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選手の成長促す国際大会という「非日常」

「厳しい環境の中で選手は試合中にもぐんぐん伸びていく」――。そんなことを実感させてくれるのが、20歳以下の代表チームが集まって今、韓国で行われているU-20ワールドカップ(W杯)である。アジアの壁を越えて5大会ぶりに出場中の若き日本代表は1次リーグを1勝1分け1敗の勝ち点4でクリアし、決勝トーナメント(ベスト16)に進むことができた。

アジア王者の面目施す

1次リーグのイタリア戦で同点ゴールを決め喜ぶ堂安(左)=共同

30日に行われたベスト8を懸けた戦いはベネズエラに惜しくも延長戦で敗れた。最終予選を兼ねた昨年のU-19アジア選手権で優勝した日本はアジア王者として出場しているが、今回残した成績はその面目を施すものだったのではないか。初戦の南アフリカに逆転勝ちした後、得点源のFW小川(磐田)を1次リーグ2戦目途中からケガで欠きながら、ウルグアイ、イタリア、ベネズエラと引けを取らない戦いができた。健闘した選手と内山監督の頑張りを大いにたたえたいと思う。

10月にインドで開催される17歳以下のU-17W杯にも日本は出場するが、こちらも一戦でも多く、世界中のいろんなタイプの同世代の選手たちと競う経験を積んでもらいたいものである。

既にご存じのことと思うけれど、男子のサッカーではU-17とU-20のW杯が2年に1度開催され、さらにその上に原則23歳以下の選手による五輪と年齢制限のないW杯が4年に1度開催される。世界標準の何たるかを知れる大会が17歳から段階的に設けられているのは、アジア大陸の東端に位置する日本にとっては本当にありがたいことだろう。

これが欧州ならクラブチームでも代表チームでも陸続きの近隣諸国に気軽に出かけて、10代の頃からいろんなトーナメントに出場し国際経験を積むことができる。国際交流が日常と化しているわけだ。極東で四方を海に囲まれた日本はそうはいかない。それだけに年代別のW杯や五輪は貴重な国際経験を積む場として非常に重要な意味を持つのである。

日本サッカーが目指す最終的なゴールは年齢制限のない"大人"のW杯に出て、そこで優勝することである。その途方もない夢を実現するには、一にも二にも、世界で勝てる人材を育てる以外にない。それには一部のエリートを育てるだけでは無理で、欧州のように子供から大人まで、草の根のアマチュアからトップレベルのプロまで、この競技を心ゆくまで楽しめるピラミッド型のサッカー環境を構築するしかないと思っている。

ベネズエラとの決勝トーナメント1回戦で攻め込む久保(右)=共同

実際、日本サッカー協会の選手育成はそのような成功を目指して行われている。俗に「トレセン制度」と呼ばれるシステムもそうだ。

トレセンは47都道府県のサッカー協会に存在し、将来有望なタレントを各地域で発掘し、中央(代表チーム)に送り込むシステムといえる。47都道府県で「これは」と認められた素材は北海道や東北、関東、東海、関西など9つのブロック単位のトレセンに送られる。その中でもさらに優秀と認められると東日本、中部、西日本という3つのエリア単位のトレセンに送られる。

アンダーエージの日本代表たちはそういう「都道府県」「ブロック」「エリア」でふるいにかけられながら生き残った、エリート中のエリートということになる。

日本の場合、ナショナルチームの出発点はU-15からだ。U-17W杯出場を目指す戦いは15歳でアジアの1次予選が始まり、16歳で最終予選に相当するアジア選手権がある。それらをクリアするとU-17W杯に出られる。2年後の本大会出場を目指す、世界を見据えた強化は15歳から本格的に始まるので、専任の代表監督が置かれるのもU-15からになる。

そのU-15の代表メンバーを選んでいく作業は、先ほど述べたトレセン制度を利用してU-13、U-14のエリートをトレセンのコーチたちが指導するところから始まる。国際経験を積むのもこの年代からで、お隣の韓国にU-13とU-14のチームを相互に行き来させて切磋琢磨(せっさたくま)させている。

東京五輪でメダル狙うには

さて、韓国で開催中のU-20W杯が常にも増して注目されているのは、この世代がそのまま2020年の東京五輪を戦う主力になるからだ。東京五輪で、1968年メキシコ五輪以来のメダルを狙うには、この世代を徹底的に鍛えるしかない。

イタリア戦に臨む日本イレブン。メキシコ五輪以来のメダルを狙うにはこの世代を徹底的に鍛えるしかない=共同

かといって、今、韓国で戦っている選手たちが、そのまま東京五輪を戦うメンバーにスライドするわけでもない。選手の伸長を読み切ることは難しく、今回のメンバーがそのまま3年後の五輪代表である保証はまったくない。選手にケガはつきものだし、私生活などの問題で伸び悩むこともある。監督との相性もある。選手を供給する側としては、どんな難問が生じても対応できるように、いろんなタイプの選手、いろんな特長を持った選手を育てておく必要がある。

04年のアテネ五輪代表を率いた私の経験則に照らせば、五輪チームは大抵、2つのユースチーム(20歳以下)が合体してできるものだ。

アテネ五輪でいえば、代表チームは01年アルゼンチン大会組と03年アラブ首長国連邦(UAE)大会組が合流したものだった。前者はGK黒川貴矢、茂庭照幸、石川直宏、那須大亮、駒野友一、森崎浩司らが、後者は徳永悠平、菊地直哉、今野泰幸、平山相太らがいた。

U-20W杯の選には漏れたが、アテネ五輪代表になった81年生まれの田中マルクス闘莉王、阿部勇樹、松井大輔、高松大樹、82年生まれの田中達也、大久保嘉人も世代的にはアルゼンチン組といえる。この事実は20歳の時点で後れを取った選手が3年後に巻き返しを図ることは十分に可能であることを示している。

加えて、五輪代表には3人のオーバーエージ(23歳以上の選手)を加えることができる。18人の五輪代表のうち、3人のオーバーエージを使ったら残りは15人になる。その15人を2つのユースチーム(今回の17年韓国大会組と19年エクアドル大会組)でシェアするとしたら、今回の21人の韓国大会組の中で生き残れるのは6人、7人、8人? 同世代の"負け組"の逆襲や下の世代からの突き上げ。そんなこんなを考えたら、今現在、韓国で奮戦中の彼らも安閑とはしていられないだろう。

裏返せば、20年東京五輪の成功のためには、19年にエクアドルで開かれるU-20W杯に出られないようでは話にならないということである。19年のエクアドル大会に日本が出場し、そこで目覚ましい戦いを披露して、堂安(G大阪)ら先輩たちを下から突き上げることができて初めて熾烈(しれつ)な競争は促され、それを外向きの大きなパワーに変えられたときに東京五輪のメダルは現実性を帯びてくると思うのである。

下から突き上げる勢力を成長させるプランは着々と進行している。韓国で進行中のU-20W杯組とは別に「影の内閣」ともいうべきチームの活動は既に始まっている。フランスのトゥーロン国際大会(5月29日から6月10日)に送りこまれたチームのことだ。

トゥーロン国際に出場しているのは、U-20W杯韓国大会の選外になったU-19の選手に、19年のU-20W杯エクアドル大会で主力に育つことを期待されているU-18のメンバーを交ぜたもの。チームを率いる影山雅永氏はU-18の日本代表監督である。選手にすれば、トゥーロンから東京五輪を目指す第一歩を刻むことになる。

67年に第1回大会が開催されたトゥーロン国際は、若き日のクリスティアーノ・ロナルド(現レアル・マドリード)も出場した由緒ある大会だ。若手の登竜門として、欧州の大勢のスカウトが集まることでも知られる。今回日本はキューバ、アンゴラ、イングランドとA組で戦い、初戦はキューバに1-1で引き分けた。

この大会は開催年によって出場の年齢制限が微妙に変わる。昨年はリオデジャネイロ五輪を見据えてU-22の大会として行われ、日本は手倉森誠・五輪代表監督(当時)がチームを連れて参加した。今年はU-20の大会で地元のフランスはもちろんブラジルも出てくる。ブラジルはU-20W杯韓国大会の出場を逃したことで、こちらをこの世代の強化に充ててくるという。

トゥーロン国際が終わると影山監督はその足でポルトガルに飛ぶ。首都リスボンでU-18の日本代表が参加する国際トーナメントがあるからだ。欧州のオフシーズンにあたるこの時期、ユース年代のトーナメントがあちこちで開かれる。日本からすると、うらやましい環境だが、そういうものに積極的に乗っかって、こちらも日本の少年たちを鍛えるわけだ。

気づきは早ければ早いほどいい

私が、若い選手の国際大会の出場を多とするのは、こういう大会は彼らの将来を「見える化」するためにあるといっても過言ではないからだ。

中山(右)らのプレーを見ると、Jリーグの効用をはっきり見て取れる=共同

ある程度の指導経験を積めば、10代の目ぼしい選手のそれぞれの到達点はうっすらと見えるものだ。「この時点でこれくらいのことができるのなら、将来的にこれくらいまではいけるだろう」というような。その輪郭をもっとはっきりさせるのが国際大会である。

日本国内で同世代の日本人同士で戦っているだけでは見えない差が、国際舞台に立つとはっきり見えてくる。選手自身も気づきを得ることができる。そこで諦める者と、その差を埋めようと努力する者とでは未来に相当な開きが生まれる。

「鉄は熱いうちに打て」ではないが、気づきは早ければ早いほどいい。長所は伸ばし、足りないところは頑張って埋めようともがく。いろんな国際経験を積んで自分を成長させたことにプライドを持てる者だけが国際舞台で戦えると私は思っている。

そういう意味で、U-20W杯韓国大会の第2戦で日本はウルグアイに敗れたが、あれなども悲観するようなことではない。あの、したたかなウルグアイと戦ったことで、今まで見えなかったことが見えた、気づきの機会を得たと前向きに捉えればいいのだ。国内の小さなコップの中の争いでは気づかないことに、気づいてもらうために用意された"非日常"なのだから。心ある選手は、きっといろいろなことを考え始めたはずである。

U-20W杯を見ていると、落ち着いて本来の力を発揮している選手は堂安にしても冨安(福岡)や中山(柏)にしても、10代でJリーグで使われているプレーヤーが多い。自分よりレベルの高いところで必死に背伸びしながら戦うことで力が伸びているのだろう。そこにJリーグの効用をはっきり見て取れる。

残念なことに、Jリーグで10代の選手が活躍できる余地はまだまだ小さい。数でいえば、10代の選手の全体の1%くらいではないか。残りの99%の10代の選手をどう鍛えていくか。私は、むしろそちらが気になっている。

彼らの多くはJクラブに籍はあっても試合になるとベンチ外に置かれ、トップレベルの試合を経験することはほとんどない。数でいえば圧倒的多数派の高校や大学の部活組は、こなす試合数は多いけれど、試合のレベルはJリーグに及ばない。この多数派の質を少しでも改善できたら、日本サッカーのレベルアップに間違いなくつながる。彼らに国際経験という非日常的な刺激を与えることは、成長を促す有効な手立てといえる。

(サッカー解説者)

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