、ユニット単位で建設できる単純な構造を採用。繰り返しの作業で容易に施工できるようにした。

もう1つは部材管理におけるICT(情報通信技術)の活用だ。プレハブ化された木材のパーツには、その設置位置などを読み込めるICタグを埋め込んでいる。現場で迷わず作業を進められる分、効率化を図りやすい。加えて、資材は当日に必要な分だけしか搬入しない。そのため、資材置き場なども最小化できる。

内部の意匠で木質感を十分に出せなかった分、外観では木質感を意識した。その1つが外装パネルだ(図10)。同パネルには木繊維を高圧ラミネートした材料を使用している。さらに、鉄骨造を採用した最上階は内装を木質化。1階には木質感を生かしたキャノピーを設ける。キャノピーではCLTを使う予定だ。

図10 外装パネルの表面には木繊維を高圧ラミネートした材料を使った。外観では木のイメージを強調した。2016年7月に撮影(写真:ActonOstryArchitects&UniversityofBritishColumbia)

想定耐用年数は100年以上

構造材をはじめ、ブロックコモンズでは、合計2233m3(立方メートル)の木材を用いる。木材利用によって削減できるCO2の排出量は2432トンに及ぶ。これは、カナダで511台の車が1年間に排出する量に相当する。

UBCはブロックコモンズの耐用年数を少なくとも100年と見込む。その間は、使用した木材内に蓄えられた炭素が固定化できるわけだ。このほか、RC造と比べた断熱性能の高さがもたらす空調エネルギー使用量の抑制にもUBCは期待を寄せる。

「シンプルで理にかなったデザインを実現した。バンクーバーのデベロッパーなども、経済性を保ちながら同様のプロジェクトを進められるだろう。木材の実用範囲が広いことを証明できた」。メトラス氏は今回のプロジェクトの手応えを、こんなふうに力説している。

(伊藤 みろ、Andreas Boettcher=メディアアートリーグ)

[日経アーキテクチュア2017年2月23日号の記事を再構成]

【参考】日経BP社は2017年6月22日、「日経アーキテクチュア Selection 世界の木造デザイン」を発行。国内外の木造建築の最新事例を紹介したほか、世界の木造建築をけん引する坂茂氏や隈研吾氏のインタビューも収録した。本記事も同書に収録している。

日経アーキテクチュア Selection 世界の木造デザイン

編者 :日経アーキテクチュア
出版 : 日経BP社
価格 : 2,592円 (税込み)

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